第十一話 魔導師同士の決闘
「あんた、何で俺の名前を知ってんの・・・?」
サングラスの奥にあるダスベルトの目をしっかりと見据えたまま、アオイは訊いた。
「私は相手の心を読む魔法を使うことが出来ます。その魔法を使えば名前を知ることくらいは造作もありません」
ダスベルトはアオイの目を真っ直ぐに見ながら言った。
「素性の知れない方をギルドの中に簡単に入れるわけにはいかないのです。そのためにあなたの心の中を調べさせていただきました」
「つまり・・・俺の・・・」
アオイは緊張で言葉を詰まらせる。
だが、ダスベルトには何が言いたいのか分かったらしく、意味深な笑みを口元に浮かべながら答えた。
「えぇ、知っています。あなたの、人には絶対に言えない秘密、をね」
(うわ、これ絶対バレてるじゃん・・・)
アオイは膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪えて話を続ける。
「・・・一体いつの間に?」
「あなたがこのギルド内に足を踏み入れた瞬間、です。アオイさん、あなた達はそこの入り口から中に入ってきましたよね?」
ダスベルトはそう言ってアオイが入ってきた扉を指差した。
アオイは無言でこくりと頷く。
「実はその入り口の足元には、魔法陣が仕掛けられているのです。このギルドに所属している者以外がその魔法陣を踏むと--」
「--あなたに心を読まれる、と。そういうことですか」
アオイは目を伏せ、顔を歪めた。
ダスベルトは大きく頷いた。
「はい。ですが、それだけではありません。敵意や殺気、呪いなどを持った者が踏めば反応するようになっています。ですが、アオイさんが踏んだ時には反応はありませんでした」
「あ、そですか・・・」
アオイが項垂れ深く溜め息をついた。と、ここで誰かの声が聞こえてきた。
「ねぇマスター?ちょっといい?」
それはカーミラだった。アオイはしばらく黙って話を聞いていた。
「えぇ、いいですよ。どうしました?」
「アオイをギルドに入れることって出来る?」
アオイは驚いて、バッと顔を上げた。
「私はいいですよ?ただ、アオイさんにその意志があれば、ですがね。・・・どうですか?アオイさん?」
ダスベルトはこう言っているが、『冥界の魔法』の事がバレてしまった以上、逃げ出す訳にもいかない。
「・・・ギルドに参加させてください」
もはやこれしか、今のアオイには思いつかなかった。
「分かりました。・・・ではその前に一度、あなたの実力を確かめてみたいのですが、よろしいですか?」
「あぁ、そうですか。分かりました」
「では場所を変えましょう。アオイさん、カーミラ。私の手を握ってください」
ダスベルトは二人の前にそれぞれ手を差し出した。
二人は目の前のダスベルトの手を握る。
「それでは参りましょう・・・」
すると足元に大きな魔法陣が展開される。
そして瞬きをする暇もないほどの一瞬のうちに、辺りの景色が切り替わっていた。
「うわっ!どこだここ?!」
「すごーい!森の中だ!」
アオイとカーミラは目を丸くして辺りを見回す。
周囲には何もないがかなりの広さがあり、遠くの方に見えるのは山並みと木々ばかり。そして辺りは、静寂に包まれている。
「ここはとある森の奥、とだけ言っておきましょう。ここでなら、思いきり闘っても誰にも迷惑がかかりません」
それを聞いたアオイは、目を大きく見開き何度か瞬きをした。
「は?闘う?・・・ちょっと待ってください。実力を確かめるだけじゃないんですか?」
「実際に闘ってみないことには、相手の本当の実力などは分かりませんからね。遠慮は要りませんよ、全力できてください。私も本気でいきますので」
そう言ったダスベルトの目は、真剣そのものであった。
どうやら闘わなければ許してもらえそうにない、とアオイは直感的にそう感じた。
「じゃあ私は少し離れて見てよーっと」
カーミラは楽しそうにスキップをしながら離れていき、かなり遠くの切り株に腰かけた。
どうして楽しそうなんだあいつは、とアオイは内心毒づく。
「いや、けどちょっと待って。俺攻撃・・・」
攻撃が出来る魔法を一つも覚えていない、とアオイが言いかけたその時だった。
「『フラメス』ッ!」
ダスベルトは最後まで聞くことなく、魔法を放ってきた。
アオイの全身を包み込めるほどの大きな火の球が、凄まじいスピードでアオイに迫ってくる。
カーミラがアオイを助けてくれた時のフラメスも凄い威力だった。しかし、今回のダスベルトの『フラメス』は威力やスピードがカーミラの比ではない。
「ちょっ、待ってって言ってるのにィィィ!!」
アオイは咄嗟に闇の塊を作り出し、火の球にぶつけて相殺させる。
これは相手にダメージを与える魔法ではないが、防ぐくらいは出来るだろうとアオイの瞬間的な閃きが功を奏した。
しかし、相殺させたことで発生した衝撃波にアオイは数メートルほど吹き飛ばされた。
「あのマスターの『フラメス』を防ぐなんて・・・。アオイ凄い・・・」
カーミラは、アオイの動き一つひとつを食い入るように見つめていた。
「素晴らしい反応速度です。それにその魔法・・・フフフ、面白くなってきましたね。ですが、次はこうはいきませんよ?・・・『フィール・フラメス』!」
ダスベルトが魔法を唱えるとその周囲の空中に、赤色の魔法陣が次々に展開されていく。その数は五十はくだらない。
アオイの顔面からみるみる血の気が引いてくる。
「いやいやいや!こんなの避けられるわけないじゃん!こいつ、絶対俺のこと殺そうとしてるだろ!こうなったら・・・『止まれ』ッ!」
アオイはダスベルトに向かって強く念じた。すると、ダスベルトの動きがピタリと止まり、魔法陣も全て消滅した。
「おっとこれは・・・なるほど、魔導封印の類いですか。それもとても強力なものですね。・・・一流の魔導師でも扱うことが難しいとされている『魔導封印』を、こうも容易く使えるとは・・・」
ダスベルトは全く動揺した様子を見せず、冷静にこう言った。
そして視線を下に落として、ダスベルトは呟いた。
「・・・つまり伝説は本当だったということか」
その呟きはとても小さな声だったが、アオイははっきりと聞き取れた。
その伝説とやらが何なのか、全く分からないアオイはダスベルトに尋ねた。
「で、伝説?何の話ですか?」
だがアオイのこの質問は、ダスベルトには聞こえていないのか、視線を下に落としたまま独り言を呟いている。
「だが、これだけで決めるのは早計か・・・。次で判断することに・・・おっと、私としたことが戦闘中に考え事とは。これは失礼しました。・・・ふぅむ、やはり動けないのは不便ですね。『魔導解除』」
ダスベルトは謝りながら、自力で自分に掛かっていた魔法をいとも簡単に解除した。
(俺の魔法をそんなあっさり・・・)
これ以上死ぬような目に遭いたくないアオイは、思いきってこう切り出してみた。
「あのー、もうそろそろ終わりにしませんか?」
「そうですね、では最後にお互いの全力の魔法を相手に放って終わりにしましょう」
「・・・それってかなり危険じゃないですか?下手したら死んでしまうんじゃ・・・」
だがこの質問にダスベルトは答えず、その代わりにニコリと微笑む。しかし、口元は笑ったようになっていても、目は一切笑っていなかった。
(あぁ・・・これは、殺る気満々だぁ・・・)
「ぜってぇ負けられねぇ・・・」
アオイはボソリと呟き、覚悟を決めた。




