第13話 温もりが灯る部屋
グラーフ伯爵家が崩壊し、冷たい地下牢も、お母様やお姉様の刺すような視線も、すべては過去の出来事となった。
公爵邸で暮らし始めて数か月。
お兄様の愛情と、侍女のマリアさんたちのお世話、料理長が作るあたたかくて美味しいご飯のおかげで、わたしの頬にはふっくらとした桃色が戻ってきた。
「リリア、今日の勉強はここまでにしよう」
エドワードお兄様が書類から目を離し、優しく目元を緩めた。
わたしはお兄様の膝の上で、覚えたての文字で書いた絵本を自慢げに見せた。
「見て、精霊さんとお兄様の絵を描いたの」
「これは素晴らしい。宝物にしよう」
大きな手が、頭を愛おしそうになでてくれる。
「リリア。 おいらたちも描いてくれたんだ」
「リリアの絵大好き」
光の精オリオンたちが、わたしの周りで嬉しそうに宙を舞う。
公爵邸中の精霊が集まってきて、毎日が賑やかなお祭りのようだ。
そんなある日の午後、お兄様の書斎に一人の男性が訪ねてきた。
その人は、伯爵家で見張り番をしてくれていた老兵士レオンさんだった。
「レオンさん」
わたしがお兄様の膝の上から飛び降りて駆け寄る。
レオンさんは目元にしわを寄せて膝をつきわたしを抱きしめてくれた。
「リリア様。本当によかった」
「スープのお礼が言いたかったの。レオンさんがくれた巾着袋とスープがあったから頑張れたんだよ」
「もったいなきお言葉。何もできませんでしたのに」
涙を流すレオンさんに、お兄様が静かに歩み寄り肩に手を置いた。
「レオン殿。リリアを支えてくれたこと、心から感謝する。もし良ければ、警備隊長としてこれからもリリアの近くで見守ってくれないだろうか」
「公爵様。老骨ではございますが、リリア様とお屋敷のために命を捧げます」
「いいぞ。これでリリアの周りは大好きな奴ばかりだ」
光の精オリオンがリリアとレオンの周りを嬉しそうに舞い踊った。
地下牢で震えていた小さな忌み子はもういない。
精霊たちに見守られ、あたたかい日を送ろうとしていた。




