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episode.3

パーティーの日がやってきた。


ラクセス城の大広間には、500人ほどのゲストがファランの登場を待っていた。

ラクセスのトップシェフたちが腕によりをかけた料理やデザートがテーブルの上に並ぶ。

各地から取り寄せたワイン、フルーツが色味を添えていた。


アンナは用意されたドレスに着替えた。ドレスといっても来賓の邪魔にならないような、最低限の装飾が入った地味なデザインのものだ。

クリフトはアンナより少し年上のようだが、ファランの付き人として場数を踏んでいるのか衣装が様になっている。


クリフト「見ろ、ワルシュタイン侯爵の御息女のマリー様だ。あっちはイレーズ子爵のところのカテナ様だ。これはとんでもないぞ~!」

アンナ「お詳しいのですね」

クリフト「当たり前だ!そうでないと街ですれ違った時に挨拶をし損ねるだろ?まあ街で貴族と挨拶をする事なんてないんだけどな…」

クリフト「とにかく俺たちは今日の主賓の付き人だ。堂々としてろ」

アンナ「はい!」

クリフト「しかし品は損ねるなよ?」

アンナ「気をつけます」

クリフト「お前の村はずいぶんな田舎の生まれだそうだが、今日の来賓はキラキラした都会のど真ん中の貴族様たちだ。粗相だけはするなよ?」

アンナ「わかりました」

クリフト「料理には手を出すなよ?『おらの村のジャガイモの方がうんめ~』とか言ってたら手打ちにされるぞ?」

アンナ「……言いません!」


なかなか出てこないファランを待ち侘びて、酒と料理が進むゲストたち。

壇上ではカルテットがゆったりとしたクラシック音楽を演奏している。


40歳ほどの二人の地味な貴族がワイングラスを片手に話している。


「さすがラクセスだな。こんなに多彩な料理を出すパーティーは初めてだ」

「ファラン殿の婚約発表だと聞いておるぞ」

「そうなのか?」

「おい、知らなかったのか。なんでも結婚しないファラン殿に痺れを切らして元老院が強引に事を運んでいるらしい。リーデル王子の主催というのは表向きだ」

「どうりでこの料理とワインか。この大陸の30ほどある国のうち、元老院が半分近くの国の宗教利権をお持ちだからな。それはそれは……」

「おい、もっと小声で話せ…!」

「う、うむ」


突然甲高い声が響いた。

「ねえ、ワインは他になにがあるのかしら」どこかの良家の女性が、少し口をつけたグラスをアンナに突きつける。

良家の女性「これ全然美味しくないわ」

アンナ「少々お待ち下さい」

アンナは厨房に行き、スタッフに伝えた。「ワインをご所望の方が…」

スタッフ「そこら辺にあるから適当に持っていってくれ」

ワインの棚を物色するアンナ。

「これ…」その中から一本拝借する。


アンナ「こちらいかがでしょうか?メリーヌ村のワインです」

先ほどの良家の女性「へえ」「……美味しいじゃない」

アンナ「お口にあってよかったです」


「俺にもくれ」後ろからファランが。

近くにいた貴族の娘たち、ファランの突然の登場に色めきだつ。


アンナ「ファラン様…!」

ファラン「……うん、うまいな。お前はワインに明るいのか」

アンナ「いえ私はたまに飲むくらいで…母が好きでしたので」

ファラン「母が?」「このワイン、いい値段するだろう」

(いけない!)焦るアンナ。


「アンナの回想/母の思い出」


母「このワインはね。小さな村で家族経営の葡萄農家が作ってるの」

母「この一杯にとんでもない手間暇がかかってるのよ?」

アンナ「……美味しい!」

母「感謝しなくちゃね。この小さな国の大きな誇りよ」

アンナ「大きな誇り……」

母、愛しむようにアンナを見ながら「こういう素晴らしい仕事をしてくれている人たちを守っていくというのも、王族の大事な役割の一つなのよ」

母「パーティーで偉い人たちとお食事するだけが仕事じゃないのよ」

アンナ「心得ました」

母「とは言っても、あなたのお父様はあまりパーティーにお呼ばれしないけどね」

アンナ「大好きなお父様です」

母「私もよ。ずっと一緒に大事なお役目を果たしていきましょうね」

「……かしこまりました」アンナはにこっと頷した。


アンナ、ファランから目を逸らしながら「いえ、私は当然こんないいワインは飲んだことがなくて…!」

ファラン「ん?そうなのか?」

アンナ(ここは適当に…)「葡萄農場にすこしだけ奉公に行っていたことがありまして…」

ファラン「なるほど。そこで試し飲みでもさせてもらったんだな」

アンナ「そう、そうなんです!」

ファラン「………これはうまい」ファラン、グラスのワインに思わず目を落とす。

アンナ「美味しいですよね!なめらかで酸味も程よくあって」

アンナ「この地方特有の単一品種の葡萄だけで作っているのだそうです」

ファラン「ほう。さすが奉公に出ていただけあって詳しいな。他にも教えてくれ」

嬉しくなるアンナ「はい、喜んで!」


マリーは苛立っている。

マリー(なによあの娘。ファラン様も何よ。あんな身分の低そうな娘に話しかけて…)

マリー、テーブルのそのワインを給仕に注がせる。

マリー、周囲に届くように声を少し高く上げる。「このワインまあまあ美味しいわね。そうね……クジャクなんて合わせたらもっと美味しく感じるかしら」

どこかの貴族「ほう。それは豪勢ですね」

どこかの貴族「「さすがマリー様だ」「孔雀は上級貴族でもない限り、なかなか食べられませんからな」


そのざわつきをよそにファランはアンナに尋ねる。「お前ならこのワインを何と合わせる?」

アンナ「私なら……そうですね…。煮込んだ豆料理なんていかがですか?」

アンナ「色とりどりの豆を白ワインで煮込んで、最後にレモンを一絞り」

ファラン「ワインで豆を煮るのか!面白い発想だな」

ファラン「どこで覚えた?そんな料理を」

アンナ(……しまった)

アンナ「いえ!私も食べたことはないのですがなんとなく美味しそうだな…なんて。ははは……変ですよね」

ファラン「変……確かに変なやつだお前は」ふっと思わず口元が緩む。


それを耳を立てて聞いていたマリー。身分の低そうな女がファランと話しているというだけで腹が立つのに、何やらファランは楽しそうだ。

イライラが募る。「豆なんて田舎くさい!これだから貧乏娘は…」思いの外大きな声が出た。

「品のないお猿さんは山にお帰りなさい」ニヤリとしながら嫌味を言うマリー。

貴族の女たちはくすくす。


ファランに近づくマリー「ファラン様。私……」

その時、どこかの貴族がマリーの言葉を遮る。

「ファラン殿!挨拶が遅れまして申し訳ございません!イゴール公家臣のダイレルと申します!」

「あ、あのファラン殿!私はネミエーム4世の嫡男で……」

ファランの周りを貴族たちが取り囲む。


マリー「ちっ…。まあいいわ。だってファラン様と私は……」

取り巻き女「え?マリー様、何か……」

マリー「あら、いけない」

取り巻き女「?」

マリー「ふふ。もう少ししたら分かるわ」マリーはにやけた口元を扇で隠した。


会場がざわつく。

リーデル王子が壇上脇に、真ん中にファランが立っている。


ファラン「今日はリーデル王子のお計らいで素晴らしいパーティーを開いていただいた。まずは王子に深く礼を言わせて頂こう」

ファラン「宴はまだまだこれからだが……今日は多くの方に集まっていただいたのでひとつ報告をさせていただこう」


「報告?」「なんだなんだ」ざわつく会場。


ファラン、わざとらしく咳払い。「………このファラン・アーネスト」

息を呑む会場の皆。


ファラン「妻をめとることにした」

静まり返る会場。

ファラン「と言っても我が騎士団の習わしで教会に報告して半年後にようやく結婚となるのですがね」

ファラン「教会に報告する前に一足早く婚約者をご紹介させて頂きたい」

会場の誰もが唖然としている。

静まり返って、食器の音ひとつ聞こえない。


ファラン、壇上から降りてくる。

アンナの元にやってきた。


アンナの手を取ると跪き手の甲にキスをした。


アンナ「え?え?」

「!!!!!」ざわめきが静寂が切り裂く。


「どういうことだ?」「あの女性は一体誰だ?」「初めて見る顔だ」

会場の皆は突然の発表に動揺を隠しきれない。


立ち上がるファラン。

ファラン「皆様、今後とも私たち二人をどうぞよろしく」


ざわめく会場。ファランの隣で口を半開きにして呆然としているリーデル王子。

「う~~~ん」ショックで倒れる令嬢も。

悲鳴に近い声も聞こえる。


マリー「嘘よこんなの……絶対……」

マリー「私のファラン様を……」

マリー「……………あの女…………許さない……」

マリー「………許すものですか……」


近くにいた給仕の女性が、マリーの鬼の形相を見て「ひっ」と小さく声を上げグラスを落とした。


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