11話ある種の祭り当日
「そういえば、就職の合否がまだ来てないんですよね」
《お祈りは連絡なしのパターン?》
「合否にかかわらず連絡しますとは言われているので……人事の方に確認してみようかな」
《大変申し訳ございません。もし、この場でお伝えしてもよろしければ、ご連絡できます》
「人事いたw」
《えっ本物?》
《採用担当、配信見てるの?》
《面接を担当した部署の間で、配属先について少々調整がありまして。通常は配属が決まってから結果をお伝えする流れなのですが……》
「あー、まだ決まってない感じですか」
《いえ。率直に申し上げますと、採用です》
「……え?」
《おめでとう!!!!》
《本人が最後に知る採用結果》
《企業の人事フローを狂わせる主》
《主、TVデビューおめ》
「はい? 何の話ですか?」
《『転生者を自称する謎の青年・イクト氏を検証』って告知やってた》
「……え。すっごく困ります。両親には何も言ってないんですよ」
《ここまで大公開してるのに?》
「両親はネットに疎いので、テレビで報道されない限り問題ない設計だったんです。……最大の脆弱性でもあったんですが」
「皆さん、僕は今、冷や汗が止まりません」
イクトは画面の外に置いていたスマホを手に取った。
「着信履歴が……着信60件になってます。仕事中のはずなのに」
《60件!?》
《仕事どころじゃなくなってる》
《人事さん、これ見て来たの?》
《はい》
「ああ……採用連絡より先に、実家から障害通知が来てる……」
《音消えた》
《めっちゃ謝ってる》
《今まで見たことない角度で頭下げてる》
《人事さん、採用初日から大変ですね》
《まだ入社してません》
《反論失敗した》
《あ、また下がった》
《採用祝いと実家バレが同じ配信で起きるな》
父です。これから家族会議をするので、イクトの配信はここで終わらせます》
「……父さん、コメントしなくても、今電話で聞いたから」
《お父様いらっしゃいませwww》
《主、がんばれw》
《家族会議、配信しないんですか?》
「しません。」
《即答》
《今日いちばん強い否定》
「では……急ですが、今日はここで終わります。人事の方、採用のご連絡ありがとうございました。皆さんも、お祝いありがとうございます」
イクトは一度、コメント欄から目をそらした。
「……行ってきます」
《いってらっしゃいw》
《生還報告待ってる》
「えっと……母は、知ってました」
《え?》
「僕が生まれる前に、夢で何かいろいろ言われたらしいです。でも、子供を授かったときってそういうものなのかな、と思って、今日まで何も言わなかったそうで」
《母つよい》
《そこ流すところか?》
「父と一緒に『そんなわけあるか!』って突っ込みました」
少し笑ったあと、イクトは声を落とした。
「父には、『お前はちゃんと俺たちの息子なんだよな』って聞かれました」
「小学校のネットワーク障害をきっかけに、前世の記憶を思い出しただけです。それまでの僕も、それからの僕も、ちゃんと二人の息子ですよって伝えました」
《……よかった》
《お父さん、そこが一番怖かったんだな》
「……というわけで、両親とはちゃんと話せました」
イクトはほっとしたように笑った。
「それで、今回の番組を作った方々へ。ひとつだけ」
笑顔のまま、カメラをまっすぐ見た。
「僕への確認も、放送への承諾もありませんでしたよね。おかげで両親には、僕の口から話す前にテレビで知ってもらうことになりました」
《主、顔怖い》
《目が全然笑ってない》
「……何をどう確認して放送したのか、まずはお話を伺いたいと思っています」
《静かなのが一番怖い》
《主が珍しく本気で怒ってる》
「BPOってナンバンカナァァァ。弁護士の方がいいカナァァァ」
《声は軽いのに目が笑ってない》
《これがあまり怒ったことない人の本気の怒り……》
《とりあえず落ち着いて、主》
「落ち着いてますよ? どこに何を確認するか考えているだけです」
《それを笑顔で言うのが怖いんだよ》
「いや、でも……僕が話すきっかけを逃していたのは事実です」
イクトは笑みを消して、少し言葉を探した。
「ちゃんと、不安にさせない言葉を考えるのに時間がかかった――と言えば、それっぽい言い訳にも聞こえます。でも、今世の家族に心配をかけたくなかったのは、本当です」
「いつ、どう伝えるか。それだけは僕が決めたかった」
「……そこは、ぶち壊されましたけど」
《主……》
《それは自分の言葉で伝えたかったよな》




