第二十四話 状況報告
「―――なるほど、そんなことがあったのですか。……それは大変だったと思います。今日くらいはゆっくりと休んで溜まった疲れを癒してくださいね」
「ありがとうございます、ダスベルトさん。それでは御言葉に甘えさせてもらいます」
アオイとカーミラは自分達のギルド「星々の加護」に帰ってきていた。
当初アオイが立てていた予定でもそれほど長居するつもりは無かったのだが、勇者達との遭遇などの思わぬアクシデントが発生したために、あの後は急遽切り上げて帰ってきたという訳だ。
そしてちょうど今は、ダスベルトに状況を簡単に報告し終わったところだ。
「…疲れたぁ。私、ちょっと休んでくるねぇ…」
そう言ってカーミラは眠そうに目を擦った。
さすがにこれ以上は限界なのだろうなと判断したアオイはカーミラに頷きかけ、そして礼を述べた。
「あ、うん分かった。……カーミラ、手伝ってくれてありがとう。俺一人だったら今頃どうなっていたか……。本当にいくら感謝しても足りないくらいだよ」
「え?あぁいいよいいよ、私がやりたくてやっただけなんだからさ。…それじゃあ、またなにかあった時は遠慮なく誘ってね!」
そう言ってカーミラは欠伸を噛み殺しながら自分の部屋へと戻っていった。
「――いやぁ、それにしてもあれは流石に予想外でしたよ、まさか本当に勇者が来るなんて」
そういってアオイは苦笑を浮かべ、珈琲のような飲み物を一口啜る。味は元の世界の珈琲とほとんど同じであることに軽く驚くが、そういえばこの世界にはコーラもあったということを思い出したアオイは話の方に意識を戻す。
アオイとカーミラはデルポイで勇者達に出会い、そして無事撃退――あれが撃退と言えるのかは甚だ疑問ではあるが――することに成功した。
だがいくつか解せない事がある。
何故彼らはあれほどの好機を前に、積極的な攻撃を仕掛けてこなかったのか。
アオイと獅子尾のあの戦闘を見た者は、あれが遊びや冗談の類いではなく真剣な戦い、言ってしまえば殺し合いだということをすぐに分かったはずだ。そこからアオイと獅子尾は味方同士ではないと判断することが出来るだろう。
そこまで状況を把握することが出来たならば、後はただお互いが消耗するのを待つか、どちらか片方が力尽きるのを待つだけだ。後の事は言わずもがな、残った敵を四人で囲んで倒すなりすればいい。
まして勇者とは相当な実力者だと聞く。今回はその実力をほとんど確認することは出来なかったが、それほどの者達が自分達にとって有利に働く状況をみすみす捨てるような真似などするはずがない。
何か策を考えていたのだろうか?
だが、いくら考えても納得のいく結論が見えてこないアオイは、一旦考えるのを保留にしておくことにした。
さて。ということで、ダスベルトには話しておかなければならないことは大方話終えた。
だがあと一つ、言うべきか言わざるべきか悩んでいる事がある。別に話すと不味い事というわけではないが、正直アオイ自身もどう説明していいのか分からないため迷っている。
「では今回は、その勇者達に阻まれ残念ながら勧誘は失敗してしまった、ということでいいですか?」
と、実にタイミングが良い。今考えていたことは丁度その、勧誘の成功不成功の事なのだ。
そしてダスベルトのその考えは半分正解であり半分は間違いだ。
「そうなんですけど、そうじゃないというか何というか……実はその後にですね……」
上手く説明出来る自信がないアオイは、おずおずと起こった出来事の話を始めた。
◆ ◆ ◆
「―――そ、そういえば、俺に仲間になってほしいんだったよな?」
殴り掛かろうとするアオイを手で制しながら、獅子尾は慌てて思い出したように言った。
「あぁ…そういえばそうだったね。けど、もういいや。プルトーンが言うにはあんたを含めて二人いるらしいから、その内のもう一人に仲間になってもらう」
アオイは淡々とこう話す。
「まあまあ待て待て。……俺はさっきカーミラさんを懸けてお前と戦ったよな?俺が負けたらお前の仲間になってやる、という約束をして」
「うん」
「そして俺はその勝負に負けた。…俺の切り札があんな簡単に打ち消されちゃどうしようもないからな。……つまり!俺はお前の仲間になる。一度決めた約束を破るわけにはいかないからな。だが、お前の仲間になるにあたり一つだけ条件がある」
「……条件?」
アオイが首を傾げる。それに応えるように獅子尾は首を縦に振った。
「そう、条件だ。分かってるだろうが、俺はこのギルド『太陽の守護者』のギルドマスターだ。こいつらを置いてここから離れるわけにはいかない。何かあったときには協力するが、それ以外は俺はここにいる」
獅子尾からの予想外の条件に顔を歪めるアオイ。
「何かあった時って……。もしその時が来たとして、連絡を取る手段がなかったらどうしようもないじゃん」
「一応言っておくが、俺は『仲間になる』とは言ったが『お前についていく』とは言っていないんだが?」
「ききき汚ったねぇ!それは汚ぇぞ!」
「少し落ち着け。別に仲間にならないとは言ってないだろ。……そうだ、ちょっと待ってろ」
そう言って獅子尾はギルドの建物の中へと入っていく。しばらくすると右手に小さな金属板のようなものを持って戻ってきた。
「ほらこれだ。なにかあったらこれを使って俺を呼べ」
獅子尾はそう言って、右手に持った物をアオイに渡してきた。その差し出された物にアオイはどこかで見覚えがあるような気がした。アオイは獅子尾から受け取り、そしてその受け取った物をまじまじと見て眉を潜めた。
「これ……完全にスマホじゃん」
形状は完全にiPhoneのそれ。電源ボタンの付いている場所も同じで、液晶画面の裏には齧られた痕のあるリンゴマーク。某大企業のロゴマークだ。
「いや、お前の気持ちはよくわかるが、これはれっきとした魔道具、アーティファクトと呼ばれている物だ」
「魔道具ねぇ……。異世界やらファンタジーやらでお馴染みのあれですな。けど、現代科学の結晶がこっちの世界では魔道具ですか、そうですか。ふーん」
アオイは冷ややかな目で手に持ったiPhoneもどきを眺めながらそう言った。
「何かあった時はそれを使え。なるべく急いで駆けつけるから―――」
◆ ◆ ◆
「というわけで、仲間になったのかと言われるとちょっと微妙なところなんです」
「ふむ、そういうことでしたか」
「……っと、これがその魔道具です。どうですか?通信用の魔道具で間違いないのでしょうか?」
話を終えたアオイはズボンのポケットからiPhoneもどきを取り出し、ダスベルトに渡した。
「では少し見てみましょう。……うーむ。私はこれまで数多くの魔道具を見てきましたが、こんな形の魔道具を見るのは初めてです。世界にはまだこんなものがあったのですね……」
ダスベルトはしばらくの間スマホを様々な角度から眺めたりしていたが、自分が今まで見てきた魔道具のどれとも当てはまらないことが確認出来たのだろう、ある程度見たあとはすぐに返してきた。
「……では、俺もちょっと休んできます」
「分かりました、ゆっくりお休みになってくださいね」
そうして部屋に戻ったアオイはベッドに寝転がる。すると今までの溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきた。その睡魔の波に飲み込まれたアオイはものの数秒で寝息を立て始めるのだった。




