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第九話 超初心者向けの魔法


 「見てから・・・そうだよね!いきなりこんなこと言われても、一回見てからじゃないと決められないよね!そりゃそうだ」

 

 女魔導師は笑いながら、納得したように何度か頷いた。

 

 「よし!それじゃあ早速行こうか!」

 

 「・・・んぁ?」

 

 アオイは素っ頓狂な声をあげ、女魔導師を二度見する。

 

 「行くって・・・今からギルドにですか?」

 

 「もちろん!さぁ行こう!」

 

 そう言って女魔導師は、アオイの手を引っ張って歩き出そうとする。

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!今動くのは危険です!さっきみたいに動物に襲われたら大変ですよ!とりあえず明るくなるまで待って、それから移動した方がいいです」

 

 アオイは必死になって説得した。

 それを聞いた女魔導師は、しばらくの間うーんと唸りながら俯いて考え込んでいたが、急にパッと顔を上げた。

 

 「・・・それもそうかぁ。よし!じゃあ明るくなってきたら出発しようか!」

 

 女魔導師は手を軽くポンと叩いた。

 その様子を見てアオイはホッと胸を撫で下ろした。

 

 「はい。そうしましょう。・・・では、ちょっとさっきの魔法で火を起こしていただけませんか?どうにもこのまま月明かりだけというのは不安なので・・・」

 

 アオイは不安そうに辺りをキョロキョロと見回しながら言った。どうやらさっき、狼の群れに襲われた事がトラウマになっているらしい。

 すると、女魔導師は目をパチクリとさせる。

 

 「え?君、魔導師なんだよね?」

 

 女魔導師は驚いた様子で、アオイに訊いた。

 

 「え、えぇ。一応・・・」

 

 アオイは目線を下に落としながら、自信なさげに答えた。

 女魔導師は質問を続ける。

 

 「魔導師なのに、『フラメス』を知らないの?」

  

 アオイは『フラメス』という耳慣れない単語が出てきたことに戸惑いながらも、そのことについて訊いてみた。

 

 「・・・分かりません。その『フラメス』って何ですか?」

 

 女魔導師は数秒ほどポカンとした顔をしていたが突然、女魔導師は森全体に響き渡るほどの大きな声を出した。


 「・・・えええぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


 その声に驚いたのだろう、たくさんの鳥達の羽ばたく音があちこちから聞こえてきた。

 

 「ちょっと!静かにしてください!また動物が襲いかかってきちゃいますよ!」

 

 アオイは少し語気を荒げて注意した。

 

 「いや、だって!魔導師なのに『フラメス』知らないっていうから、つい・・・」

 

 アオイは一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、再び女魔導師に訊いた。

 

 「・・・その『フラメス』って魔法は、魔導師なら誰でも使えるものなんですか?」

 

 「うん、『フラメス』は超初心者向けの魔法なんだ。だから、どんなに凄い魔導師でも最初はこの魔法から始めてるんだ。私のギルドにいる魔導師見習いでも、みんな『フラメス』くらいなら使えるよ」

 

 魔法が使えればその時点で魔導師だとアオイは勝手に考えていたのだが、どうやら最初は魔導師見習いからのスタートとなるらしい。

 じゃあ俺もその魔法を手始めに、色々な魔法を覚えていけばちゃんとした魔導師になるんじゃないか?と考えたアオイだったが、ここでプルトーンが言っていた話を思い出した。

 

 

 

 『―――君には他とは比較にならないくらいの魔法の才能があるんだ。・・・ただし、ある一種類の魔法に限り、だけどね―――』

 


 

 

 今アオイが使うことが出来る『冥界の魔法』は、そうやってプルトーンから特別に与えられた能力だ。魔法とは無縁の世界で生きてきた普通の人間が、どれだけ練習しても自力で魔法などを使えるわけがない。

 

 アオイは口元に苦笑を浮かべ、首を左右に軽く振った。

 

 「・・・考えてもしょうがないよな」

女魔導師には聞こえない程度の小さな声で呟いた。

 

 「どうしたの?大丈夫?」


 女魔導師は急に喋らなくなったアオイの顔を、心配そうに覗き込んでくる。

 

 「すみません、ちょっと考え事をしていただけです。・・・っと、ここに火を付けていただけませんか?」

 

 アオイは辺りに落ちている木を素早い動きで拾い上げ、それらをうまく重ねていく。これはラロークに教えてもらった技術だ。

 木を積んだ場所を指差しながら、女魔導師に頼んだ。


 

 「え?・・・あぁ、火ね。よし、じゃあ魔法を見せてあげるよ。いくよ・・・『フラメス』!」

 

 女魔導師は両手を前に突き出す。

 すると、手の前に赤色の魔法陣が展開され、野球ボールほどの大きさの火の玉が魔法陣から放たれた。その火の玉は積み重ねた木に命中し、火が点いた。

 

 「ほいっ!こんな感じ~」

 

 そう言うと女魔導師は焚き火のすぐ側まで移動した。

 そしてその場に腰を落とし暖をとりながら、顔だけをアオイに向けてきた。

 

 「いやー、最近は夜の冷え込みが厳しいねぇ。・・・っと、そういえば、お互い自己紹介がまだだったね。私の名前はヴラド・カーミラ。あなたは?」

 

 「えっと、俺はアオイ。御黄泉 蒼です。よろしくお願いします」

 

 アオイは軽く会釈して、焚き火を挟んだ向かいに腰かけた。

 しかしカーミラは何か不満そうな顔をする。

 

 「あー、やっぱり堅いなぁ・・・。もっと友達に話しかけるぐらいの軽い感じでお願い」

 

 「・・・分かった。じゃあ改めてよろしく、カーミラ」

 

 アオイは少々戸惑いながら改めて挨拶をした。

 

 「よろしくね、アオイ。・・・ふわぁ、今日も疲れたなぁ。じゃあ私は先に寝るね、お休み~」

 

 カーミラはそう言うと、大きく伸びをしてごろんと横になる。

 そして三十秒も経たないうちに寝息を立て始めた。

 その様子を見ていたアオイは、苦笑を浮かべ小さく首を傾げる。

 

 「・・・なんか、変わった人だな」

 

 そんな様子を見て気が抜けたのか、強烈な睡魔がアオイに襲ってきた。

 アオイは堪えきれず大きな欠伸をした後、ゴシゴシと目を擦る。

 

 「俺もそろそろ寝ようかな・・・」

 

 そう言ってアオイは、地面に仰向けに寝転ぶ。

 先程までは曇っていて月や星はあまり見えなかったが、いつの間にか雲一つない満点の星空になっていた。

 アオイはその星空を眺めながら考え事をする。

 

 (ギルドかぁ・・・。あんまり『冥界の魔法』を使うことになりそうな場所には行きたくないんだけどなぁ。かといって、他に住む場所も金もないし・・・。もういいや、明日になってから考えよう・・・)

 

 雑草が首に当たるむず痒さを我慢しながら、アオイは目を閉じて眠りについた。

 

 

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