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小さな死神と老いた魔術師  作者: 樫吾春樹
何度目かの四季を越え
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第二十七話

 色々と説明を受けながら、俺はそれを一つ一つ頭の中で整理していた。

「つまり、昨日の服装は仮装のようなものだと?」

「仮装と言うよりは、昔の姿だな」

「なるほど。それで今は、ヤクザの組長というわけか」

「そういうことです」

「シリンもシリンで、大変な男を選んだな……」

「ははは……」

 彼女も苦労しそうだなと思いながら、目の前にいる人物を見ていた。スーツといった服装が堅気らしいとは思うが、優しそうな顔つきのためそういう役職の人物にはどうしても見えなかった。

「お前、本当に組長?」

「そうですよ。ここに来てから始めたので」

「あ、はい……」

 この世界に来てからだと、そんな月日も経ってないはず。道理で見えないわけだ。目の前にいる組長は、つい最近までただの不良だったわけだからだ。何年間かやってるわけでも、その家柄に生まれ育ったわけでもなかった。

「そうだ、コトリさん。試合とかって好きか?」

「嫌いじゃないな。そういう催しとかやってるのか、ここの世界」

「ああ、やってる。俺もそれに参加しようかと思ってな」

「へえ。俺も参加してみるかな……」

 そういった催しがあるなら久しぶりに身体を動かすために参加するのも悪くないし、組長さんも参加するなら実力を見るのにも丁度いいだろう。他の参加者も気になるところだが、その時になってわかった方が面白い。

「そういえば、どこかに行くんじゃなかったのか?」

「あ、そうだった。ありがとな」

 お礼を言ってから手を振ってその場から離れ、目的の場所を探すために歩き始めた。これだけ人が多ければ、食品とか取り扱っている店はありそうなのだが。しばらく散策しながら歩いていると、それらしきお店を見つけた。

「ここみたいだな」

 外観はごく普通の家のような感じで、そこに看板が出ていて八百屋だということがわかるくらいだった。近くには喫茶店もあって、今度はそっちにも行ってみようとか考えていた。

「食べ物等は確保できるようになったとして、服とかどうするかな……」

 短い期間なら多少は与えられた能力を使えば過ごせるが、長期間となると季節も変わったりして服装もいろいろと変わる。その度に出すのも大変だし、能力がどれくらい続くのかが俺自身いまいちわかっていない。突然効力が切れたりしたら、場合によっては大変なことにもなりかねない。そういうことを考えるなら、やはり買い揃えた方が無難だろう。

「まずは見つけてからだな」

 お店を見つけられたら、家にいる人と二人で買い物に来ようか。彼が家から出てくれるとは限らないけど。少し頬を緩ませながら、俺は街を歩いていた。

 街を散策してから数日後。シリンから連絡が入り、俺は話を聞くために部屋へと向かっていた。何か頼み事らしいけども、詳しい内容はその場では教えてはくれなかった。

「どんな話なんだろうな。面倒事な気もするが、聞いてみないとわからないな」

 シリン達の部屋の前に着き、俺は壁に付いている呼び鈴を鳴らした。少し待つと扉が空いて、中からシリンが顔を出した。

「そろそろだと思ったわ。中に入って?」

 シリンの部屋の中へと入り、俺は畳に座る。

「それで、話って?」

「ちょっと彼が、厄介事に首を突っ込んだみたいで組に被害が飛びそうで……」

「やっぱり面倒事か…… 俺に番犬でもしろってことか?」

「そういうこと…… 報酬は出すから」

「報酬はいらない。シリンから貰うほどじゃないし。頼みは聞くから心配するな」

「ありがとう、琴織」

「いいって。母さんの相方からの直々のお願いだしな」

 その後シリンから組の住所を聞いてから、部屋を出てその場所へと向かい始めた。どうやらその建物は、街外れの森の近くにひっそりと建っているようで、見つけるのはそこまで難しくなさそうに感じた。

 しばらく歩いていると、それらしき建物が見えてきた。割と広くて、これなら避難所としても使えそうだなと考えた。ヤクザの建物を避難所とするのも、ちょとどうかと思うが。「訪問、依頼事歓迎」と書かれている看板が入口にあり、それを軽く読んでから中へと足を踏み入れた。

「お邪魔しますっと。誰かいないか?」

「あれ、コトリさん。どうしたんです?」

「お前の嫁に頼まれて、ここの番犬をすることになったんだよ」

「それは、すまない。来てくれて助かる」

「礼なら自分の嫁に言ってくれ」

 それだけ言い、俺は建物の中に入った。組の中は組員達の共有の台所等があり、その奥にそれぞれ住居スペースがあるようだ。

「あ、そうだ。本部の方の一部屋借りるぞ。そこを会議室として使わせてもらう」

「わかった。いいだろう」

「ありがとうな」

 組の中を歩いて、会議室にする部屋を探す。少し歩いてから丁度良さそうな部屋を見つけ、俺はその前で足を止めた。陽当たりも良さそうで、部屋の大きさも申し分ない。

「この部屋借りるからな、組長」

「わかった。好きに使ってくれ」

「ありがとよ」

 部屋に入るなり机や椅子、ホワイトボードに本棚等の必要なものを出現させる。シリンにどういう状況なのか聞いたが、想像以上に面倒な状況らしかった。そこで、番犬と言う名の司令塔のようなものをやってほしかったのだという。

「まったく…… 組と組長が狙われてるからって、護衛も含めて司令塔とか。シリンも、無茶を言うよな」

 愚痴を溢しながらも、口元は笑みを浮かべていたのだった。

 シリンに頼まれて番犬として、組に身を置くことになってから数日後のこと。今日も平和だなと、思いながら俺は組の掃除をしていた。この世界は揉め事等はあるものの、思っていたよりは平和だった。そのためこういう組織はあるものの、他所の組織と抗争になるというのはほとんどないようだった。

「本当にここの組長、狙われてるのか?」

 狙われてるはずの組長は、ほぼ毎日どこかへ出掛けていたり帰ってくるのが夜遅くだったりとで、本当に狙われているのかと疑うほどだった。

「普通に考えて、狙われてるならもう少し外出控えるよな……」

「何か言ったか?」

「いや、別に。おかえりなさい」

「ただいま。少し奥で休んでくる」

「わかりました」

 外から帰ってきた彼はそれだけ言って、組長室の方へと消えていくのを俺は見送っる。去っていく背中は、だいぶお疲れなのかいつもより小さく見えた気がした。

「何だかんだ言って、組長も大変だな……」

 まだ拙いが彼なりに組長としてその組織を纏めており、その頑張りに組員達も応えようとしていた。そして彼の人柄もあってか、この組に集まる人は少なくなかった。

「よくやってるよな」

 ぽつりと呟いて、手にしていた掃除用具を片付けに行く。そしてそのまま、広い組の中を歩いて回まわることにした。俺が組の中を見て回っていると、設置されている電話機が急に鳴り始めた。

「こんな組に電話?」

 不思議に思いながら、俺は鳴り響く電話の受話器を取った。

「はい、もしもし」

「……」

 だが相手は終始無言だったため、取った受話器を置いた。

「誰だったんだ?」

「無言電話だった」

「変だな……」

 電話の音で起きてきた組長がやってきてそう告げると、もう一度電話が鳴り響きそれを今度は彼が取った。

「もしもし」

 だが、しばらくしてから彼は受話器を置いてしまった。

「無言だったみたいだな」

「そうだ」

 二度もかかってきた無言電話。おかしいと思い組長を見ると、額に赤いレーザーポインターが映っていた。

「伏せろ!」

「えっ」

 叫んだと同時に走り出して組長を突き飛ばし、自分がその場所に立つ。結界を張ろうとするが間に合うかわからない賭けであり、撃たれて倒れる方のが早いだろう。

パリーン

 窓ガラスが割れる音が響き、直後に視界が揺れて後ろに倒れた。

「コトリさん! 大丈夫か!」

 組長の慌てた声が遠くに聞こえる。あとのことはよろしく頼むよ、俺の相棒のエレシュギガル。そう思いながら、意識が沈んでいくのに身を任せた。

 目を覚ますとそこには見慣れない天井が広がっていて、近くで誰かが話している声が聞こえてきた。シリン達なのかと思いながら、ゆっくり身体を起こそうとする。

「意識戻ったんだね、琴織」

「悪いね、シリン」

「まったく…… 私がいなかったら、大変だったからね」

「ごめん……」

 彼女に謝りながら、身体を起こしてベッドに座る。

「それで、これからどうするんだ組長」

「直接ケリを付けに行こうかと……」

「それだけはやめておけ」

「じゃあ、黙って見てろと!」

「そんなことは言ってない」

「なら、どうすれば……」

「まずは落ち着け。組の長がそんなに慌てたりしてたら、下にいる人達が冷静でいられるか?」

 組長はハッとした表情になり、すぐに申し訳なさそうな表情になりになった。

「すまない。予期しなかったことが起きて、ちょっと動揺していた」

「まあ、そうだろうよ。普通に暮らしてきた人なら、こんな事態に遭わないのが普通だしな」

「そうだな」

「よく覚えとけよ、お前がこれから生きようとしている道を。これが裏社会ってものだよ。まだまだ序の口だけどな」

「わかった、よく覚えておくことにする」

「それがいい。さてと、会議室に行くか。これからのことを話そう」

 ゆっくり立ち上がり、俺達は会議室の方へと移動する。これからどうするか。まずは相手の偵察から始めようと思っているが、そう簡単にいくかわからない。そして俺がいない間にここが襲われれば、誰が彼らをフォローするのだろうか。問題は山積みだけども、どうやっても人手が足りていない気がする。数日の間にここの組員達を見てきたが、ほとんどが皆どっこいどっこいで特出して何かが得意という人物はいなかった。ぐるぐると考えが上手く纏まることなく会議室に歩き着き、組長を適当な椅子に座るように勧めてから、俺はホワイトボードに重要点を書き込んでいった。

「今、この組に足りないものはこうだな」

 いくつか書き出していき、早急に問題を解決しないといけないものに赤線を引いた。出てきた問題は、人員の確保と情報網の拡張。そして、組織の方針についてだった。

「やっぱりそうか……」

「わかってたなら行動しろよ」

「すまん……」

「まあいい。今はその話じゃないな。問題は、ここを襲撃したスナイパーだ。何か身に覚えは無いのか?」

「いくつかあって、絞り切れないな…」

 その回答に呆れながら「どれだけ問題起こしてるんだよ」と口にしながら、組長が言い始めた心当たりを追加していった。追加しているのはいいが、彼がここに来てから今日まではそこまで長い期間だったわけでもないはずなのに、どうして数分も書かなければならないほど問題を起こしているのだろうか。「この組長は天性の疫病神ではないか」とさえ感じていた。

「それで、他には何かやってないか?」

「も、もう、大丈夫だと思う。多分」

「多分って付いてる時点でどうかと思うが、まあいい。それで、この中でまだ解決していないのは?」

「二件だった覚えがあるな」

「じゃあ、そのどっちかだろうな」

「かもしれないな」

 解決していない問題以外は全て消して、見やすいように整えた。悪魔族に喧嘩を売るとか、この組長は大丈夫だろうかと不安になる。しかも一体だけではなく、二体だということが余計に厄介だった。しばらく彼には、組で大人しくしててもらおうかなと思いながら、これからどうしたものかとホワイトボードを見ながら俺は頭を悩ませていた。

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