11話羞恥の壁を破壊しろ
《主って、顔に合った声出せんの?》
「無茶苦茶頑張れば、女の子っぽい声は……まあ、出せるっちゃ出せまそのあと喉死ぬのでなかなかしませんけど」
《!?!?》
《あの重低音から!?》
「…………一応、検討はしますけど」
《!?》
《検討!?》
「羞恥心に勝てたらやります。」
《勝敗制なんだwww》
《技術的には可能?》
青年「技術的にはできます」
《機材は?》
青年「あります」
《録音環境は?》
青年「あります」
《ハイレゾは?》
青年「できます」
年「ほどほどに調整するなら、変声期前くらいの声ですかね」
《まぢで!?》
《やって!!!》
《その声で「お兄ちゃん」って言ってほしい!!!》
「嫌です。」
《即答www》
青年「羞恥心で蒸発しますよ?」
《顔は完璧なんだぞ!!》
青年「顔の問題じゃないんですよ!!!」
《大変恐縮なのですが、お姉ちゃんもお願いします(初コメ)》
「…………」
《初コメさんいらっしゃい》
《初手それ!?》
《普段の超低音との落差が見たいんだよ》
「僕は見たくありません」
《自分の顔は性癖ドストライクなのに?》
「それとこれは別問題です」
《自撮りはするのに?》
「自己消費です」
《性癖なので?》
「性癖なので(キリッ)」
《じゃあ「お兄ちゃん」は?》
「恥ずかしいので(キリッ)」
《カテゴリ分けすんなwwww》
《5000円》
「やりません」
《1万円》
「やりません」
《5万円》
「金額の問題ではありません」
《120万円》
「…………」
サーバー買えるぞ》
青年「僕の羞恥心を設備投資に換算しないでください。」
《でも一瞬止まったよね?》
止まってません」
《止まった》
《稟議通りかけた》
「……一回だけですよ」
《お姉ちゃんお願いします!》
「中一か中二くらいの頃に、地域で演劇をやってみよう、みたいな話が出たんですよ。性根がモブなので僕は嫌々だったんですが……今世の部分は、妙に乗り気で」
《今世の部分》
《また独特な言い方するな》
「なんて言えばいいんだろう……前世の僕だったら絶対やらなかっただろうな、ってことにも、今世の僕は結構興味を持つんですよね」
少し考えるように視線を逸らす。
「自分でも不思議な感覚なんです。記憶も経験も僕のものなんですけど、だからって前世の僕がそのままここにいるわけでもないというか」
《あー》
《前世の記憶が追加されたんじゃなくて今世の人格もちゃんとあるのか》
「そう。だから、たぶん演劇もその一つだったんでしょうね」
《そして生意気ショタボイスを獲得した》
「その結論に戻すのやめてもらえます?」
《あにきぃ~》
「やりません」
《あねきぃ~》
「もうやりません。」
《つまり主は演劇でショタ役やったことある?》
「…………」
《おい》
《その沈黙は何だ》
《掘れ》
《過去を掘り起こせ》
「次の話題行きますよ」《あにきぃ~もう一回!》
《あねきぃ~も頼む》
《ショタボもっとください》
「わーお。わかりました、わかりました!」
《!?》
《やってくれるのか!?》
「覚悟ができたらBOOTHあたりで販売しますので、期待しないで待っててください! はい次!!」
《販売wwwww》
《金取る気で草》
《買います》
「僕の覚悟に対するお布施です。」
《wwwwwwww》
《覚悟代》
《羞恥心に値段つけんなw》
《いくらですか》
《言質》
《期待するなと言われて期待しない奴がいるか》
「今やるとは言ってないでしょう!」
《商品名:あにきぃ~》
《あねきぃ~もセットで》
《妹ボイスもお願いします
「期待しないで待っててください! はい次!!」
《逃げた》
《言質は取った》
《BOOTH待機》》
「なんでラインナップ増えてるんですか!?」
覚悟が出来たらBoothあたりで販売しますので。
《俺の妹が雑誌持ってきて「お兄ちゃんがいつも見てる人! この雑誌に出てる人!!」って鼻息荒くSLみたいに凸って来たんだが》
《機関車は草》
「雑…………誌…………?」
《あ》
《顔変わった》
《なんか踏んだ?》
イクトの表情が固まる。
「待ってください。雑誌名は絶対に書いちゃダメですよ」
《なんで》
「書いたら一年タイムアウトの刑です。特に初期版だったら100%アウトなやつです」
《貴重な初期版らしい》
「今すぐ燃やしてください!!!!!!」
《シャワーシーンか・・・・》
《でっっっっっっっか》
《このコメントはモデレーターにより削除されました》
――投稿から削除まで、0.6秒。
「…………」
《モデレーター過去最速》
《判断がF1のピットクルー》
《迷いが一切なかった》
《絶対待機してただろ》
「モデレーターさん、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
《でも何がでかかったんです?》⇒《このコメント》削除されまた
「一年。」
《タイムアウトされたwww》
《質問しただけなのにw》
「この件を掘る人は全員一年です」
《言論統制始まって草》
「説明しないのは僕のポリシーに反するので、何があったかだけ説明しますが……」
《お》
《話すんだ》
「関係者による盗撮写真が使用されています。しかも、絶対に掲載NGの写真です。」
《あっ》
《思ったより洒落にならんやつ》
「出版社には全力で回収してもらう。その代わり、こちらから訴訟は起こさない。そこまで話がついているものです」
《それは燃やせって言うわ》
《笑えないタイプの黒歴史だった》
「なので、雑誌名、出版社名、号数、その他特定につながる情報は――」
《残り未回収分は64部でございます》
《このコメントはモデレーターにより削除されました》
――0.6秒。
「…………」
《はっやwwwww》
《本日二度目の0.6秒》
《モデレーター臨戦態勢》
《なんで残数知ってんだよ》
《関係者いるだろwww》
「…………今の人」
一拍。
「なんで知ってるんですか?」
《そこだよな》
《俺らもそれが怖い》
《タイムアウトより先に身元調査が必要な奴》
「モデレーターさん。その人、永久で」
永久wwwwww》
《一年から永久に跳ね上がった》
《執行が重い》
《主の声がガチだった》
《64という数字が禁忌になった瞬間》
「僕より詳しい人を野放しにしておけるわけないでしょう」
《それはそう》
《笑ってたけど普通に怖いぞ》
《なんで64部って知ってんだよ》
「あと……これで、未回収品が外部の人間でもワンチャン手に入ることが露呈しましたし」
《あ》
《そういうことか》
「御社のコンプライアンスについて、明日問い合わせさせていただきます。」
《御社》
《!?》
《急に矛先が企業へ向いた》
《主、その笑顔怖い》
《さっきまで「あにきぃ~」って言ってた人どこ行った》
「回収するという条件で訴訟しないという話でしたからね」
《あっ》
《契約の前提に刺さった》
《笑えなくなってきた》
「「……主題の方の話をしましょう。流れを変えましょう」
《露骨に変えたw》
《逃げた》
《明日電話する人の顔じゃない》
「はい、我が家の駐車場でーーす!」
写真が表示される。
BRZ① BRZ② BRZ③
《草》
《??????》
《間違い探しかな?》
《BRZしかねえ》
《ディーラーかな?》
《一般家庭の駐車場じゃねえ》
「いやぁ、壮観ですねぇ」
《なんで3台あるんだよ》
「BRZだからですね。」
《答えになってない》
《こいつ急に元気になったぞ》
《さっきの出版社の話してた時と声違いすぎる》
「で、これが僕ので、こっちが――」
《待て》
《説明始めるな》
《まず3台になった経緯を説明しろ》
「そこから説明すると長いんですよ」
《雑誌は説明責任果たしただろ》
《BRZにも説明責任を果たせ》
「僕のポリシーを悪用しないでもらえます?」
父が運転席に乗った時に非常に気に入ったそうで。蛇行運転しながら大歓喜でその時僕はポンポンポンッポンだったの早々強制終了させまして。母と相談した結果増車の許諾が下りたそうで。母も試乗した所いたく気に入りましてこうなりました。
「ちなみに……僕のは、前世で乗ってた個体です」
《え》
《!?》
「車台番号……0000……5071。アプライドA、Rグレード」
愛車の写真を見ながら、イクトの声が少しだけ詰まる。
「……まさか、再会できるなんて……」
《主?》
《泣いてる?》
《これは泣くわ》
《何十年越しだよ……》
「…………すみません」
目元を拭って、小さく笑う。
「ずっと……もう一度乗りたかった車なので」
《大事にしろよ》
《5071も待ってたんだろうな》
《前世からの相棒じゃん》
「ええ。大事に乗ってますよ」
《ちなみにどれくらい乗った?》
「あー……」
ここから先、感動は長く続かなかった。
「この前モータースポーツ観戦に大分まで行きまして」
《大分》
「青森からです」
《待て》
「車で」
《待て》
「そのあと東京にも用事があったので――」
《待てって》
「納車から一か月経ってない時点で4000キロくらいですかね」
《大事に乗るの意味が違う》
《5071「再会する相手間違えたかもしれん」》
《さっきの涙返せwww》
「いやいやいや! 走るための車でしょう!?」
《限度がある》
《前世から再会した瞬間酷使されるBRZ》
「面接でもこの話したら変な顔されましたね」
《面接???》
「趣味を聞かれたので。モータースポーツ観戦で、片道1400キロくらいなら自走しますって」
《面接官かわいそう》
《また例のイカれた面接話に繋がった》
「なんでですか。普通に趣味の説明でしょう」
《普通が迷子》
「初めてキーを握ったときに、廃車まで乗るって誓いましたから」
《主にとって廃車の定義って?》
「…………」
少し考えるイクト。
「フレームまで完全に終わってしまって、もう直せなくなったら、かな」
《やっぱり》
《聞いた俺が悪かった》
《エンジン死亡は?》
「載せ替えればいいじゃないですか」
《ミッション死亡》
「直すか載せ替えですね」
《足回り》
「交換できますよね?」
《ボディ錆びた》
「板金」
《事故った》
「直せるなら直します」
《直せないって誰判定?》
「僕と板金屋さんが二人とも黙ったら」
《最終審議で草》
《板金屋が匙投げても主が拾いそう》
《廃車判定のハードルがおかしい》
「だって、部品が壊れただけで車そのものが死んだわけじゃないでしょう?」
《重い》
《急に愛が重い》
《5071逃げられない》
「何十年越しにもう一回会えたんですよ?」
一度、駐車場の写真へ目を向ける。
「今度こそ、最後まで付き合いますよ。」
《……》
《これはずるい》
《さっきまで走行距離で笑ってたのに》
「まあ、そのためにも定期的に長距離走って――」
《やめろ》
《感動を維持しろ》
《5071の寿命を縮めるな》
「車は走らせるものでしょう!?」
「一度、東京郊外には引っ越しますけど、テレワークが始まったら、もう一度引っ越します」
《また引っ越すの?》
「はい。今度は車必須な地域に。」
《なぜ》
《普通逆では?》
《テレワークなら便利な場所に住めよw》
「だって毎日電車に乗らなくていいなら、東京に住み続ける理由も薄いじゃないですか」
《それはまあ》
「だったら駐車場が確保しやすくて、車で生活できるところの方が僕には合ってます」
《結局BRZ》
《生活設計の中心に5071がいる》
「別にアイツ中心で決めてませんよ?」
《ほんとぉ?》
「…………」
《黙るな》
「多少はあります。」
《知ってた》
「まあ、幸せの基準は人それぞれですから」
イクトは穏やかな表情で、ぽつりと呟いた。
《え? なんて?》
「なんでもないですよ」
《気になる》
《もう一回言って》
「それより、やらなきゃいけないことも増えたので、今日はここまで。またね!」
《あっ(察し)》
《そういや増えたな》
《明日の御社》
《出版社さん逃げて》
《逃げちゃダメだろw》
「ではではー」
配信が終了しました。
――それからしばらくして。
告知もなく、ひっそりとBOOTHに一本のボイス作品が追加された。
96kHz / 32bit
《!?》
《出たぞ》
《例の覚悟が販売されてる》
《なんで96kHz/32bitなんだよ》
《覚悟のハイレゾ配信》
再生。
ドッドッドッドッドッ!!
階段を駆け上がる音。
ガラッ!
「アニキィ! ゲームしようぜ!」
《!?!?!?》
《うわあああああ》
《本当にやりやがった》
《生意気ショタが帰ってきた》
次のトラック。
「アネキィ……俺を着せ替え人形にすんのはやめろよぉ……」
すると、少し低めの女性の声が返ってくる。
「あなたが女の子の服が似合うのが悪いのよ?」
《????????》
《待て》
《姉!?》
《誰だこの声》
《出演者二人いる!?》
商品ページを確認する。
出演:IKTO
《一人だ》
《一人!?》
《姉も主なの!?》
《声帯どうなってんだよ》
make.mp3
《おまけ?》
《まだあるぞ》
《再生》
「あー……あ゛ーーーーー……」
数秒の沈黙。
「これで満足かぁー!! モウヤラナイデスカラ!!」
そこに収録されていたのは、先ほどまでの少年でも、少し低めのお姉さんでもない。
羞恥と疲労ですっかりガビガビになった、イクトの声だった。
《誰wwwwwww》
《声どこに置いてきた》
《本体が一番声違うの草》
《アニキ返して》
《アネキ返して》
《96kHz/32bitからのomake.mp3》
《急に音質まで現実に戻るな》
「モウヤラナイデスカラ!!」
《二回言ったw》
《お布施した甲斐がありました》
《これが「僕の覚悟に対するお布施」の末路》
かくして、羞恥心と引き換えに世へ放たれたそのボイスは、
別の意味でもリスナーに衝撃を与えたという。




