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限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


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第58話:令嬢の逆襲(後編1)

――ふっ、と。


 光が、消えた。


 金色の髪が、毛先から元の黒に戻っていく。碧玉の瞳が、いつもの焦茶に。紺碧のドレスの輪郭が揺らぎ、くたびれたリクルートスーツに溶け戻る。

 まるで水面に映った幻が、さざ波に崩されるように。


 会議室に、数秒間の沈黙が落ちた。


「……今の、は」


 朝倉座長が、掠れた声で呟いた。落としたペンを拾う手が、微かに震えている。


「夢でも見ていたのか……?」


 山本さんが、自分の頬を軽く叩いた。佐々木さんは三度目の眼鏡の掛け直しをしている。

 インドネシアの高官が隣の通訳に何か早口で囁いたが、通訳は首を横に振るだけだった。タイの高官は両手を膝の上で握りしめたまま、一言も発しない。


 公安の男だけが、冷静に手元の端末に何かを打ち込んでいた。だが、その指先も、わずかに震えている。


 誰もが、たった今見たものを言語化できずにいた。

 金髪碧眼の令嬢。紺碧のドレス。あれは本当に、目の前の黒髪の女性官僚と同一人物だったのか。


 だが――白峰さんの顔から、色が消えた。


 幻だと思いたい全員の意識を引き戻すように、白峰さんの蒼白な顔が、会議室の空気を一変させた。

 三十人以上の目。公安の視線。海外要人の凍りついた眼差し。

 その全てが、栗色の髪のゆるふわ後輩を射抜いている。


 白峰さんは、数秒間、動けなかった。


 だが、彼女はまだ折れなかった。


「……先輩、何を言っているんですかぁ?」


 声を出した。いつもの甘い声。震えてはいるが、まだゆるふわの殻を被っている。


「状況証拠だけですよね。私がプロジェクトルームにいたことと、実家のメールシステムが使われたことは認めますけど、それは私以外の誰かが実家のシステムを悪用した可能性だって……」


 白峰は「私」を連呼した。だが、その声は明らかに震えていた。


 白峰は必死に反論しようとした。

 だが、奈々は微動だにしなかった。


「白峰さん。もう一つ、証拠があります」


 画面が切り替わった。


「あなたが不正送信を行った月曜日の午後三時十七分。あなたのIC入退室記録では、プロジェクトルームに三時五分に入室し、四時にフロアを退室しています。しかし――」


 奈々がマウスを動かし、別のデータを表示した。


「経産省のセキュリティログによると、あなたの省庁支給PCは午後二時五十八分にスリープ状態に入り、四時一分に復帰しています。つまり、午後三時から四時の間、《《あなた自身のPCは一度も使われていない》》」


 白峰さんの目が見開かれた。


「一時間もの間、自分のPCを放置して、プロジェクトルームの中で何をしていたのですか?」


 沈黙。


 白峰さんの唇が、わなわなと震え始めた。


「それ、は……お手洗いに……」


「一時間もですか? しかも、お手洗いの方向のICカードゲートを通過した記録はありません。あなたはプロジェクトルームの中にずっといた」


 白峰さんの反論が、完全に詰まった。


「白峰さん。あなたが仕掛けた最初の罠たちは、もっと巧妙だった。でも、この最終手段はあまりにも杜撰すぎる」


 そう、前世で彼女が仕掛けた罠に比べて、あまりにも杜撰すぎる。 私は、彼女を真っ直ぐに見据えた。


「実家の私設ドメインを使い、ご丁寧に自分のPCをスリープ状態にしたまま私の席で作業をする。少し調べればすぐに足がつくことくらい、あなたなら分かっていたはずよ」


 白峰さんの肩が、びくりと跳ねた。


「あなたは焦っていたのよ。私があなたの罠を次々と自力で解除していくから。計画通りに私をどん底に落とせない焦りと執着が、あなたの冷静な判断力を奪ったんだわ」


 それが恐らく、この杜撰な罠を仕掛けた理由だろう。

 奈々が、静かに、しかし確実に、白峰の罠の構造を解体していく。それは前世の経験で構築された、一点の隙もない論理の城。


 エリオットは、その姿を見つめていた。

 先ほどの幻影は消えた。だが、奈々の纏う空気は変わっていなかった。

 黒髪のリクルートスーツの下に、紛れもなくカレンシュの魂が宿っている。


(……強くなったな、カレンシュ)


 あの時よりも、遥かに。


 § § §


 追い詰められた白峰さんの顔が、変わった。


 ゆるふわの笑顔が、剥がれ落ちた。

 代わりに現れたのは、前世の聖女の顔だった。


「……どうしてよ」


 声が変わった。甘い語尾伸ばしが消え、低い、震える声。


「どうしてよ、お姉様……」


 会議室がざわめいた。「お姉様」という呼び方に、全員が困惑している。


 白峰さんは立ち上がった。椅子が倒れた。


「今回こそ私があなたを助けてあげるはずだったのに!」


 叫んでいた。

 公安の男が身構える。朝倉座長が「白峰さん!」と呼びかける。

 だが白峰さんは聞こえていなかった。


「いつも、いつもそう! あなたは何でも一人でできて、何でも一人で解決して、私のことなんか《《いらない》》! いつも私から全てを奪って!」


 涙が溢れていた。

 ゆるふわ後輩の殻が完全に砕け、剥き出しになった感情が会議室に叩きつけられている。


「私があなたをどん底に落として、ボロボロにして、もう立てなくなった時に、そっと手を差し伸べて『私がいるから大丈夫よ』って言えばよかったのに……あなたは全部自分でひっくり返して、また私に何も残してくれなかった……!」


 会議室の全員が、呆然と白峰さんを見つめていた。

 この錯乱。この叫び。国家機密流出の犯人が、被害者に向かって「なぜ私に救済される側でいてくれなかったのか」と泣き叫んでいる。


 そして、白峰さんの口から、もう一言。

 極限の錯乱の中で、誰にも理解できない言葉が漏れた。


「何度やり直したって、あなたは……!」


 白峰さん自身が「何度」と言った瞬間、自分でも驚いた顔をした。

 彼女の認識では、これは「一度目のやり直し」のはずだった。前世と今生、二回だけ。

 なのに、口が勝手に「何度」と言った。


 一瞬だけ、白峰さんの瞳が虚ろに揺れた。

 まるで別の時間の記憶が、一瞬だけ混ざり込んだように。


 だが、それは誰にも気づかれなかった。


 § § §


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

白峰さん、完全崩壊。ゆるふわの仮面が粉々に砕け、前世の聖女の絶叫が会議室を震わせました。


「何度やり直したって」——白峰さん自身も理解できない、別時間軸の記憶の混濁。この一言が、物語の遥か先に繋がっています。


フォロー・応援(♡)・★での評価が、続きを書く力になります!

感想・コメントは全件お返事します。「ざまぁ最高」「でも白峰さんが可哀想でもある」「何度やり直しても……ってどういうこと?」なんでも嬉しいです!

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