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限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


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第82話:赦しの夜(後編)

 朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいた。


 目を開けた。ソファの上。体が痛い。首がバキバキ。でも、不思議と清々しかった。


 隣を見た。


 エリオットが、眠っていた。


 ソファの端で、窮屈そうに体を折りたたんで。長い足が床にはみ出して。銀色の髪が顔にかかって。


 ——寝顔。


 初めて、こんなに近くで見た。


 起きている時のエリオットは、常にポーカーフェイス。冷たい無表情か、あるいは真顔のまま狂気的な甘さを放出するかの二択。でも、寝ている今は——


(子供みたい)


 眉間の力が抜けている。口元が柔らかい。まつ毛が長い。こんなに長かったっけ。


 この顔で四百年生きたのか。この顔で数百年の暗闇に一人で座って、誰にも触れてもらえなかったのか。


 § § §


 前世の記憶が、走馬灯のように過ぎた。


 宮廷の回廊。書類の山。キャンドルの灯り。隣に座って帳簿を読んでいたエリオットの横顔。あの頃から、この男はポーカーフェイスだった。でも時々——本当に時々だけ、お茶を渡すと、口角がほんの少しだけ上がった。


 あの微かな笑みが好きだった。


 認めたくなかったけど。二十八年間ずっと。前世も今世も。この男の笑顔が好きだった。


(ああ、もう——)


 ごまかすの、やめよう。


 私は、そっとエリオットの頬に手を当てた。


 冷たかった。いつも通り。でも、その冷たさがもう怖くない。


「……許す」


 声に出した。小さく。眠っている男に聞こえないように。


「全部、許すから。もう自分を責めないで」


 頬に触れたまま、言葉を続けた。


「前世で処刑されたこと。あんたが黙ってたこと。四百年かかったこと。全部——許す。だからもう、あんたが自分を罰する必要は、どこにもない」


 エリオットの寝息が、規則正しく聞こえている。


「あんたの償いは、もう充分だよ。充分すぎるくらい。だから——」


 声が震えた。


「これからは、私のために生きて。償いじゃなくて。義務じゃなくて。あんたが、あんた自身のために——」


 § § §


 エリオットの瞼が、微かに動いた。


 ——起きてた?


 心臓が止まりそうになった。


「い、今の聞いてた!?」


「……」


 返事がない。寝息が聞こえる。


 寝てる。寝てるよね? 寝てるはず。お願いだから寝てて。


 頬から手を離して、そっと立ち上がった。顔が熱い。鏡を見なくても、真っ赤なのがわかる。二十八歳の限界OLが、寝てる男の頬を触りながら独白とか、冷静に考えたら完全に事案だ。


 台所に逃げた。水を飲んだ。冷たい水が喉を通って、少しだけ頭が冷えた。


(何してるの、私)


 でも、後悔はなかった。


 言いたかったことを、やっと言えた。本人が寝てたとしても——いや、寝てたからこそ言えたのかもしれないけど。


 § § §


 朝食を作ろうとして、冷蔵庫を開けた。


 卵がある。パンもある。バターも。


(……作れるか?)


 この数ヶ月、朝食はずっとエリオットが作ってくれていた。私の朝は、この男の完璧な料理で始まるのが当たり前になっていた。


 でも、今日は私が作る。


 フライパンを出した。バターを落とした。卵を割った。


 ——失敗した。


 黄身が崩れた。白身が焦げた。フライパンにこびりついた。


 もう一回。


 ——また失敗。


 三回目。


「……何をしている」


 振り返ると、エリオットが台所の入り口に立っていた。銀髪がぼさぼさ。寝起き。


「朝ご飯。作ろうとしてる」


「君が?」


「悪い?」


「いや。だが、卵が三個犠牲になっている」


「うるさい」


 四回目のトライで、なんとか形になった。若干焦げてるし、形がいびつだし、ケチャップでるんすけの顔を描こうとしたけど何の生物かわからない物体になったけど。


 テーブルに並べた。


「はい。朝ご飯」


 エリオットが、皿を見つめた。


 長い沈黙。


「……これは何の生物だ」


「るんすけだよ!!」


「そうか。るんすけか。私には深海魚に見えるが」


「食べて!!」


 § § §


 エリオットが、フォークで一口食べた。


 咀嚼した。


 飲み込んだ。


 そして——蒼い目が、微かに潤んだ。


「美味しい」


「嘘つけ。焦げてるし形むちゃくちゃだし」


「美味しい」


 二回目。同じ言葉。同じ声。でも、震えていた。


「前世で。宮廷の厨房で、君がうどんを作ってくれた時と——同じ味がする」


「いやさすがにそれは……味覚おかしいでしょ」


「おかしくない。君が作った料理の味は、四百年経っても忘れない」


 ——この男は。


 反則だ。


 焦げたオムレツに泣くな。四百年の記憶を持ち出して泣くな。こっちまで泣くから。


「おかわりは?」


「……もらおう」


 二人で、焦げたオムレツとちょっと硬いトーストを食べた。


 いつもの朝食より、百倍不格好で。味も大したことなくて。


 でも——二人とも、笑っていた。


 § § §


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

寝顔に触れて、やっと言えた「許す」の言葉。


そして初めて奈々が作った朝ご飯。焦げたオムレツを食べて泣くエリオットに、笑ってしまいました。


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感想・コメントは全件お返事します。「寝てるエリオットの頬触る奈々かわいすぎる」「焦げたオムレツのシーンで号泣した」「深海魚に見えるるんすけwww」なんでも嬉しいです!

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