第21話 侵食する魅了の罠
ミーナは計画を、お兄様が公務に追われ学園へと足を運べない日が増えている隙を突き実行に移し始めた。
リリアの周囲の空気が急速に変わり始めた。
ミーナが持つ光魔法は、本来の治癒や浄化とは異なる、恐ろしい性質が秘められている。
それは不吉な、魅了の光。
相手の精神の隙間に滑り込み、思考を都合よく書き換えて抗えなくさせる光だ。
「誰も彼も、私の光を浴びれば言うことを聞くようになるわ」
ミーナは計画を実行に移し始めた。
リリアの周囲にいた友人たちや、学園の取り取り巻く貴族たちが標的となった。
「ねえ、リリア様は表では優しそうにしているけれど、裏では平民の私を冷たく見下しているのよ。私凄く怖くて」
ミーナがウルウルと瞳を潤ませ、指先からふわりと薄桃色の光を放つと、話をしていた貴族の男子生徒たちの瞳が薄桃色に覆われる。
「なんだと。あの公爵令嬢がそんな酷いことを」
「ミーナ、可哀想な。僕たちが君を守ってあげるからね」
一度魅了の光を浴びた者は、ミーナの言葉を過剰に信じ込み、リリアに対して不信感と強い歪んだ敵意を抱くようになっていった。
仕掛けられた罠は着実に成功を収めていく。
ある日、リリアが教室に入ると、昨日まで談笑していた令嬢たちが一斉に冷ややかな視線を向け、あからさまに距離を取った。
机には心ない落書きが彫られ、大切にしていた教科書やノートが破かれてゴミ箱に捨てられていた。
「リリア様。あなた、裏でミーナさんを脅していたんですってね」
「公爵家の威光を笠に着て平民をいじめるなんて、最低ですわ」
魅了にかかった生徒たちが、口々にリリアを糾弾する。
さらに、ミーナは罠を仕掛けた。
「大変です。リリア様の鞄から図書館の国宝級の書物が見つかりました」
「そんな、私はそんなことしていません」
図書室の貴重な魔導書を破り捨て、破片をリリアの鞄に忍ばせるという自作自演の罠だ。
教師までもがミーナの魅了の光に毒され、リリアの弁明に一切耳を貸さない。
一方的にリリアを、犯人として決めつけて叱責した。
ミーナの目論見通りに、学園内でのリリアの孤立は日に日に深まっていく。
「成功よ。どんなに綺麗に着飾った公爵令嬢でも、孤立させていじめ抜けばただの惨めな子よ」
ミーナは、遠くから陰湿な笑みを浮かべて高みの見物を決め込む。
「リリア。こいつらみんな頭がおかしくなってる。変な色の光がまとわりついてる」
光の精オリオンが激怒して体を光らせるが、リリアは静かに首を振った。
「いいの。ミーナさんの不思議な力に操られているだけだもの」
リリアの周りに展開された最高峰の守護結界と精霊たちの加護は、ミーナの光を弾き返していた。
そのため、リリア自身が魅了されることはなかった。
だが、周囲の親しかった友人たちが一人、また一人と自分を嫌い、冷たい言葉を浴びせてくる。
リリアの心に少しずつ悲しい影を落としていく。
「お兄様には心配をかけたくないな」
リリアは、お兄様に頼れば一瞬で解決するはずだと分かっていながら、負担になりたくないと一人で耐え忍ぶことを選んでしまう。
ミーナは、自分の魅了の力が学園全体を侵食したと確信した。
リリアを完全に追い詰めるべく、更なる凶行へと足を踏みだした。




