第5話 呪われし若き公爵と一筋の光
王都から遠く離れた広大な領地。
荘厳ながらも重苦しい空気が漂うフェルディナンド公爵邸。
公爵邸の奥深く豪奢な執務室。
15歳の若き当主エドワードは激しい頭痛と胸を刺すような痛みに耐えていた。
「苦しい」
彼の身体には、胸を覆うように不気味な漆黒の縞模様が首元まで這い上がってきている。
3年前エドワードが12歳の時、王弟の父と母が不可解な事故で命を落とした。
ただの事故ではなく何者かの暗躍によって命を落としたようだ。
その時、両親が命がけでかばい助かったエドワード。
その身体には呪いが刻み込まれた。
そのときから、じりじりと呪いは侵食をはじめ15歳になったいま、命と正気を失わせる寸前だった。
「エドワード様。 お気をしっかりとお持ちください。薬をお持ちしました。」
「そんな気休め必要ない。何の効き目もないことは一番分かっているだろう」
忠実な側近が差し出す薬を退け、エドワードは荒い息をついた。
彼を取り巻く空気の中に、黒い瘴気のような呪いの縄がまとわりつき、フェルディナンド公爵邸に住まう妖精たちが光の粒を出して必死に抵抗していた。
だが、妖精の声を聞くことも姿を見ることもできないエドワードには認識できない。
あと1年も持たずに呪いに飲み込まれて死に至ると診断を受けた。
15歳という若さで公爵家を背負うエドワードにとって、死は無念だけではなく、亡き両親が護ってきた家系の断絶を意味する。
「手立てはないのか。妖精の加護がある者はいないのか」
「エドワード様。実は気になる噂を聞きました」
側近が報告する。
「グラーツ伯爵家に、妖精の力を借りてどんな重病も治してしまう奇跡の令嬢がいるとのことです。美しいドレスを着て微笑みながら病を治すアリアーネという娘の話が高位貴族たちの間では噂になっています」
「奇跡の令嬢だと」
エドワードは鋭い眼光を光らせた。
妖精の姿を認識し、意思を通わせることができる人間など歴史を遡ってもごく僅かしか存在しない。
噂が真実なら、呪いを浄化する希望となり得る。
「すぐにグラーツ伯爵家に連絡を入れろ。その娘に婚姻を申し込む。私の病を治せば望むだけの富を約束するとな」
「畏まりました。使者を向かわせます」
窓の外を見つめながら、エドワードは冷たく胸に誓う。
それが偽りや詐欺の類であれば叩き潰す。
もし本物であるならばどんな手段を使ってもその力を手に入れる。
フェルディナンド公爵家ではまだ知らなかった。
破格の打診を受けたグラーツ伯爵家が、欲望に目を眩ませ偽者の姉を差し出そうと企んでいることを。




