第24話 木もれ日の孤独
王立魔法学園の広大な敷地内のどこを探しても、いまの不穏な学園にはリリアの居場所などどこにも残されていなかった。
ここも、だめね。
授業の合間の短い休み時間、せめて人目を避けて静かに本を読もうと足を向けた中央図書館であったが、そこもすでに安心して息をつける安全な場所ではなかった。
かつては公爵令嬢であるリリアの来訪を優しく温かく迎え入れてくれていた司書の教師すら、魅了の毒によってどこか虚ろで焦点を失った瞳をしており、ミーナの素晴らしさを称える噂話に花を咲かせていた。そしてリリアの姿を認めるや否や、他の真面目な生徒の方々の迷惑になりますので速やかに立ち去ってくださいと冷ややかに言い放ち、あからさまな退去を促してきたのだった。
居場所を完全に失ったリリアが最後にたどり着いたのは、学園の敷地の最奥にひっそりと佇む、半ば忘れ去られた古びた石造りの大図書館と、その裏手に静まり返って広がる鬱蒼とした森であった。
そこは普段から滅多に生徒や教師が立ち入ることもなく、魅了の毒に狂った生徒たちの甲高い歓声や陰湿な嘲笑すら届かない、喧騒から切り離されたかのような静寂の領域であった。
昼休みや授業の合間の僅かな時間、リリアは大図書館のひんやりとした湿った片隅や、森の奥深くにそびえ立つ大きなクスノキの太い根元にひっそりと身を寄せた。
一人静かに湿った落ち葉の上にポツンと座り込み、教室で嫌がらせによって破られた大切な教科書のページを膝の上に静かに広げ、独学で勉強を重ねていく。
「泣かない。ここで私が泣いてしまったら、優しい精霊さんたちが余計に心配してしまうもの」
リリアは深く唇を噛み締め、目頭から溢れ出しそうになる熱い涙を必死の思いでこらえた。
幼い頃、かつて伯爵家の冷たく暗い地下牢に不当に閉じ込められていた頃の辛い記憶が、嫌応なしに脳裏をよぎる。
あの絶望的な頃もまた、広い世界にただ一人取り残されたかのような深い孤立と恐怖の中にいた。
けれど、いまの私はあの頃とは違う。
「リリア、ここにいるよ。おいらたち、ずっと一緒だよ」
木漏れ日が柔らかく木々の隙間から差し込む緑の木立ちの中で、リリアの周りを光の精オリオンや風の精、そして森の木々に宿る精霊たちが心配そうに優しく舞い踊る。
リリアの傷ついた心にそっと寄り添うように、精霊たちはどこまでも温かな温もりと光を惜しみなく送り届けてくれた。
「平気よ。みんな、いつも私を支えてくれて本当にありがとう」
リリアは深く膝を抱え、精霊たちの柔らかな温もりに身を委ねながらそっと静かに目を閉じた。
学園の中でどれほど冷酷に扱われ、正当な居場所を奪われようとも、この静かな木漏れ日の下だけは自分を偽らずに済む、唯一心が安らぎ息を休められる大切な聖域であった。
セドリック殿下の心を失った冷たく刺すような眼差し、側近たちの情け容赦のない嘲笑、そしてクラスメイトたちの過酷な拒絶。それらをふと思い出すたびに、胸が押し潰されるように深く激しく痛む。
「殿下、あんなに私を想ってくださっていた優しい瞳をどうして失ってしまわれたの。私の髪を愛おしそうに撫でてくれた、あのあたたかな手は一体どこへ行ってしまったの」
胸を締め付ける切ない恋心と深い哀しみが複雑に交錯する中で、リリアは大図書館の奥深い開架棚の隅で見つけ出した古い魔導書の難解な記述に静かに目を通し始めた。
たった一人で激しい孤独と偏見に耐えながら、魅了の毒に完全に呑み込まれた学園の陰で。
リリアは誰の目にも触れないこの小さな隠れ家で、愛するセドリック殿下や正気を失った人々を救い出すために、秘められた古代の知識と精霊力をひたすら研ぎ澄ませていく。




