両目よ
「あら、ひろよしさん目をどうかした?」
ヤスミおばちゃんがパパに訊いたわ。
ヤスミおばちゃんは目敏いわね。
パパの目は細いから、あけてるか閉じてるか、わかりにくいのに。
「いいえ、別に。ただ右目のまばたきをしただけだから、大丈夫ですよ」
ニッタラ嘲って、パパが答えたわ。
あの嘲いかたって、ママが良くする嘲いかたよね。
まぁ、しかたないわよね。
長年連れ添った夫婦って似てくるっていうものね。
でもパパは両目でしっかりまばたきをしてたわよ。
「さぁ、上がった、上がった」
痩身イケメン親父急かされて、あたし達は九ようもんに入ったの。
通されたのは、いつもの貴賓室やらビップルームやらの備品庫じゃなくて、居間みたいな所よ。
畳敷きで丸いローテーブル。
座布団に座椅子が4組。
壁にはディスプレイモニター。
窓には花柄みたいなののカーテンよ。
この時季にポインセチアの柄はどうなのかしら?
「どうだい、渾身のアガーのコースだ」
痩身イケメン親父が、ローテーブルに、4つのボールを並べたわ。
中身は透明感の全く無いゼリーみたいよ。
琥珀色、翡翠色、群青色、百々目色。
半分以上は食欲を無くしそうな色合いだわ。
「はい」
ヤスミおばちゃんが、紙お手拭きとカレースプーンをあたしに寄越したわ。
「いや、ほら、キュゥウッとのほうが」
あら、パパは変なことを言って受け取らないわね。
あ、あたしに取り皿が無いわね?
ヤスミおばちゃんもママと同い年だから、もう初老よ。
でも、もうボケが始まるにしては時期尚早よね?




