表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/95

第85話:すれ違いの六畳一間(前編)

 両想い。


 この二文字の破壊力を、二十八歳にして初めて理解した。


 あのキスから三日が経った。花畑事件の後、エリオットが半日かけて部屋を修復し、るんすけのメンタルケア(なぜか充電ドックに引きこもって出てこなかった)も済ませ、六畳一間は平穏を取り戻した。


 だが、平穏なのは部屋だけだった。


 私の心臓は、全く平穏ではなかった。


 § § §


 問題は、夜だ。


 六畳一間には、布団が一組しかない。


 今まではエリオットがソファで寝て、私が布団で寝ていた。同居開始当初からのルール。「殺される可能性のある男と同じ布団で寝るわけがない」という、イケメンアレルギー全開の鉄壁ルール。


 だが今、そのルールの根拠が完全に消滅していた。


 イケメンアレルギーは治った。処刑台の恨みは消えた。この男のことが好きだと自覚してしまった。


 つまり——六畳一間で、好きな男とソファと布団に分かれて寝る、というこの状況は。


(お泊まり会じゃん)


 そう。二十八歳の女と、見た目三十前後(実年齢四百超え)の男の。六畳一間での。お泊まり会。


 もうとっくに同居してるのに、今さら何を動揺しているのかと自分でも思うけど。でも「同居人」と「好きな人」では、隣にいる人間の重力が全然違う。


 § § §


(どうする?)


 夜。シャワーを浴びた後。パジャマに着替えた。いつもの安売りのジャージ。


(いや、これはダメじゃない?)


 鏡を見た。ボロボロのジャージ。毛玉だらけ。色あせ。膝が伸びている。施設時代から着倒しているやつ。


(二十八歳が好きな男の前に出る服じゃない)


 クローゼットを漁った。何かないか。もう少しマシなやつ。


 ——なかった。


 限界OL(かつ元施設育ち)のクローゼットに、「気合いの入ったパジャマ」などという概念は存在しなかった。仕事着とジャージしかない。下着だって全部ユニクロの三枚パックだ。勝負下着? 何それおいしいの?


(もういい。ジャージで行く。ジャージ上等。中身で勝負する)


 何と勝負するのかは、深く考えないことにした。


 § § §


 リビングに出ると、エリオットはソファに座って本を読んでいた。最近は日本語の小説も読むようになった。今日は太宰治。なぜ太宰。


「お風呂上がった?」


「うん」


「髪が濡れている。風邪を引く」


 エリオットが、指先から温風の魔法を出して、私の髪を乾かし始めた。いつものルーティン。


 でも、今日は違う。


 エリオットの指が、私の髪に触れるたびに、心臓が跳ねる。ドクドク。ドクドク。うるさい。こんなに心臓がうるさかったっけ?


「顔が赤い」


「のぼせただけ」


「嘘だな。脈拍が上昇している。体温も通常より0.8度高い」


「バイタルいちいち計測しないで!?」


 髪が乾いた。エリオットが手を下ろした。


 沈黙。


「……ねえ」


「何だ」


「今日さ、その……布団、一緒に……」


 言いかけて、やめた。


 エリオットの顔を見たら、完全にポーカーフェイスで、蒼い目が静かにこちらを見ていて、あまりにも動揺の「ど」の字もなくて——なんか、自分だけバカみたいに感じて。


「……なんでもない。おやすみ」


「おやすみ」


 逃げるように布団に潜り込んだ。


 § § §


 布団の中で、天井を見つめた。


(何やってるの、私)


 二十八歳。年齢イコール彼氏なし歴。恋愛経験ゼロ。


 好きな男が六畳一間の向こう側にいて。お互いの気持ちはもうわかっていて。なのに——


(ソファ、あっちで一人で寝てるんだよね、あの人)


 数百年の暗闇で、誰にも触れてもらえなかった男が。今夜もまた、一人で。


(……私が声かけなきゃ、あの人は永遠にソファで寝るんだろうな)


 わかっている。礼儀正しいとか、紳士的だとか、そういうレベルの話じゃない。この男は——怖がっている。


 自分が一歩踏み込んだら、四百年分の感情が暴走して、私を壊してしまうかもしれない。あの花畑事件が、それを証明してしまった。


(面倒くさいなぁ、もう……)


 限界OLと最強の大魔法使い。両想いなのに、一ミリも進展しない六畳一間の夜。


 明日こそ。明日こそ、なんとかする。


 ……たぶん。


 § § §


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

両想いになったのに全然進まない二人!


ジャージしか持ってない限界OLの勝負服問題と、ポーカーフェイスの裏で実は限界のエリオット。すれ違いの六畳一間は続きます。


フォロー・応援(♡)・★での評価が、続きを書く力になります!

感想・コメントは全件お返事します。「ジャージ上等に爆笑した」「バイタル計測するなwww」「両想いなのに一ミリも進展しないの最高」なんでも嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ