↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第三章 オルフェリアの英雄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

第二十九話 所有物

 この世に生を受けたとき、直感的に理解したのは『この国は妾のもの』ということじゃった。



 

「今日も妾の民は元気じゃな」

「えぇ、皆幸せに暮らせています」

「とーっても笑顔です!」


 寝室の窓から顔を覗かせると、街の景色がよく見える。

 買い出しに行く親子、仕事に向かう人族の男、大きな尻尾を左右に揺らしながら散歩をしている獣人族の少女。

 目に映る人間は皆笑顔を浮かべている。

 

 朝目が覚めたときのルーティンであるその行為に満足すれば、朝食を取るためベッドから立ち上がった。


「本日のお食事は、僕が担当いたしました。エドワーズ様も丁度起きられたようなので、ご一緒に用意しております」

「レノール様! 私も手伝いました!」


 レオンが静かに頭を下げる隣で、レイスが嬉しそうに手を挙げる。

 この二人は双子の兄妹であり、顔立ちはよく似ているが中身はまるで違う。兄のレオンは物静かで、何を頼んでも一度として不満を口にしたことがない。対して妹のレイスは暇さえあれば城の中を走り回り、何かを壊してはレオンに怒られている。


「そうか。二人ともご苦労じゃったな」

「はい」

「えへへ……」


 優しく二人の頭を撫でてやると、照れくさそうに笑顔を浮かべた。

 なんと愛らしいことか。

 

 せっかく作ってくれた料理が冷めないうちに、食堂へと向かった。


「朝が早いのう。エドワーズ」

「それは嫌味か? レノール」


 扉が開くと、椅子に腰掛けているエドワーズが視線に入ってきた。

 既に朝食を食べ始めていたらしく、更の中には焦げた卵焼きだけが残されている。

 何も言わないのも悪いと思い、声をかけながら食事の並べてある向かい側の席へと腰を下ろす。


「いいや? 昨晩は何やら一悶着あったようじゃからのう。飼い犬に手を噛まれる感覚はどうじゃ?」


 小麦の香りが鼻を突き抜け、空腹を刺激した。

 クマの酷い面を眺めながら、フォークに手を伸ばす。


「良い気分とは言えぬな。何も、うまくいかぬ」

「それはそれは、なんとも可哀想じゃのう」

「……余が苦しむのを楽しんでおるのか?」


 楽しいに決まっている。あの小僧に感情をかき乱されている姿は実に滑稽だ。

 いつもは何を考えているのかよく分からない男だが、唯一感情を動かせるあの人間には感謝しかない。

 こんなにおもしろい物を見せてくれたのだ、何か褒美をやらなくては。


「それより、知っておるか? 昨日、妾の民が一人殺害された」

「騒ぎになっていたものだな。まだ犯人は捕まっていないと報告を受けている」

「あぁ、其奴は妾が仕留めた。だが、何やら引っかかるんじゃ」


 白いローブを纏っていたあの男。

 話を聞く前に仕留めてしまったが、何か違和感を感じてしまう。

 どこか、見覚えがあるような……


「引っかかる?……最近は似たような報告が多発しておるからな。被害が出てしまったのは今回が初めてではあるが、ここ一週間で民の不安は募るばかりだ。もうすぐ建国記念祭だというのに」

「……そう、じゃな。あとは妾が調べておく。貴様は駄犬の躾でもしておけ」


 気付けばエドワーズの皿に残っていた卵は綺麗に平らげられている。


「余計なお世話だ」


 そう一言吐き捨て、不機嫌そうに食堂をあとにした。


「あそこまで思いを馳せているのであれば、いっそのこと首輪をはめてしまえば良いのにな」


 全てを自分の物にしたい。

 いや、既に自分の物である妾にとっては理解しがたい関係だ。

 

「レノール様、このあとのご予定は?」

「そんなもの決まっておるじゃろう」


 そんなことを考えながら食事をすべて平らげ、腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がる。

 

「今日のオススメを聞きに行くんじゃ」




「あ、おはようございます、レノさん!」

「うむ、おはよう」


 毎日向かう場所、それは王宮から見える小さなパン屋。

 店内に足を踏み入れると、芳醇な香りが広がり、先程満腹になったはずの胃袋が空になってしまったかのように食欲が湧いてくる。


「今日はどうされますか?」

「決まっておろう? 『今日のオススメ』じゃ」


 彼女はくすりと微笑んだあと、棚に並んでいる一つのパンを手に取った。


「この蜂蜜を使用したパンがオススメです。外はサクサクで、一口齧ると中の蜂蜜が溢れ出す人気商品候補です。新発売なんですよ!」

「ほう、ならば十個買おう」

「いつもありがとうございます! おまけにレノさんがお好きなメロンパンも一つお付けしておきますね!」


 溢れんばかりの笑顔を向けてくるこの少女は、名をルーナという。

 小さなパン屋を一人で経営しており、その腕は一級品だ。

 本当なら王宮で雇いたいが、あの一族以外は使用人になれないという面倒な決まりがある。

 少し残念ではあるが、この国の民ということは妾の物であることに変わりはない。

 ならばのびのびと店を切り盛りするのも良いだろう。 


「感謝するぞ……何か、元気がないようじゃが。なにかあったか?」


 いつもと同じような笑顔を向けてくれる彼女だったが、何故か少しだけいつもより元気がないように見えた。ただそれだけだったが、ルーナの表情が明らかに曇った。


「やっぱりレノさんにはバレちゃうんですね」

「妾にわからぬことなどこの世に存在せぬからな。で、何があったんじゃ?」


 言いにくそうにしながらも、ルーナはゆっくりと口を開いた。


「実は、とても仲の良かった人が亡くなってしまって……」


 まさか、いや、きっとそのまさかだろう。

 昨日殺害された男の店はパン屋の隣であり、今も警備員が騒がしく調査を進めている。


「隣の店の店主か」

「そうです。よく世間話をしたり、お店の経営について相談したり、彼の故郷のお話を聞いたりしていました。本当に、仲が良かったんです」


 ポロポロと瞳から雫を溢し、震える声で話す。


「私は、彼が殺害される瞬間を見ていました。魔法で彼を守ろうとしたとき、攻撃が私に向かって放たれました。それを庇おうとして……」

「そうか」


 なんとも憎らしい話だ。

 妾の大切な民に危害を加えるなど、到底許せる行為ではない。


「そして、言っていたんです。『我らは黎明の神子。グランヴェル帝国の英雄であるキリュウ・カイトと共に、この国の黒髪黒目の人間を神への捧げ物とする』と」

「黎明の神子……」


 まさか、また奴らがこの国を襲うとは。

 五年前に大量虐殺を行った極悪非道の組織。最近はパタリと被害がなくなっていたというのに、何故このタイミングで……。

 それに、キリュウ・カイト。確かに、奴らが来てから犯罪の報告件数が異様に増えている。

 新たに二人の人間を王宮に連れ込んでいたのは、この国を滅ぼすためか?


 思考をグルグル回していると、ルーナが心配そうに言葉を続ける。


「グランヴェル帝国といえば、オルフェリア王国と敵対している国ですよね。もしかしたらレノさんにも何か被害が及ぶんじゃないかと、怖くて」

「妾は大丈夫じゃ。それよりも、ルーナのほうが心配でならん。何かあればすぐに逃げるんじゃぞ」


あまり無理はするな、そう伝え、商品を受け取った。


「そうじゃ、ルーナは祭りにいく予定はあるか?」

「いえ、行く相手も居ないですし、家でのんびり過ごそうかと」


 もうすぐオルフェリア王国の建国記念日。その日には盛大な祭りが行われ、街には屋台が並び、綺麗な花火が上がる。


「なら、妾と回らぬか? 午後は用事があるんじゃが、午前中は出店を楽しみたくてな」

「え、いいんですか!? 私も、レノさんとお祭り行きたいです!」


 ルーナは頬を真っ赤に染めながら了承してくれた。

 当たり前だ。妾に誘われて喜ばない人間など存在しない。


「そうか。なら、午前七時に迎えに来る。楽しみにしておるぞ」

「はい! 楽しみにしています!」




「レイス」

「はい、レノール様!」


 王宮に戻り、袋を手渡しながら命を下す。


「カイトを監視しろ」

「分かりました!」


 建国記念日まで、あと一週間。それまでに必ず方をつけなくてはいけない。


「レオン」

「はい、レノール様」


 民に危険が及ぶようなことは決して許さない。

 ただ、それだけだ。


「この世界で最強と名高いヘクトルを殺せるか?」

「それは勿論」


 頭を深く下げながら、双子は言う。


「レノール様のためならば」

「神でも悪魔でも殺してみせます!」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。