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公爵様の妹~5歳まで忌み子として地下牢で育てられたリリア~  作者: 春告草


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第44話 偽りの断罪

学園の最高級の大ホールには、幾重にも連なるクリスタルのシャンデリアが眩い光の粒子を投げかけていた。

卒業祝宴の華やかな弦楽の調べと歓談の熱気の中、突如として空間を凍りつかせる冷ややかな緊張感が走り、音楽がピタリと途絶えた。


中央の大理石階段の上、そこに降臨していたのは大聖女の冠を頭上に戴くミーナと、皇太子セドリック殿下だ。

その背後には、かつての誇りを失った三人の側近たちが傲然と胸を張り、威風を装って控えている。


「皆様、静粛に」


皇太子の冷徹な声が、結界で守られたホール全体に重々しく響き渡る。

参列していた全生徒の視線が、一斉に階段の上へと収束した。

リリアは大ホールの一隅で、優美かつ静かに佇んでいた。

皇太子はリリアを真っ直ぐに指差し、大音量で糾弾の声を張り上げる。


「リリア・フォン・フェルディナンド公爵令嬢。貴様の大罪を、全校生徒の面前において明らかに処す」


どよめきと波紋が広がる中、リリアは凛とした佇まいで静かに顔を上げた。

その傍らには親友セリーヌと、側近たちの元婚約者である三人の令嬢たちが固い絆で寄り添っている。


「大罪ですか」

「とぼけるな。貴様が聖女ミーナに対して行ってきた数々の悪逆非道なる行い、もはや逃げ道はないぞ」


皇太子の合図とともに、ミーナはか弱い悲劇の乙女を演じるようにそっと繊細な布を目元にあて、肩を小さく震わせて見せた。


「リリア様、ひどいですわ。私、ずっと耐えていましたのよ」


ミーナがか細く哀傷の声を上げると、側近の一人が威圧的に一歩前に踏み出し、勝利を確信したかのような高圧的な口調でまくし立てた。


「そうだ。聖女様に対して貴様がどれほど卑劣な牙を剥いてきたか、皆の前で暴いてやる」


側近の男は傲慢に胸を張り、捏造された罪状の数々を叫び始めた。


「まず第一に、貴様は聖女様を階段から突き落とし、命を脅かそうとした。第二に、聖女様の教科書や研究原稿を意図的に引き裂き、修練を妨害した。第三に、聖女様の靴を隠して式典への列席を拒もうとした。そして極め付きは、聖女様を呼び出し、人里離れた裏庭の結界内で陰湿な嫌がらせと暴力を振るい続けたことだ」


男が並べ立てた罪状は、身に覚えのない言葉ばかりだった。

だがそれは記憶のそごなどではない。

それらすべては、ミーナとその取り巻きたちが、影でリリアに対して実際に行ってきた卑劣な迫害そのものだった。


階段から突き落とされたこと。

大切な魔導書を破り捨てられたこと。

泥に汚された靴を破棄されたこと。

裏庭に呼び出され、逃げ場のない暴力を受け続けたこと。

闇の中で耐え忍んできたのは、他ならぬリリア自身だった。

それをあろうことか被害者の仮面を被り、逆の立場で捏造して衆目の前で弾劾しているのだ。


ホール内からはどよめきと怒声が巻き起こる。


「聖女様に対してなんと悪逆非道な。許されざる不貞の者だ」


真相を知らぬ生徒たちから、軽蔑と憤怒の視線が一斉に注がれる。


だが、リリアの美しき面持ちは微塵も揺らがない。

それどころか、隣に立つセリーヌと三人の令嬢たちは、そのあまりに哀れな茶番劇に呆れ果て、氷のように冷ややかな微笑を浮かべていた。


「呆れたわ。自分たちが重ねてきた残酷な罪の数々を、そのまま私になすりつけるなんて」


ミーナは階段の上で悲劇のヒロインを演じながら、瞳の奥で勝ち誇った笑みを浮かべた。

だが、その醜悪な悪意に満ちた断罪劇は、直後に完全なる破綻を迎える。


「待ちなさい」


大ホールの重厚な大理石の扉が大きく開かれ、凍てつくような絶対的沈寂が支配した。

貴賓席の前方に控えていた公爵家当主である兄が、冷徹な怒りを瞳に宿し、圧倒的な威圧感とともにゆっくりと階段の方へ歩み出た。


「我が愛しい妹、リリアを断罪する前に、いくつか確認しておきたいことがある。いまの不条理な訴えには、決定的な矛盾が存在するな」


お兄様が氷のように冷ややかに言い放つ。

ミーナの背後に控えていた側近の男たちは、その圧迫感にわずかにたじろいだ。

だが、後戻りのできない皇太子は強引に声を張り上げる。


「公爵、何を言うか。聖女様という動かぬ証人がおられるのだ。罪の証拠も証言も揃っている」

「ほう、証人だと」


お兄様は嘲笑を浮かべると、ポケットから一通の金糸のスケジュール表と、公爵家の厳格な日誌を取り出した。


「生憎だが、ミーナ様が被害に遭ったとされる日時と場所について、我が公爵家には全天候型の監視魔道具および完全なるアリバイの記録が存在する。確か、ミーナ様がリリアに裏庭の東屋へ呼び出され、暴力を振るわれたと主張したその日時のことだな」


お兄様が淡々と、しかしホール全体に届く威厳のある声で告げる。


「あの日のあの刻限、リリアは王宮の公式式典において、私および王国の高位貴族複数名と共にお茶会に同席していた。空間転移でも使わぬ限り、学園の裏庭に存在することは物理的に不可能だ。さらに言えば、教科書が破られたとされる日も、靴を隠されたとされる日も、リリアは私や側近の令嬢たちと常に共に行動していた。貴様らの並べ立てた罪状は、すべて日時も場所も完全に整合性の取れない虚偽の捏造ということだ」


お兄様の鋭利な一撃により、大ホールの空気は一瞬にして一変した。

生徒たちの間に、激しい動揺の波紋が広がる。


「日時が合わないのか。では、いまの糾弾はすべて捏造なのか」

「それは」


側近の男たちは青ざめ、ミーナも息を呑んで後退した。


「違うわ。日時を言い間違えただけですわ。別の日だったかもしれませんわ」


ミーナが取り乱した顔で必死に取り繕う。

皇太子も声を荒げ、強引に断罪を押し通そうと試みた。


「細かい日時の違いなどどうでもよい。リリアが陰湿な悪行を重ねたという本質は変わらん」

「ごまかすな。我が公爵家の名誉を事実無根の言いがかりでけがし、無実の令嬢を陥れようとした不敬の罪、どのように落とし前をつけるつもりか」


お兄様が漆黒の魔力を威圧として解放し、一歩踏み出す。

その圧倒的な覇気を前に、皇太子たちはそれ以上言葉を紡ぐことすらできなくなった。

彼らが企てた卑劣な断罪劇は、完全なるアリバイと緻密な反証の前に、完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。


皇太子やミーナたちは何一つ罪を立証できず、周囲から注がれる無数の軽蔑と嘲笑の視線に耐える。

辱めと苛立ちに身を震わせながら、その場から惨めに足早に撤退するほかなかった。


悪夢のような騒動が収まり、生徒たちの間に重苦しい静寂が流れていた時。


「そこまでだ」


大ホールの最奥に位置する来賓用の大扉が、荘厳な旋律とともに開かれた。

この国を統べる絶対の主、国王陛下と王妃陛下がお二人揃って姿を現したのだ。

神聖な威圧感を放つ装束を身に纏い、一切の妥協を許さぬ絶対の覇気を放つお二人の登場に、場内の全員が息を呑んでひざまずき、深く頭を垂れた。


「陛下、王妃陛下」


卒業祝宴の渦中に国王夫妻が直々に臨席するなど、誰も予想していなかった事態であった。

王妃陛下は冷徹な眼差しを、先ほどまで惨めに逃走を図ろうとしていたミーナと皇太子の背中に向け、それから静かに、慈愛と光を纏うリリアのもとへと歩みを進めた。


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