第十話 魔法で建物の外観をリフォーム
小鳥のさえずりと、暖かな太陽の日差しでアオイは目を覚ました。
むっくりと上半身を起き上がらせ、虚ろな目で辺りを見回す。
寝る前に火をつけた薪が、まだ少し燻っているのが目に入った。
その向こうにはカーミラが気持ち良さそうに眠っている姿が見える。
アオイはゆっくりと立ち上がり、燻り続ける薪に足で土を被せ完全に火を消した後、カーミラの側まで寄って肩を軽く叩いた。
「カーミラ、ほら朝だよ。起きて」
だがカーミラは起きようとはせず、アオイに背を向け小さくうずくまった。
「むにゃむにゃ・・・あと五分だけ・・・」
そんな様子を見たアオイは、小さくため息をついた。
「今日は俺をギルドに連れていってくれるんじゃなかったの?」
アオイがこう言ったと同時に、カーミラは勢いよく飛び起きた。
「おっとぉ!そうでした、そうでしたぁ!よっしゃ、それじゃあ早速ギルドに行こう!」
アオイはその寝起きとは思えない凄まじいハイテンションに、思わず顔をしかめ俯いた。
「・・・あぁ、このテンションは寝起きの俺にはキツすぎる・・・」
「ん?何か言った?」
アオイはビクッと大きく仰け反り、ブンブンと首を横に振る。
「いやいやいや、何でもないよ!ほら、それよりも早くギルドに行こうよ!」
「お?なになに、そんなにギルドが見たいの?んもう、しょうがないなぁ。よーし!それじゃあギルドに向けて出発!」
カーミラはそう言うと、町がある方向に向かってスキップ混じりに歩き出した。
そんなカーミラの様子を見たアオイは、一つ大きなため息を吐いた。
「・・・テンション高すぎてついていけねぇ・・・」
それからしばらく道なりに歩いていくと、かなり大きな町が前方に見えてきた。
「おっ!見えてきた、見えてきた。あれがスリーア地方最大の都市プティアだよ。あの町に私が所属しているギルドがあるんだ」
カーミラはそう言って、歩きながら前方の町を指差した。
アオイは目を丸くさせてその場に立ち止まり、感嘆の声を上げる。
「ほぁ~、思ってたよりもでっかいんだなぁ」
「ほらっ!止まってないで早く早く!」
カーミラは後ろのアオイに振り返り手招きをした。だがすぐに前を向いて、一人で町に向かって早足で歩いていってしまう。
「いや、ちょっ、まっ・・・」
距離がどんどん離されていくアオイは、慌ててカーミラの後を追いかけていった。
「はい!到着~、ここがプティアになりまーす」
「ハァ・・・カーミラ、止まってって何回も言ったのに・・・ハァ」
アオイは息を切らし膝に手をついた。汗が首筋を流れて地面にポタリと滴り落ちる。部活動で体は鍛えていたので体力はあるはずなのだが、すぐに息が切れてしまった。
しかしカーミラは、かなりの距離をかなりの早足で歩いたというのに汗を一滴もかいていない。
それどころか呼吸も全く乱れておらず、涼しい顔をしながらアオイがへばった姿をニヤニヤしながら眺めている。
「ププー、アオイ体力無さすぎじゃない?もうちょっと鍛えないとね~」
「おぉ、うぜぇ・・・」
しばらくすると乱れていた呼吸もだいぶ落ち着いてきた。
「落ち着いたみたいだね。それじゃあ、ここからはゆっくり歩いていくからね」
そう言ってカーミラは歩き出した。
さっきまではカーミラを追いかけることに必死で、町の様子などを殆ど見ていなかったが、余裕が出来たアオイはカーミラの後を追いながら周囲を見て回った。
最大の都市と言ってもこんなもんか、というのがアオイの感じた率直な感想だった。
殆どの建物の建材はレンガや木材が中心のようだが、コンクリートのようなもので出来た建築物も中にちらほらと見える。
地面も石畳でしっかりと舗装が施されており、街灯も日本ほどではないがぽつりぽつりと見受けられた。
人の通りもあり、様々な店が建ち並ぶ商店街のような場所もかなりの賑わいを見せていた。
(確かに他のところと比べたらすごいんだろうけど、どうしても日本を基準に考えちゃうんだよなあ・・・)
こんなことを考えていると、突然前を歩いていたカーミラが足を止めた。
どうやら、周囲に気を取られているうちに目的地に到着したようだ。
「さぁ、着いた。ここが私が所属しているギルド、『星々の加護』だよ!」
そう言ってカーミラは、目の前にある建物を指差した。
しかし、そこにあったのはアオイが想像していたギルドのイメージとは全く違うものだった。
「これが、ギルドなの・・・?あの、俺にはそこら辺に建ってる家と対して変わりないように見えるんだけど・・・」
今アオイの目の前にある建物は、壁はレンガで出来ており二階建ての、周囲に建っている民家とほとんど違いはないようだ。
ただ、不自然な点を挙げるとすれば、周囲の他の建物には窓があるのだが、この建物には窓のようなものが一切無い。
そして、この建物をまるで避けているかのように、このギルドの建物の両隣には民家一軒分ほどの空きがあること。
アオイはギルドというからには、漫画やアニメに出てくるような派手で大きな建物だろうと、心のどこかで僅かに期待していた。しかし、そんな期待はわりとあっけなく崩れ去った。
(まぁ、そりゃこんなもんだよな・・・)
「ほらボーッとしてないで、早く中に入って入って!」
「分かった、分かったから背中押さないで」
アオイはドアノブを捻り、ゆっくりと引いて扉を開けた。
「・・・あれ?中広くない?」
扉を開けるとそこには外からは想像もつかないほどの広い空間が広がっていた。
中にはテーブルと椅子がたくさん置かれており、それに腰かけて何人かで集まって話していたり、一人で飲んでいる人など、ざっと三十人以上はいるだろう。
この様子を見たアオイは、以前見た漫画やアニメの中のギルドの様子とほとんど同じだったことに、なぜか感動していた。
「外観は目立たないように魔法であんな感じにしてるけど、中はこーんなに広いんだよ!どう?ビックリしたでしょ?」
カーミラはアオイの前に来ると、その鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見ていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「・・・魔法で建物の外観をリフォーム出来るとは、本当に凄い世界だな。・・・何で目立たないようにしてんの?」
ポカンとした表情のまま、目の前にいるカーミラに尋ねた。
するとアオイの左側からドスの効いた声が聞こえてきた。
「それにはですね、色々と事情がありまして・・・」
アオイは声が聞こえてきた左側を向くと、そこにはサングラスにスキンヘッド、そして革ジャンといった、まるでヤクザのような厳つい風貌をした見上げるほどの大男が立っていた。
その大男を見た途端、アオイは恐怖で目を見開いたまま蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
しかし一方のカーミラは、大男に気が付くと満面の笑みでその大男に向かって手をブンブンと振る。
「あっ、マスター!ただいま~」
大男も気が付いたらしく、カーミラの方を向いた。
「おかえりなさい、カーミラ。怪我はなかったかい?昨日の夜帰ってくる予定だったのに、いつまで経っても帰ってこないから心配したんだよ?」
男の声が少し震えていることから、カーミラのことを本当に心配してしたのだろうとアオイは感じた。
「いやぁ、ごめんごめん。ちょっと色々あってさ・・・」
カーミラは少し申し訳なさそうに、自分の頭を掻いた。
そんなカーミラと大男のやり取りを、アオイは目を丸くして交互に見ていた。
しかしすぐに我に返り、アオイは大男に尋ねた。
「あなたが、このギルドのマスターですか・・・?」
大男はアオイにゆっくりと向き直り、にこやか微笑む。
しかしそのヤクザのような厳つい顔で微笑まれたアオイは、恐怖で震え上がった。
しかしこの後すぐに、この微笑みとは別の理由で震え上がることになった。
「はい。私がこのギルド『星々の加護』のギルドマスター、ダスベルト・シュタールです。よろしくお願いしますね、
---オヨミ アオイさん」
この瞬間、アオイの背筋に冷たいものが走った。
アオイは一歩後ずさり、恐怖と緊張が入り交じった顔を男に向ける。
そしてサングラスの奥にある男の目をしっかりと見据えたまま、男に訊いた。
「あんた、何で俺の名前を知ってんの・・・?」




