第17話 社交界への第一歩デビュタントの準備
10歳の頃よりもさらに背が伸び、少女から少しずつ大人びた容姿へと変わりつつある。
お兄様の深い愛情と栄養満点のお食事のおかげで、髪はまるで月光のようにしなやかに輝き、肌は透き通るような白さを保っていた。
今年、私は社交界へのお披露目となるデビュタントを迎える。
「リリア、仕立て屋が到着したよ。王都で一番の腕利きを呼んだからね」
お兄様に一緒にサロンへ向かうと、溢れんばかりの布地や刺繍糸のサンプル、そして高級な宝石がずらりと並べられていた。
王都随一のデザイナーが、私を一目見るなり感嘆の声を上げる。
「なんて美しさでしょう。まさに精霊に愛された奇跡の令嬢という噂通りの方ですわ。この最高のシルクと、夜空の星を閉じ込めたようなダイヤモンドで、王国一のドレスをお作りします」
採寸が始まると、お兄様は真剣な表情でデザイン画をチェックし始めた。
「待ちなさい。胸元が少し開きすぎてはいないか。リリアはまだ12歳だぞ。それと、この裾の長さでは踊るときに転んでしまうかもしれない。もっと安全で美しさが一番引き立つデザインにしなさい」
「公爵様。これ以上ないほど上品なデザインでございますが」
「虫がついたらどうするのだ。首元には精霊の加護を施したムーンストーンのチョーカーも追加しよう」
お兄様は、デザイナーに次々と注文をつける。
傍らに控えていたレオンさんが、思わず笑いを隠した。
「公爵様、まるで妹を誰にも渡したくないお兄様のようでございますな」
「レオン、冗談ではない。あんなに小さく可憐だったリリアが、男どもの視線にさらされると思うと夜も眠れんのだ」
「お兄様」
お兄様の過保護ぶりに頬を染めると、サロンの中に温かな風が吹き抜けた。
「お兄様の言う通りだよ。リリアは渡さない」
「おいらたちも夜会でリリアを見守るからね」
光の精オリオンや風の精たちがドレスの試着をする私の周りで踊り、布地にキラキラとした光の粒子を振りかけていく。
まるで精霊さんたち自身が、ドレスの装飾手伝いをしてくれているかのようだ。
ドレス選びの後は、社交ダンスとマナーの猛特訓だ。
お兄様自らが、パートナーとなり手を取り合ってステップを踏む。
「リリア、上手だよ。私の目を見て背筋を伸ばしなさい」
「お兄様。夜会に行くのが少し怖いの。伯爵家にいた頃みたいに、変な目で見られたらどうしよう」
ふと漏らした不安に、お兄様はぴたりと足を止め、優しく抱きしめてくれた。
「恐れることは何もない。お前は我がフェルディナンド公爵家の誇り高き妹であり、誰よりも心が美しい。夜会に集まる者たちは皆、お前の輝きにひざ折るだろう。それに、レオンも私も、いつでもお前の側にいる」
「リリア様」
レオンさんも拳を胸に当て、凛とした表情で深く頭を下げた。
「わしが護衛として、影となり日向となりお守りいたします。どんな不埒な者が近づこうとも、追い払ってみせます。どうか安心して楽しんできてくださいませ」
「お兄様、レオンさん、ありがとう」
世界で一番頼もしい家族と味方となってくれる精霊さんたちがいる。
仕上がっていく最高のドレスと、温かい人々の愛を胸に抱いて、華やかで波乱に満ちた社交界という新しい舞台へ、一歩を踏み出すのだった。




