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神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第三章 オルフェリアの英雄

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第二十七話 消えたはずの記憶

「その意見には賛成できねえな」


 翌朝、俺はカイト達を一つの部屋に集め、

 『代々王家のものが鍵を管理していたが、今はここに存在していない』

 と昨日エドワーズから聞いた話を伝えた。

 それを踏まえ、明日に次の国へと向かうと言ったが……カイトはそれが納得できないらしく、不満げな表情を浮かべている。


「何故だ? 留まっている時間が惜しい。俺達は一刻も早く鍵を見つけ、グランヴェル帝国へと帰らなくてはいけない」

「いいや、その情報を下に書庫で更に調べたり、聞き込み調査したりできるだろ。そんなに急ぐ必要がどこにあるんだ?」


 急ぐ必要がない? 何を言っているんだか。

 俺はグランヴェル帝国を支えるために産まれてきた。認められ、英雄と呼ばれることだけが自分の存在を感じられる唯一の方法だったのに。

 今すぐにでも祖国へ帰りたい。俺が居ない今、どうなっているのかが気になって仕方がない。

 

 騎士団はちゃんと機能しているのだろうか。このヴェルナスという男が俺の次に腕の立つ奴だと聞いたが、そんな人間が今ここに居るということは、どうなっているか分からない。ルシアンも着いて来てしまったせいでカリスタの負担がひどく、倒れてしまうのではないか。

 国営冒険者は結界を守れているだろうか。俺が家をでなくなってから、徐々に弱まっているのを感じていた。エルミナが手伝うことで耐えていたらしいが、彼女はすでに一般冒険者へと転身している。魔力量が多く、放出口も広い人間などなかなか存在していない。すでに結界が剥がれている可能性が高い。


「今頃、グランヴェル帝国は破滅しているかもしれないんだぞ? 急ぐのも当たり前だ。俺の生きる意味が、消え去ってしまうんじゃないかと、心配で……」


 何か言いたげな表情を浮かべるヴェルナスと、何か考えている様子のルシアン。

 

「その気持ちはわかる。でも、黎明の神子が襲ってきた理由も調べたいじゃん? 何も成し遂げないで国に戻るより、何かをしてから国に戻る方が英雄に近付くと思うんだけど」


 俺達が口論を続けていると、アリステラが話に割って入ってきた。


「私も、もう少し調べてから次の国に行くべきだと思うわ。書庫で調べ物をしていたときは鍵のことは知らなかったし、今なら何か少しだけでも手がかりになる情報が見つけられるかもしれないでしょ?」


 二人の意見については確かに一理あるとは思う。

 だが、俺は……


「僕も二人の意見に賛成です。急いでしまったせいで大事な情報を逃してしまう方が、ヘクトル様にとって不利益になると思います。国の方は、カリスタ様が居るので大丈夫でしょう。信じることも、時には必要ですから」


 五人中三人が同じ意見ならば、多数決で負けてしまうのは確実だ。

 ヴェルナスに視線を移すと、ただにこやかにこちらを見つめているだけで、口を開く様子はなかった。


「わかった。あと一週間滞在して何もなければ次の国へと向かう。これでどうだ?」

「やったー!! ありがと、ヘクトル!」


 ローテーブルを隔てて向かい側に座っていたカイトが立ち上がり、喜びをあらわにしながら抱きついてきた。

 むさ苦しいなと思いながらも、人の体温を感じたことにより、強張っていた体が少しだけ和らいだ気がした。


「ちょっとカイト、一人だけ抜け駆けだなんてずるいわ!」


 そういいながら、何故かアリステラも抱きついてくる。

 右に黒髪黒目の平凡な男カイト、左にサラサラヘアーの銀髪と赤い瞳を輝かせている女性アリステラ。

 カイトが美少女であれば両手に花と言える状況だったが……現実というものはそう上手くはいかないらしい。

 なにか殺気のようなものを感じたが、気づいていないふりをした。


 ◇◇◇


 俺とカイト、そしてヴェルナスの三人で街へと向かい、アリステラとルシアンの二人は書庫で鍵について調べることになった。

 聞き込み調査をすると言っても、誰に話を聞くべきか。

 そう悩んだときに向かうべきは


「冒険者ギルドか」


 古びた木造の小屋には、かすれた文字でそう書いてある。

 様々な国から訪れる旅人が集まる場所といえば、冒険者ギルドだ。

 今にも壊れそうな扉を慎重に開き、足を踏み入れる。中を見渡すと異様に薄暗く、カビ臭い匂いが充満していた。


「こんにちは。冒険者ギルドにようこそ」


 カウンターから話しかけてくる女性。他には誰もいないらしく、騒がしいというイメージからは遠くかけ離れていた。


「こんにちは! 他の冒険者は今日お休み?」

「いえ……普段からここのギルドはこうですよ。登録してくれる冒険者の方がいなくて」


 カイトが気さくに話しかけると、静かな理由をすぐに教えてくれた。

 確かに、こんな古びた建物のギルドで登録したいという人間は居ないだろう。

 変なもの好きでもない限りは。

 情報が手に入らないとわかったなら、もう用はない。

 ここはオルフェリア王国で最も広い街だ。ギルドなんて一つや二つじゃない。

 全て回りきるためにも、さっさと次へ向かいたいのだが……


「なら、俺が登録する」

「はぁ??」


 意味がわからない。

 確かに冒険者が居ないのであればここの経営は困難になり、もうすぐ潰れてしまうだろう。

 だが、それも経営の才がなかったギルド長の落ち度だ。

 情を掛ける必要などない。


「いいんですか?」

「勿論! で、どうすれば登録できんの?」

「待て、お前が今までどこにも属していなかったのはグラン……我らの仕える国で英雄を全うするためだろ。なのに、他国のギルドで登録するなんてどうかしている」


 オルフェリア王国は今、グランヴェル帝国と敵対している。他の国であれば多少は容認できるが、ここでは絶対に駄目だ。

 それを細かく説明するには、カウンターに立っている女性が邪魔になる。

 俺たちが敵国から来たとなれば、よく思わないに決まっている。その噂が街全体に広がれば、たった一週間の滞在でも何が起きるかわからない。

 エドワーズに無理を言って泊めてもらっている身だ、あまり騒ぎになるようなことは起こす訳には行かない。

 

 だが、カイトは止まる様子もなく言われるがままにペンを握り、書類にインクを落とそうとしている。

 なぜコイツはこうもお人好しなんだ。


「別にお前が入ったところで何も変わらない。依頼を受けないとギルド側には利益がないんだよ。一週間後にはここを出ていくんだ、依頼を一つも受けれずに終わる」

「ゴメンだけど、俺は一週間で依頼を受けまくることに今決めた」

「なんだと? ……元々はすぐにこの国を出ようとしていたのを、カイトが反対したから情報を集めようとしてるんじゃないか。言い出した本人が放棄するなんて、有り得ないだろ」


 朝はカイトが話していた意見に同意できたが、今この状況については理解ができない。

 何故潰れかけているというのを知っただけで助けようとしてしまうんだ。

 手を差し伸べたところで、一時しのぎにしかならないのに。

 それでも助けたいと思ってしまうのだろうか。

 

 ……カイトが『英雄』である理由は、ここにあるのかもしれない。

 

「ヘクトルの言うことが聞けないのか」


 鈍い音が聞こえると同時に、カウンターに置かれた書類が真っ赤に染まった。


「は……ぐあああああぁあ!?」


 ペンを握った右腕が地面に転がっていた。

 カイトは痛みを感じながら声を荒げている。

 カウンターに立っていた女性は悲鳴をあげた。


「ヴェルナス、お前何やってんだ?」


 鞘から抜かれた刀身が、薄暗い光をわずかに反射している。


「何、とは? カイト様がヘクトルの話を聞かないので、私は止めただけだが」


 悪びれた様子もなく、ただ事実を伝えてくるヴェルナス。

 まっすぐとこちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳の奥には、何か黒く禍々しい物が見える気がした。

 

 転がる右腕、ヴェルナスの瞳。

 知らないはずの記憶が、脳裏にこびり付いていたかのように断片的に現れる。

 第一信徒から誰かを守るために伸ばした手。

 その隙を狙われ、右腕が宙を舞う。

 振り返った先にあった剣で、右目が貫かれた。

 それでも、その誰かを守れたことに安堵した。

 

 この男は、あの場にも存在していた。

 俺が身を挺して守った相手、

 ヴェルナス・エルカディオン。

 

 ——そして今と同じように、不敵な笑みを浮かべていた

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