第十八話 獅子尾 太陽
「やっぱりそうだったかぁ・・・」
アオイはゆっくりと俯いていた顔を上げ、ほんの一瞬だけ空を見上げるとすぐに獅子尾に視線を戻す。
彼は依然として鋭い眼光でこちらを睨み付けている。その吸い込まれそうなほどの黒い瞳の奥には、アオイに対する明らかな敵意や殺意が宿っていた。
びびっていてはこのまま先に進まないと、アオイは自らを無理やり奮い立たせ話を切り出した。
「俺は別に獅子尾さんと喧嘩をするためにきたわけじゃないんだ。俺はただ、デルポイにあるギルドのマスターが見たこともない魔法を使うっていう噂を聞いたんで、もしかしたら『天界の魔法』か『太陽の魔法』のどっちかなんじゃないのかなと思ってここまで来たんだ。そんで、もし当たってたら何とか仲間になってもらおうと」
「・・・お前、この魔法の事はどこまで知ってるんだ?」
すると獅子尾はこう訊いてきた。この絶好のチャンスにアオイは思わず強張った表情を緩めてしまうところだった。
「そんなこと言っちゃったら、自分が魔法が使えるって事を認めたも同然だよ?」
「・・・俺は!!お前はどこまで知ってんだって訊いてんだよ!!」
すると獅子尾は突然激昂し、目を剥いて怒鳴った。ここまでの反応は予想外だったアオイは、後ろに軽くのけぞり困惑した表情をみせる。
「えぇ?・・・えーと、この二つの魔法については、俺と同じ世界から来た人が使ってるって事と、すごい目立つ魔法ってぐらいしか知らないけど・・・」
眼球を左右に泳がせ若干の動揺を見せながらも、アオイは答えた。
「俺と・・・同じ世界からだと?!ということはお前はまさか王国の・・・!そんな…こんな早く王国が動き出すなんて・・・」
驚いた表情を見せた獅子尾だったが、すぐに考え込むように目を伏せた。
と、アオイはここであることを思い出した。それはこの世界で暴虐の限りを尽くしているという勇者についてだ。
今いるこの世界では、別の世界――アオイが元いた世界――から来た者は勇者だという認識が、広く一般に定着している・・・と、ついこの前ダスベルトに教えてもらった。恐らくは獅子尾も、その一般の例外ではないだろう。
つまり獅子尾は今、アオイの事を勇者か王国の手先だと思い込んでいるということだ。
これに焦ったアオイは、慌てて制するように両手を前に突き出すと誤解を解くために説明し始めた。
「ちょっと待ってちょっと待って!俺は勇者でも王国の手先でもないから!俺はただプルトーンに『太陽の――」
「うるせぇ!!」
しかし、事情の説明を試みるが途中で獅子尾に遮られてしまう。獅子尾は短パンのポケットに突っ込んでいた両手の内右手だけを取り出すと、人差し指をアオイに突きつけ乱暴に言い放った。
「馬鹿だろお前!いきなり現れた奴が『俺は敵じゃない』とか言っても『はい、そうですか』なんて簡単に信じるわけないだろうが!」
押し黙るアオイを無言で睨み付ける獅子尾。異様な静寂が二人を包み込む。
しばらくの間二人は睨み合い、相手の出方を伺っていたが、先に動いたのは獅子尾だった。
獅子尾は一度大きく舌打ちをすると、長い溜め息をつき目線をアオイから外した。そうして顔を軽く下へ向け俯く。
「けど・・・お前が勇者じゃないってのは嘘じゃなさそうだな」
獅子尾は金髪の頭を不機嫌そうにグシャグシャと掻き毟る。
「・・・え?マジで?俺が味方だって本当に信じてくれたの?」
「おいおい勘違いするなよ?俺はお前を味方だと認めちゃいない。あくまでお前が勇者じゃないってことが分かっただけだ。・・・相手が本物の勇者だったら、こんなのんびり話しなんかさせてもらえねぇしな」
獅子尾は続ける。
「・・・お前が探してる『太陽の魔法』の使い手は俺だ。だが俺は――お前の仲間にはならない」




