第十七話 『太陽の守護者』
さっきの大通りほどではないが、結構な人が行き交う道に面したある建物の前まで着いたところで地図を見ていた顔を上げる。
「よし着いた。ここがギルドだ・・・な?あれ、何だこれ」
アオイは目の前の建物をポカンと口を開けて見つめ、そして思わず地図と建物を交互に見る。
周りの建物の外壁が赤煉瓦なのに対し、この建物は白い煉瓦を外壁に使用しておりどこか爽やかな印象を受ける。そして、この建物は他の建物よりもふた回りほど大きい。
ここまでは特に問題はない。
では何に驚いたのかというと、地図上ではこの建物が『ギルド』と表記されているのだが、どういうわけか入り口の前には『喫茶店』とだけ書かれた小さな看板が掲げられている。
(もしかしたら魔法で外観を変えてるって可能性もあるしなぁ・・・とりあえず入ってみるか)
アオイは木目調のアンティークなドアのレバータイプのノブを捻り、恐る恐る開く。カランカランと喫茶店によくあるドアベルが店内に鳴り響く。
「いらっしゃいませ」
すると店のカウンターの奥にいる店主と思われるちょび髭を生やした落ち着いた雰囲気のある中年男性が挨拶してきた。
とりあえず入り口の前で立ちっぱなしもあれなので、入り口から一番近い正面から見て左端のカウンター席に座って周りを見てみる。
わりと人気の店なのだろうか、大繁盛とまではいかないがたくさんの客が入っている。
そしてこの店にはカウンター席とテーブル席の二種類があるようなのだが、ほとんどの客がテーブル席の方に座っていた。
カウンター席はアオイが今座っている席を含めて七席あるのだが、座っているのはアオイの他に若い男性がカウンター席の右端に一人だけだ。アオイは何故その男性以外誰もカウンターに座ろうとしないのか最初は不思議に思ったが、その男の格好を見て納得がいった。
その男は金髪に耳に大きなピアスをつけ、服は太陽の柄の派手なアロハシャツにお揃いの柄の短パン。そしてビーチサンダルのようなものを履いているのが見えた。
(あ、この人はヤバイ。こういう人と関わったらとんでもないことになる)
アオイは何か確信めいたものを感じた。
(早くギルドの場所を聞いて逃げよう)
「あのぅ・・・すみません」
アオイは控えめに手を上げて店主に声をかける。店主はすぐに気づいたらしくアオイのそばに近づいてくる。
「はい、ご注文は何になさいますか?」
流石にここで何の注文もせずに話を聞くだけというのは駄目だろうな、と思ったアオイ。金もいくらかダスベルトに借りてきていたので飲み物を一杯だけ頼むことにした。慌てて近くにあったメニューを見て注文を決める。
「あの、それじゃあ、このコーラを・・・えっ、コーラがあるんですか?」
メニュー欄に見覚えのある飲み物の名前を見つけたアオイは思わず顔を上げ、目を丸くして店主を見る。
「えぇ、ありますよ。ではコーラがお一つでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします・・・あと、今ちょっと道をお尋ねしてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんです。お客さんはどこに向かいたいのですか?」
「実はここらへんにあるはずの『ギルド』に行く途中で道が分からなくなってしまって・・・」
アオイが状況を説明していると、突如店主の顔色が変わった。
「今・・・『ギルド』と言いましたか?」
店主が『ギルド』という言葉を言った瞬間、店内がピタリと静まり返りさっきまでの賑やかな空気が一気に張り詰める。
アオイの背筋を冷たいものが走る。
「えっ、あの、俺はただギルドの場所を・・・」
「おい、お前」
と、ここで誰かに声をかけられて後ろから肩を叩かれる。アオイはロボットのようにぎこちなく振り向いた。
アオイの目の前にいたのは、さっきカウンター席に座っていたはずのあのアロハシャツの男。男は物凄い形相でアオイを睨み付けてくる。
「は、はい・・・何でしょうか・・・」
「お前・・・ここに何をしに来た」
「いや、何をしにって・・・ただギルドの場所を聞きにきただけ・・・」
ここまで話したところで男にいきなり腕を凄まじい力で掴まれる。アオイは必死に振りほどこうとするが、相手の掴む力が強すぎるため全く振りほどけない。
「待って!何か誤解してるって!話し合おう!そうすれば分かり合え・・・痛ててててて!!!」
「正直に言え。お前はこのギルドに何をしに来た」
「・・・はっ?ここがギルドなの?マジで?」
アオイは間の抜けた声で聞き返す。
男はギリッと歯を噛み締め、血走った目を見開きアオイを睨み付けると絶叫した。
「っ惚けるなああぁぁぁ!!!」
その瞬間、アオイはおもちゃのように軽々と投げ飛ばされ全身を喫茶店の壁に叩きつけられる。しかし、それでも勢いは止まらず喫茶店の壁を突き破り、向かいの建物の壁にめり込んだところでようやく止まった。
通りにいた市民の人々は突然のことにパニックになり、悲鳴や叫び声を上げながら逃げ惑っている。
男も喫茶店の壁に空いた大きな穴を通って外に出てきた。
男は短パンのポケットに手を突っ込んでアオイに歩み寄ってくる。
「どうだ、話す気になったか?」
しかし、アオイは男の言葉には全く反応せず壁にめり込んだままピクリともしない。男は大きく舌打ちをした。
「クソ・・・あっさり死んじまいやがった。これじゃあ聞き出したい情報も聞けねぇじゃんかよ」
男はまた舌打ちをすると、くるりと踵を返し喫茶店に戻っていこうとした。しかしその時、後ろから大きな溜め息が一つ聞こえてきた。
男はニヤリと笑みを浮かべながら後ろに振り返る。
「そう来なくちゃ面白くないよなぁ?この程度で死んでもらっちゃ困るんだよ」
男が振り向くと、壁から抜け出したアオイが服についた土埃を手で払っているところだった。アオイは手で服を払いながら男に訊いた。
「・・・あのさ、一つ聞いても良い?」
アオイは手で服を払いながら男に訊いた。
「ふっ、自分の死を悟ったのか?いいぜ、どんな質問も答えてやるよ。それを冥土の土産にでもするんだな」
「じゃあ聞くけど・・・もしかして君、ギルドマスターじゃないよね?」
「最期の質問がそんなので良いのか?・・・あぁその通りさ。俺はギルド『太陽の守護者』のマスター、獅子尾 太陽だ」
それを聞いたアオイは項垂れながら頭をポリポリと掻き、ボソリと溜め息混じりに呟く。
「やっぱりそうだったかぁ・・・」




