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アオイが名前も知らない少女を見つけた時、若い夫婦の絵がちょうど描き終わるところだった。
赤ん坊を抱えている母親と、隣で背筋を伸ばして座る父親。
絵の大きさ位しかアオイには見えないため、何を描いてもらったのかは分からない。だが嬉しそうに絵を受け取る夫婦から、それが良いモノである事だけは想像がつく。
(今日はあれで店じまいなのかな)
何度も頭を下げる夫婦が去るのを待たず、少女は画材などを順繰りに片付け始める。
細身の体の少女が持つには大きい鞄に、ゆっくりと丁寧に仕舞う所作一つ取っても、碌な仕事道具を持たない回収屋である自分とは違う人間なのだとアオイは見る度に感じていた。
恐らくはどれもが、この街に似つかわしくない程の上等な品々。決して高級品ではなくても、何重にも再利用されるのが当たり前の街においては一級品の地位にある。
(......後ろ盾でもいないと、あんなの使えないよな)
謎多き少女がどこかへと帰るところまで見届けると、アオイの視界が暗くなった。
曇でも出たのかと、空を見上げるとアオイの背筋が一気に冷えた。
「っヤッバ...!」
曇って暗くなったのではなく、日が落ちて暗くなった空を見たアオイは駆けた。
日の入りまでに酒を持ち帰らないと、回収屋に支障が出る程に暴力を振るわれるのだ。
○○○
結果から言えば、アオイはギリギリではあるが帰宅は間に合った。
だが、酒の中毒者である父親には関係なかった。
「遅ぇぞ」
空瓶が転がった部屋の中央で、アオイの父は苛立ちを表すかのように酒瓶で肩を叩いていた。
「......道が混んでいたんだよ。これ酒——」
事実だが嘘でもある理由を口にして、酒瓶を渡す前に力強くで父はアオイが抱えている酒を奪い取った。
ここで表情に出せば、無駄な制裁が待っている。
アオイは必死に心を落ち着かせて、無遠慮に酒を飲む父の邪魔をせずに隣の部屋に向かう。
まともな住居が圧倒的な少数という中、二部屋あるだけでアオイの住む場所は立派な家に該当する。リビングは基本的にアオイ父の部屋となっており、そこを細心の注意をもって自室へと入るのがアオイの一日の締めとなっていた。
(今日はギャンブルに勝ってくれて助かったな......)
酒への依存とギャンブル中毒。
家賃はもちろん、食費や酒代、その他の雑費全てがアオイの支払いとなっている。大勝ちした時のみ、月の酒代だけで吹っ飛ぶ額が卓に置かれているだけで、この家に住めているのが奇跡だとアオイは思っていた。
「——寝よう」
リビングよりも狭い部屋には保存食や、日持ちのするパンなどがある。小分けされたそれらを数口だけ食べて、アオイの意識は途切れた。




