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限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


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第45話:令嬢の交渉術(後編)

 会議の中盤。

 関税免除の範囲について、タイとインドネシアの間で意見が対立した。


 タイ側は広い免除範囲を求め、インドネシア側は自国産業の保護を主張する。いずれも正当な立場であり、どちらかを選べばもう片方が離脱しかねない。


 朝倉座長が困った顔で私を見た。

 大丈夫。このチームのメンバーは優秀だ。だから、私は翻訳に徹する。ただし、ただの翻訳者ではない。


 前世では何度もこんな場面を経験してきた。翻訳するときの語調、そしてさりげない誘導。幾つもある落としどころの中から、両国が納得できる妥協点に向かって誘ってゆく。


 会議が白熱する中、私は朝倉さんに向かって挙手した。


「あの、朝倉さん。ちょっとよろしいですか? 翻訳の分を超えていますが私から提案があります」


「ん? 何かな?」


「これは、三国のどこもが納得できる妥協点だと思います」


 私は一拍置いてから、タイの高官にタイ語で語りかけた。


「ท่านครับ、ผมเข้าใจข้อกังวลของท่านดี――お考えはよく理解しています。ですが、段階的な免除の拡大という『第三の選択肢』をご検討いただけませんか」


 続いてインドネシア語に切り替えた。


「Bapak, kami sangat menghargai posisi Indonesia. 提案としては、最初の三年間は現行関税を維持し、結果に基づいて段階的に緩和する。これなら貴国の産業を守りながら、長期的な成長も確保できます」


 両国の代表が、顔を見合わせた。


 第三の選択肢。どちらも損をしない妥協点。

 前世のカレンシュが、国王の無茶な要求と隣国の頑固な主張の間で幾度も編み出してきた、「全員が勝つ交渉術」。


 タイの高官が、ゆっくりと頷いた。

 インドネシアの担当者が、メモを取り始めた。


「……素晴らしいご提案です」


 マレーシアの代表が、感心したように声を上げた。


 会議室の日本側メンバーが、全員、私の方を見ていた。

 もう誰も、「名もなき中小企業の一般職」だとは思っていなかった。


 § § §


 会議終了後。


 分厚いファイルが閉じられ、会議室に沈黙が降りた。

 それから、拍手が起きた。


 最初に手を叩いたのは、あのペンを落とした経産省のエリートだった。次に外務省の担当者。コンサルの人間も、シンクタンクの学者も。朝倉座長が、穏やかに微笑みながら深く頷いている。


「小松さん。見事でした」


 足がガクガクしている。正直、今にもへたり込みそうだ。

 でも、立っている。前世の令嬢は、どんなに疲れても人前で膝を折らない。


「……ありがとうございます。高橋さんのご回復を、お祈りいたします」


 白峰さんも、席で拍手をしていた。にこにこと、完璧な笑顔で。

 ありがと、心配してくれてたんだね!

 でも私、大丈夫だから!


 § § §


(――嘘でしょう)


 笑顔の奥で、白峰の歯が軋んでいた。


 神の力で通訳を潰した。三カ国語のハードルを突きつけた。

 なのに、この女は全て自力で突破した。


 魔法でも、チートでも、エリオットの助けでもない。

 純粋な「語学力」と「交渉術」という、ただの人間のスキルで。


 前世でも、今生でも。

 お姉様は、いつだって自分の力だけで切り拓いてしまう。


 白峰の拍手が、一瞬だけ止まった。

 すぐに再開して、笑顔に戻った。でも、その瞳の奥から、最後の余裕が消えた。


 § § §


 廊下で朝倉氏に声をかけられた。


「小松さん。やはり、あなたをお呼びして正解でした」

「いえ、そんな……」

「次回の会議でも翻訳と、そして物流セクションの主担当をお願いできますか」


 主担当。WAGEプロジェクトの、主担当。


「……はい。喜んで」


 声が震えていないか心配だったけど、たぶん震えていた。

 だけど、朝倉氏は穏やかに笑って、「期待していますよ」と言ってくれた。


 § § §


 帰り道。


 池袋のマンションのドアを開けた瞬間、玄関にエリオットが立っていた。


「おかえり」

「……ただいま」


 靴を脱ぐ力が残っていなくて、玄関に座り込んだ。


「見てた?」

「見ていた」

「どうだった?」


 エリオットの蒼い瞳が、一瞬だけ揺れた。


「……見事だった。あの頃の君を、思い出した」


 前世の宮廷。各国の大使を相手に、堂々と渡り合っていた十八歳のカレンシュ。

 この男は、その姿を永い間ずっと覚えているのだ。


「お疲れ様。風呂を張ってある。夕食は君が上がってからだ」


(……このヒモ、たまにすごくいい仕事するんだよな)


 靴を脱いで立ち上がった。足はまだ少し震えている。


「エリオット」

「何だ」

「……だし巻き、四個にして」

「三個増量して七個にする」


 増やしすぎだよ。太っちゃうよ?


 § § §


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

三カ国語を操る令嬢の交渉術、炸裂しました。通訳不在のピンチを、前世のスキルで完全突破。


神の力(呪詛)すら、「ただの人間の語学力」で打ち砕かれる。白峰さんの顔から、ついに余裕の笑みが消えました。


フォロー・応援(♡)・★での評価が、続きを書く力になります!

感想・コメントは全件お返事します。「カレンシュ最強」「だし巻き七個はだめだろw」「白峰の余裕消えた……」なんでも嬉しいです!

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