第7話 届かない陽の光と三人の陰謀
おとう様去った地下牢は、静けさに包まれていた。
高窓を塞いでいた頑丈な木の板の端から、筋となって差し込む光。
わたしはぼろぼろの麻布をまといながら、光の筋の下へと歩み寄る。
手をそっと伸ばしてみた。
手のひら落ちたその光は、大きな優しさを感じさせるあたたかさだった。
「これがお日様なの」
光の精オリオンが指先に止まる。
外はどこまでも青い空が広がっているのだと教えてくれる。
生まれてから5年間一度も見たことがない外の世界。
隙間から吹き込んでくる風には、甘い香りがかすかに混ざっていた。
おかあ様やお姉様にどれだけ虐められても、お日様の光だけは平等にあたたかさを分けてくれる。
それが嬉しくて、わたしは、公爵家という未知の場所へ行く恐怖と少しの喜びを感じながら、届かない空に憧れを抱きしめていた。
そのころ、伯爵家の豪華な応接間では温かいティーカップを手に持った三人による冷ややかな話し合いが行われていた。
「せいせいするわ。あの忌々しい銀髪のドブネズミを明日には追い出せると思うと、肩の荷が下りる思いがするわ」
おかあ様はレースのハンカチで上品に口元を拭い、心底すっきりしたという顔で深い溜め息をついた。
隣に腰掛けたアリアーネお姉様も、甘いお菓子を口に運びながら意地悪そうに微笑む。
「お母様の言う通りですわ。不気味で汚い子が私の代わりに冷徹公爵様の元へ行ってくれるなんて、本当にいい気味ですもの。精霊の呪いを受けて暴走する恐ろしい公爵のところで踏みつけられて殺されればいいんですわ」
「アリアーネ声を落としなさい」
お父様は低く諌めながら、瞳には冷酷な満足感を浮かべた。
「だが、これで我が伯爵家はフェルディナンド公爵家からの莫大な援助金を手にできる。あちらが求めているのは強い精霊の力を持つ妻だ。精霊の力など一切持たぬアリアーネの代わりに、地下で虫ケラのような精霊を集めていたリリアを身代わりとして送り出すのは計算通りと言える」
「でもお父様、向こうに正体がバレてあの子が追い出されたりしたらどうしますの」
お姉様が不満そうに首をかしげると、おとう様とおかあ様は冷たい笑みを交わした。
「心配いりませんよ、アリアーネ。正体がバレて公爵家から送り返されてくるようなことがあれば我が伯爵家の名を汚した罪で、あの子をそのまま殺しますわ」
「それなら安心ですわ。私は、公爵家からの援助金で新しいドレスと宝石を買っていただきますわね」
「ええ、もちろんですよ、可愛いアリアーネ」
リリアが地下牢の隅で精霊たちの光にすがりながら外の世界を夢見ていることなど知らず、身勝手な欲望と冷血な謀略に胸を躍らせる三人。
暗い地下で静かに明日を待つ幼い少女と、光の当たる部屋で悪意をささやき合う家族。
双子の二人を隔てる鉄の扉の向こうで、残酷な運命の夜が静かに更けていくのだった。




