第11話 陽だまりの庭園の精霊たちの歓喜
公爵邸で一番日当たりの良い大きな部屋がリリアのために用意された特別な子供部屋だった。
ふかふかの絨毯、大きな天蓋付きベッド、庭園が見渡せる大きな窓。
眩しい朝の光が、レースのカーテン越しに部屋いっぱいに降り注いでぐ。
「 おはよう。目が覚めたか」
枕元で、光の精オリオンが嬉しそうに飛び跳ねた。
森や屋敷の小さな妖精たちも集まっている。
目覚めを祝福するようにキラキラと光の粒を散らす。
ふかふかの羽毛のベッドで目を覚ましたわたしは、リリアさんに着せてもらった柔らかなレースのドレスをまとい、広いお庭へと散歩に出かけた。
地下牢の高窓の隙間から見つめるだけだった本物の太陽。
踏みしめる芝生は緑の絨毯のように足元をやさしく受け止めてくれる。
色とりどりのお花が香りを漂わせ、冷たい石畳の上で凍えていた日々が嘘のようだ。
「リリア、お庭は気に入ってくれたかい」
わたしの小さな歩幅に合わせて歩いてくれるのは公爵様だ。
お仕事の合間を縫ってはわたしのもとを訪れ、優しく頭を撫でてくれる。
「うん。とってもあたたかいよ」
声を弾ませると、わたしの周りに集まっていた精霊さんたちが大喜びし始める。
「リリアが笑ってる。 大きな声でお話ししてるよ」
「お庭の花びら、リリアのドレスと同じピンク色だよ」
光りの精オリオンたちが、クルクルと宙を舞い、光の粒が空から降り注ぐ。
広大な庭園に住む、花の精や樹木の精、池の水精たちまでが、リリアの笑顔に応えるように一斉に姿を現した。
花びらは風に乗せてふわりと舞い上げる。
光りを浴び虹色の水雫を輝かせる。
庭園全体が、温かく幻想的な光に満たされていった。
精霊の波長を感じ取れる公爵様は、驚くべき光景に目を細め無邪気に笑うわたしを愛おしそうに見つめていた。
庭のベンチに腰掛けると、公爵様はわたしの手を包み込み、指先を自分の温もりで温めてくれる。
「リリア。私のことをお兄様と呼びなさい。身代わりでも、忌み子でもない。私の大切な妹だ」
「お兄様」
わたしを嫌悪しゴミのように扱った本当の両親ではなく、目の前にいるこの人が、お兄様になってくれた。
膝の上にのせてもらい、レオンさんのくれた巾着袋ことや精霊さんたちとお話ししたことを夢中で話すと、優しく相槌を打って耳を傾けてくれた。
「お兄様。リリアをよろしくね」
精霊さんたちが肩や胸元に止まり光を輝かせていた。
そのとき、笑顔とは裏腹にお兄様の胸中には冷たい裁きの決意が秘められていた。
リリアがマリアさんと一緒におやつのお菓子を美味しそうに食べている隙に、お兄様は執事を執務室へと呼び出した。
蒼い瞳に氷のような冷徹さを宿している。
「グラーツ伯爵家についての調査結果が出ました。長女アリアーネの虚飾、リリア様への長年の監禁と残酷な虐待、莫大な支援金を目的とした身代わり工作、証拠が揃っております」
「よくやった」
お兄様の低く重い声が執務室に響く。
「5歳の幼子を生まれた時から地下牢に閉じ込め、ボロ布を纏わせて身わりに差し出す。浅ましく冷酷な奴らだ。リリアがどれほど苦しんできたかと思うと、あの者を踏み潰したくてたまらん」
お兄様は机の上の書類にペンを走らせると告げた。
「伯爵家への資金援助を即座に停止しろ。彼らが抱えている莫大な借入金を回収する。奴らが手中に収めたと思っている全てを奪い取り地獄へ突き落としてやる」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
グラーツ伯爵家への容赦なき裁きの歯車が動き始めた。
陽だまりの部屋で甘いタルトを頬張るわたしは、精霊たちの温かな光とお兄様の腕の中で、ふわりと満ち足りた笑顔を浮かべた。




