第27話 屋外演習の暗雲
進級に伴って学年が上がり、実技授業の規模も一気に拡大していた。
この日の授業は、攻撃魔法の発動と魔力放出の演習が、学園敷地内の広大な屋外訓練場で行われることとなっていた。
学年全体が一堂に会する中で、生徒たちは教官の指示に従い、順次前に出て標的に向かって魔法を放つ。その威力と精度の測定を受けるのだった。
「次は、特待生ミーナ」
教官の厳格な声に促され、ミーナは可憐な動作を意識しながら一歩前へと進み出た。
訓練場の見学席や周囲には、皇太子殿下をはじめ、すでにミーナの魅了の毒に完全に侵された令息や生徒たちが、熱っぽい情熱的な視線を注ぎ込んでいる。
ミーナが指先を高く掲げると、その周囲の空間が微かに歪み、眩いばかりの薄桃色を帯びた光の矢がいくつも瞬時に生成された。それらはごうおんとともに勢いよく放たれ、身の丈ほどの標的の的のみならず、その背後にそびえ立つ防護用の巨大な木々に至るまで一瞬で木っ端微塵に穿ち払ったのだった。
「素晴らしい。なんと凄まじい魔力と威力なのだ」
さすがはミーナさんだ。
平民の出でありながら、学園トップクラスの光魔法使いとしての天賦の才能をお持ちだ。
訓練場全体から、割れんばかりの歓声と惜しみない熱狂的な称賛の声が湧き上がる。
ミーナはうっとりとその熱狂に酔いしれながら、わざとらしく胸元に手を当て、しおらしい態度を取りつつも内心では溢れ出る優越感に浸っていた。
これが私とあのアラ探しばかりする女との、決定的な圧倒的差なのよ。
続いて冷ややかな進行の声で名前を呼ばれたのは、リリアであった。
リリアが何ひとつ気後れすることなく静かに前へ進み出ると、周囲の生徒たちの間から冷ややかな嘲笑と蔑みに満ちた不快なヒソヒソ声が波のように広範囲へ広がっていった。
「次はあの公爵令嬢か」
「どうせまた大した魔法なんて使えずに醜態を晒すに決まっている」
「ミーナさんを陰で姑息にいじめているくせに、実力はみそっかす以下だなんて、実に惨めで哀れなものね」
リリアの莫大な精霊力を隠すため、公爵家が秘伝の隠蔽結界を完璧に施していた。
そのため、表面上の測定器には初歩魔法と同等の極めて低い数値しか反映されない仕組みになっていたのだ。
リリアが指先から静かに放った小さな風の魔法は、前方にある標的の的にポンと優しく触れる程度で、あっけなく霧散して弾けた。
「公爵家の輝かしい名が泣いているぞ」
「相変わらず話にならないみそっかすだな」
魅了の毒に深く侵された教官すらも、教導者としての態度を隠そうともせずに呆れ果てた溜息を深く漏らした。
「リリアが本当の精霊の力を解放したら、恐怖で腰を抜かすくせに」
リリアの美しい髪の陰に身を潜めていた光の精オリオンが、憤怒によって全身の毛を激しく逆立てていた。
リリアはそっと指先でその小さな体をなだめるように撫でた。
「大丈夫よ、オリオン。何を言われても私の心は傷つかないわ。これは大切なお兄様が私を危険から守るためにかけてくれた秘密の結界なのだから」
周囲からの酷い侮蔑と悪意の言葉に晒されながらも、リリアは気品高く背筋をスッと伸ばし、誇りを失わずに静かに元の列へと戻っていった。
そのすぐ隣には、セリーヌが心配そうに、けれど深く信じる力強い眼差しでしっかりと寄り添っている。
しかし、周囲からどれほど蔑まれようとも決して揺らぐことのないリリアの圧倒的な余裕と、崩れることのない気高く美しい佇まいは、ミーナの歪んだ承認欲求と自尊心をますます不快に苛立たせるだけであった。
「みそっかす扱いされて恥をかいているはずなのに、なぜあんなにも堂々としていられるのよ。次は絶対に、二度と立ち上がれないような言い逃れのできない絶望の底に叩き落してやるんだから」
ミーナの可憐な瞳の奥に、不穏で怪しい桃色の光が深く静かに宿る。
彼女はリリアを完全に追い詰めるための次の標的として、皇太子殿下をも深く巻き込んだ更なる残忍な陰謀の引き金を引こうとしていたのだ。




