EP 8
暗闇の蹂虤と、見えない死神
「……おい、急に静かになったぞ」
夜の森を進んでいた野盗団の足が止まった。
「先頭を歩いていた三人がいねぇ!」
「馬鹿な。いくら暗いとはいえ、気配もなしか!?」
彼らは慌てて松明を掲げる。
だが、照らせる範囲はせいぜい数メートル。
『――右10メートル、木の上。二人いるよ』
信長の耳元のイヤホンから、蘭の冷徹な声が響く。
「了解じゃ」
信長の視界は、暗視ゴーグルによって緑色にクリアに染まっていた。
闇夜など、彼にとっては真昼間と変わらない。
「ヒッ……! 上だ! 木の上に何かが……!」
野盗の一人が上を向いた瞬間。
信長は音もなく枝から飛び降りた。
『ガッ!』
鈍い音が響き、野盗が白目を剥いて崩れ落ちる。
警棒の正確な一撃が、顎の急所を撃ち抜いたのだ。
「な、なんだ貴様は!?」
「闘気を纏え! 斬り殺せ!!」
残りの野盗たちが、信長を取り囲む。
剣が青白い『闘気』の光を帯びて、信長に振り下ろされた。
「死ねぇぇっ!!」
『ガキィィィンッ!』
「なにっ!?」
野盗が驚愕の声を上げる。
闘気を込めた必殺の剣が、信長の黒いベストに弾かれたのだ。
「……闘気ごと叩き斬るんじゃなかったのか?」
信長が、暗視ゴーグルの奥で獰猛に笑う。
「『防刃タクティカルベスト』じゃ。おどれらのナマクラじゃ貫通せん」
「バ、バケモノめ……!」
野盗たちがジリジリと後ずさる。
「さて、次はこれじゃ」
信長は腰からピンを抜いた『スタングレネード』を放り投げた。
「なんだあの筒は? 魔道具か?」
「危ない、離れろ……!」
『カァァァァァァァァンッ!!!!』
深夜の森で、爆音と、太陽のような閃光が炸裂した。
「ぎゃあああああっ!!」
「目が……! 目が焼けるぅぅっ!!」
野盗たちは武器を放り出し、地面を転げ回る。
スタングレネード。
数百万カンデラの光と、鼓膜を破る爆音。
耐性を持たない異世界人には、最強の無力化兵器だ。
「おいおい、もう終わりか?」
信長は悠然と歩き出し、倒れている野盗たちを次々と警棒で叩き伏せていく。
『……信長、残りは奥で震えてる十人だけだよ。隊長クラスもそこにいる』
蘭の報告を聞き、信長はニヤリと笑った。
「輝夜、義正。見とるか?」
『ええ。ドローンの映像でしっかり見えてるわ。すごいわね』
『ここからが本番だ。完全に心をへし折ってこい』
通信機越しの仲間の声に、信長は肩を鳴らした。
「さあ、仕上げじゃ」
信長は、森の奥で震える敵の残党へ向けて、ゆっくりと歩みを進めた。
絶望的な蹂虤戦の、最終フェーズへと突入する。




