episode.2
(episode.2)
アンナ、ファランに付いて歩く。
アンナ「あの……なぜ…」
ファラン「ん?」
アンナ「なぜ私をその……」
ファラン「なんだ、そのことか」
ファラン「気まぐれだ」「気にするな」
アンナ「気まぐれ……」
改めてファランの姿をまじまじと見る。今まで見た男性の中で一番背が高い。
切れ長の目、白く美しい顔立ちに金色の美しい髪がよく似合う。
それに加えて…。
(このお召し物……ただの騎士じゃないわ)ファランの服装を見てアンナは思った。
ファラン「それよりここがどこだかわかるか?
アンナ「え……」
捕らえられ地下牢で暮らしていたアンナは、ここがどこだか知らなかった。
ファラン「ラクセスだよ。治めるのはバーンズ王。俺たちが向かっているのはラクセス城だ」
アンナ「ラクセス…」
もちろん知っている。ルーンデルクの何倍もの領土を持つ広大な国だ。
奴隷商人は蛮族から人々を買って、ラクセスなど大国の奴隷オークションで商売をしていたのだ。
ルーンデルクには奴隷市場がなかったので、オークションの存在さえも都市伝説くらいにしか思っていなかったが、
まさか自分が奴隷になってしまうとは思ってもいなかった。
街を歩くと先に城が見えてきた。
幾つもの高い塔が囲う中に真っ白な巨大な城がそびえ立つ。
アンナは思わず息を飲んだ。
(私の住んでいたお城と全然大きさが違う…これがラクセスのお城…)
前を歩いていた付き人のクリフト・マーズが振り返る。
クリフト「ファラン様!ここにて下馬を。馬は私が」
目の前は城門だ。
ファラン「うむ。頼んだ」
ファランはアンナに涼しげな顔を向ける。
城中に入った三人は、用意された貴賓室に入った。
ファラン「よし、お前も来い」
アンナ「え?……私ですか?」
ファラン「ここにはお前しかいないだろう」ファランは無表情で答える。
クリフト「な、なりません!この者は奴隷ですぞ?」慌てて制止するクリフト。
ファラン「奴隷になる前は普通の生活をしていた町娘だろう」
クリフト「町娘でもいけません!王宮にまでなら商人でも入れましょうが、御前に連れて行くなど!」
ファラン「俺と王子の仲だ。気にするな」
クリフト「し、しかし…」
ファラン「俺がいいと言ったらいいんだよ」かなり怖い。
クリフト、若干ひるむ。「……か、かしこまりました」
ファラン「おい娘」
アンナ「は、はい!」
ファラン「王子の前だ。失礼の無いようにな。粗相をしたら…」
ファラン「首と胴体がさよならするぞ?」
アンナ「ひ!」
ファラン「冗談だ」ニヤリとする
アンナ「……!」
ファラン「半分な」やっぱり怖い。
クリフト「ファラン様、王子の前ですのでこれを」
ファラン「めんどくさいな」
従者「これだけはなにとぞ…」
ファラン「ちっ…貸せ」
マントを着用するファラン。
白いマントには金銀赤の三色の糸で刺繍された、聖杯とクロス。
アンナ「まさか……聖騎士…しかもグランドマスター?」
ファラン「ん?お前よく知ってるな?」
クリフト、なぜか偉そうに「このお方はアデル騎士団の騎士団長様だ」
ファラン「ちびるなよ?」ニヤニヤ
アンナ(じゃあこの人が…100年戦争を終わらせた立役者、ファラン団長…)
ファラン「何をじっと見ている。こんな美青年初めて見るか?」
アンナ「み、見てません!」
ファラン「顔が真っ赤だぞ?」
ファラン、アンナに顔を近づける。「お前…よく見るときれいな顔をしているな」
アンナ「え……」
ファラン「王子の前では俺のことじろじろ見るなよ?」
アンナ「……!」
(なんていじわるな人。最初のイメージと全然違う!)
ファラン「そろそろ頃合いか。行くぞ」
アンナ「は、はい!」
クリフトを貴賓室に置き、
ファランはアンナを連れ立って王子の待つ「王の間」に向かう。
通路、天井に至るまで荘厳で、金や貝、珊瑚や宝石などであしらわれた美麗な装飾で埋め尽くされている。
当世きっての職人たちがその才を存分に振るったのは、想像に難くない。
(私の育ったお城と全然規模が違う…。なんて美しいの……)アンナは息を呑む。
王の間に入ると、若い美青年がこちらに向かって歩いてくる。
その衣装と優美な歩き方からアンナはすぐに王子だと分かった。
ファラン「リーデル王子。久方ぶりだな」
リーデル王子「ファラン、変わりはないか」
ファラン「気分はコロコロ変わるがな」
ファラン「その気まぐれで先ほどこの娘と知り合った」
リーデル王子「ほう。その者は」
ファラン「これから俺の従者にする。戦場にも連れて行く」
リーデル王子「……お前なにを考えている。料理人や世話係は足りているだろう」
「それに……お前が女を連れてくるとは」
王子はアンナを見る。アンナは慌てて深く頭を下げる。
リーデル王子「まあいい。今日こそ首を縦に振ってもらうぞ。我が国に来い」
ファラン「騎士なら掃いて捨てるほどいるだろう」
リーデル王子「全員束になってもお前には勝てないだろう」
ファラン「まあ、それはそうだ」
リーデル王子「それに……お前がいないとつまらん」
ファラン「甘えるな。ほら、行きがけに買ったキャンディーだ。それでも舐めておけ」
リーデル王子「ふざけるな。俺がこうまでして頼んでいるのだぞ?」
ファラン「お前は確かに親友だ。俺の心の友だ。だからこそ」
リーデル王子「なんだ」
ファラン「いや、なんでもない」
ファラン「とにかく俺はもう少し今の騎士団にいる」
リーデル王子「………いつかは必ず頼むぞ」
ファラン「じじいになったら来てやるよ」
リーデル王子「ふ……話は終わりだ。酒宴だ。今日は飲むぞ。お前弱くなっていないだろうな?」
ファラン「誰に物を言っている。ワインは瓶で用意するなよ?樽で持ってこい」
リーデル王子「そうこなくてはな。ふふ」
そのやり取りを見てアンナは不思議がる。
(なんて仲がいいの。この王子様、賢王と言われているバーンズ王の嫡子よね…)
リーデル王子「お前、結婚はどうするつもりだ」
ファラン「お前もその話か。か~!まったくどいつもこいつも」
リーデル王子「しかしアデル騎士団の騎士団長ともあろうものが独り身では恰好が付かんだろう。見合いの話も多いのではないか?」
ファラン「今年に入ってから20件くらいきたな。」
リーデル王子「そんなにか!いい人はいないのか」
ファラン「いないが今にも強制的に結婚させられそうだ」
リーデル王子「俺に姉か妹がいたら嫁がせるのだが…」
ファラン「待て待て待て。お前と兄弟なんてまっぴらごめんだぞ」
リーデル王子「お前、俺は一応王子だぞ?」
笑い合う二人。
リーデル王子「まあ…こういう話をするのもだ」
ファラン「元老院の連中がうるさいから……だろ?」
リーデル王子「わかっているではないか。そこでだ。俺の顔を立ててパーティーを開催させてくれ」
ファラン「パーティー?」
リーデル王子「各国の王族や貴族の娘たちを呼んでな」
ファラン「嫌だね」
リーデル王子「俺の身にもなってみろ。王子からなんとか言ってください、仲がいいんだから!とこの調子でまくしたてられるのだぞ?」
ファラン「放っておけばいいではないか」
リーデル王子「そうはいかん。元老院とは仲良くしておいて損はないぞ?」
ファラン「なんだ、元老院の主催か」
リーデル王子「‥‥行かないよな」」
ファラン「「いや、行こう」
リーデル王子「無理だよな。俺から断って……ん?お前今なんと…」
ファラン「行くと言った」
リーデル王子「!!なんと!お前ついにその気に…!」
ファラン「酒と飯は最上級の物を用意しておけと伝えてくれ」
リーデル王子「わ、わかった!お前の気が変わらないうちに早急にことを進めてもらおう」
この時、ファランの企みにリーデルは気づいていなかった。
そしてもちろんアンナも。




