第十三話 隠し事なんてそう簡単に出来るものじゃない
それからアオイ達は再びギルドに戻ってきていた。
「それでは改めまして・・・よろしくお願いします、アオイさん」
ダスベルトは、アオイに向かって丁寧にお辞儀をした。
「よろしくお願いします。・・・あの、それでなんですが、ギルドに入ったら寝泊まりする場所を貸してもらえると聞いたのですが、本当ですか?」
アオイは何故か申し訳なさそうに尋ねる。
「えぇ、本当です。それでは後でカーミラに案内させましょう」
「すみません、ありがとうございます」
「他に何か質問はございますか?」
「・・・そういえば戦ってる最中、伝説がどうとか言ってましたけど・・・それについて聞いてもいいですか?」
アオイは腕を組んで、何か考えているような素振りをしながらダスベルトに言った。
「分かりました。では少々長くなりますが、大丈夫ですか?」
アオイはこくりと頷いた。
「この世界には遥か昔、古から語り継がれている話があります。・・・カーミラもあの『四種族の争いの話』は知っているでしょう?」
「あーあのお話かぁ。うん、知ってるけど・・・。だけどあれは昔の人が作ったおとぎ話なんじゃ・・・」
アオイの横にいたカーミラが、不思議そうに尋ねた。
「そう、今まではずっとおとぎ話だと考えられてきました。しかし、あれはおとぎ話などではなかった。あの話は、間違いなく実際に起こったことだったのです。それを今日、私は確信しました」
そのまま話を続けてしまいそうなダスベルトを、アオイは慌てて制する。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺はその『四種族の争いの話』を聞いたことがないんです。あの、できれば一から説明してもらえると助かります」
「おっと、そうでしたか。これはすみません。では初めから説明していきます。・・・アオイさんは今のこの世界に、どんな種族がいるか分かりますか?」
そう言われてアオイの脳裏にプルトーンと魔王軍のアスファルが浮かび上がる。彼らは人族、魔族がどうとか言っていたな、ということを思い出した。
「確か・・・魔族と人族がいたはずです・・・」
「そう。今の世界の種族を大きく分けると、その二種族になります。・・・ですが、伝説にはあと二種族が出てくるのです。その名も『オリンポス神族』と『タイタン神族』・・・この二種族は強大な力を持っていました。中でも『タイタン神族』は他の種族が束になっても勝てないほどの力、そして彼らだけが持っていた特殊な能力を用いて、彼らは世界を支配しました」
アオイは腕組みをしたまま、じっとダスベルトの話を聞いていた。カーミラも話を聞いて、時折頷きながら自分の知っている物語と相違ないことを確認している様だった。
「その後しばらくは、彼らタイタン神族に歯向かうものもなく、平和な時代が続きました。未来永劫この平和が続くものと思われていましたが、それは突如終わりを迎えました。----タイタン神族が他の三種族に突然、攻撃を始めたのです」
「えぇ?今までずっと世界の平和を守り続けてきた奴等が、急に攻撃?そんな世界を滅ぼすようなことを?」
アオイはいまいち納得出来ないのか、腕を組んだまま眉間に皺を寄せる。
「さぁそこまでは・・・。当時の文献にも、ここのところがはっきりと書かれたものが一つもないのです。・・・私もここは少し不自然だと思います」
「んー、何か怪しいなぁ・・・。それで、その後はどうなったんですか?」
「その後は、どの種族も攻撃されて黙っている訳もなく、オリンポス神族、魔族、そして人族の三種族が手を組んで連合軍として、タイタン神族と戦争を始めました。・・・ですが、束になっても力の差は歴然。勝敗は決したかと思われたその時、連合軍に救世主達が現れます」
「救世主達?」
アオイは軽く首をかしげる。
「はい、その救世主達とは、オリンポス神族の中でも極めて優れた魔導師達十二人のことです。彼らの活躍のおかげで形勢は一気に逆転、タイタン神族を滅ぼすことが出来て何とか三種族全滅の危機は去りました」
「世界を救ったオリンポス神族の十二人は『オリンポス十二神』と呼ばれるようになり、三種族は彼ら十二人を英雄として崇めるようになりました。今でも、『オリンポス十二神』は世界の何処かで平和を守ってくれているでしょう---。と、簡単に説明するとこんな感じです」
「なるほど・・・けど、オリンポス神族なんて種族はこの世界にいないんですよね?」
アオイがこう尋ねると、ダスベルトは大きく頷いた。
「そうなのです。タイタン神族、オリンポス神族が実際に存在したという証拠は、一切見つかっていません。だから、今まではおとぎ話だとずっと思われていたのです。ですが・・・」
ダスベルトは一呼吸置いてから、こう言った。
「・・・禁忌の魔法である『冥界の魔法』を扱う者が出てきてしまっては、伝説が事実であったと認めざるを得ません」
「・・・えっ?ちょっと、それ、言っちゃうの?」
まさかカーミラが聞いている前で、それを言うとは思っていなかったアオイ。話の流れ的にも仕方がないことだ、とは分かってはいるが動揺を隠すことが出来ない。
するとカーミラは、隣のアオイに不思議そうな顔を向け、こう言った。
「ねぇ、つまりアオイがさっき使ってた魔法が、『冥界の魔法』ってことなの?」
ここで『冥界の魔法』を使えることがバレたら大変なことになりそうだ、と思ったアオイは何とか誤魔化そうとする。
「しっ、知らないなぁ?『冥界の魔法』なんて初めて聞いたし?さーっぱり分かんないなぁ?」
声が上ずって嘘がバレバレだが、もはやそれどころではない。
そんなアオイに、ダスベルトはにこやかに微笑みかける。
「大丈夫ですよアオイさん、カーミラは秘密を人に言ったりするようなことは絶対にしない子ですから」
それにと、ダスベルトは続ける。
「私の他にも、一人くらいは協力者がいた方がいいでしょう?」
「それはそうでしょうけど・・・」
「いいなー『冥界の魔法』」
いまいち納得していないアオイの横から、のんびりとした声が聞こえてきた。これに驚いたアオイは思わずカーミラに尋ねていた。
「カーミラ・・・『冥界の魔法』は禁忌とされてる魔法なんだよ?何かこう・・・怖がったりしないの?」
「何を怖がるの?だって、『冥界の魔法』ってカッコイイじゃん」
目をキラキラさせながら楽しそうにこう言うカーミラに、一瞬目を丸くするがすぐに目線を落とし溜め息をついた。
「『カッコイイ』ね・・・、なんでだろう・・・今ので疲れがどっと来た・・・」
そんな二人にダスベルトは自分のスキンヘッドの頭を触りながら優しそうな笑みを浮かべるが、すぐに真剣な顔に戻った。
「では話を元に戻しましょう。『冥界神プルトーン』・・・アオイさん、あなたはこの名前に聞き覚えがあるはずです」
ダスベルトは続ける。
「彼は『オリンポス十二神』の中でもトップクラスの実力を持った魔導師であり、かつ禁忌とされている魔法の『冥界の魔法』を作り出した人物でもあります。その彼が認めた人物にのみ『冥界の魔法』を使うことが許される、と伝説にはあるのです。つまり・・・」
(伝説の魔導師・・・?あの丸っこいのが?)
アオイの脳内に、以前会ったプルトーンの姿が浮かぶ。その時はそこまですごい力を持っているようには見えなかったが、そんなに凄い奴だったのかと驚き、目を見開いた。
ダスベルトは若干の間を空けると、アオイの目を力強く見つめてこう言った。
「・・・プルトーンは実在する。そしてアオイさんはそのプルトーンに『冥界の魔法』を与えられた。・・・違いますか?」
アオイは力無く項垂れながら、コクコクと何度か頷いた。
ダスベルトは全く驚いたような様子は見せず、一度大きく頷いた。
「なるほど、やはりそうでしたか。・・・では次に---」
「あの、今日はこのくらいで勘弁してもらえないでしょうか・・・」
すぐにでも次の質問に入りたそうなダスベルトの言葉を遮り、アオイは疲れきった顔で言った。
「おっと、そうですね。ではすぐにお部屋に案内させますので、今日はそこでゆっくりお休みください」
「はーい、じゃあアオイ。私についてきてね~」
上げた右手をヒラヒラさせたカーミラのその後を、アオイはおぼつかない足取りでついていく。
案内された部屋には小さいながらもちゃんとしたキッチンがあり、さらにシングルベッドや机、椅子、そして茶色の木製タンスも置かれた八畳ほどのシンプルな部屋があった。
「はーい、ここが今からアオイの部屋になりまーす。サイズが合うか分かんないけど、服もそこのタンスの中に用意されてるから好きに使ってね」
「あ、ありがとう・・・」
そうしてカーミラが部屋を後にしたことを確認すると、アオイはベッドに倒れこんだ。
ふかふかのベッドの感触を背中いっぱいに感じながら、アオイはぼぅと天井を見つめながら考える。
(まだ、頭が少し混乱してるなぁ。・・・プルトーンが伝説の英雄?・・・オリンポス?タイタン?・・・なんだそりゃ?それに・・・・・・)
何とかこのごちゃごちゃした思考を整理しようとはするが、蓄積された極度の疲労がそれを許さない。そしてその疲労が、今度は強烈な睡魔に変わる。
襲い来る睡魔にアオイは抵抗できず、次第に深い眠りへと落ちていったのだった。




