第22話 生徒会に侵食する魅了
「リリア、生徒会室へ来なさい」
陽が傾きかけた刻限、生徒会副会長の先輩に呼び出された。
私が重々しい扉を開けて足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。
普段は鉄の規律を誇り冷徹なはずの精鋭騎士たちが、ミーナを取り囲みデレデレと顔をほころばせていたのだ。
「ミーナ殿、今日の書類の整理を手伝ってくれて感謝する。君は真に気さくで素晴らしい聖女のようなお方だ」
「ミーナ殿の笑顔を見ていると、胸の奥が熱くなり何でも買い与えてあげたくなる」
「そんなに褒められると照れてしまいます。私、皆様の役に立ちたいだけなのです」
ミーナが無邪気に微笑むたびに、彼女の指先から薄桃色の蠱惑的な光が零れ落ちる。
周囲に群がる騎士たちが、その光を吸い込んでいく。
騎士たちはミーナの言葉を疑うことなく信じ込み、私に対して露骨な不信感と強い敵意の視線を向けてきた。
仕掛けられた精神汚染の罠は、着実に効果を収めていた。
「リリア、部屋に入っちゃだめ」
「女の子から不快な匂いがする。魂が痺れてしまう悪魔の光だよ」
光の精霊オリオンたちが全身を激しく震わせ、私を必死に引き留めようと服の袖を引っ張る。
生徒会長の皇太子でもあるセドリック殿下が生徒会室の奥にある執務机に座っていた。
「リリアか」
立ち上がった殿下の紫紺の瞳は、かつての澄み切った覇気を失い、どこか虚ろで焦点の定まらない薄膜で覆われている。
「大丈夫ですか。殿下、お顔色が非常に優れませんが」
心配して駆け寄ろうとした私に、殿下はぎこちない手つきで額を押さえながら言葉を漏らした。
「問題ない。ただ、ミーナの傍にいると胸の奥が不自然なほど締め付けられ、彼女を護らなければという強い衝動に駆られるのだ。私としたことが、なぜこれほど心が揺れるのか理解できん」
殿下は自身の理性を奪おうとする異変に、限界の精神力で抗おうとしていた。
ミーナが歩み寄ってくる。
「セドリック様、温かい薬草茶が入りましたよ」
甘い声で近づくと、殿下の瞳が完全に薄桃色の光に呑み込まれそうになる。
「ミーナ、ありがとう。君の淹れてくれたお茶は、とても心が落ち着くよ」
デビュタント夜、あの情熱的な瞳で私だけを見つめ生涯の誓いを立ててくれた殿下が、ミーナの手を愛おしそうに包み込み、自らの引き寄せた。
「そんな、殿下まで」
ミーナは殿下に大切に扱われている状況に満足しきった様子で、見下すような歪んだ笑みを私に向けてきた。
「私の魅了の光を浴びれば誰も彼も、言われるがままの奴隷になるのよ」
渦巻く精神汚染の毒は、殿下の高潔な心と秩序を確実に蝕んでいた。
「リリア様、お下がりくだされ」
異変を察知して廊下から踏み込んできた警備隊長のレオン殿が、剣の柄に手をかけ、鋭い眼光でミーナを睨みつける。
「娘の周りの気気配は極めて異常でございます。精霊の加護を持つリリア様でなければ、我らまで正気を失いかねません」
ミーナの魅了の魔力に呑み込まれ、私だけに注がれていた殿下の温かな視線が怪しい光に奪われていく。
愛する殿下と帝国を、かつてないほどの孤立と危機の中から救い出す決意を固めた。




