EP 6
無量大数獄炎刀(ユウの奪還)
『――おのれェェッ! たかが人間が、神の理に泥を塗るかァァッ!』
閻魔大王の怒号が地獄の底を揺らす。彼が巨大な『裁きの笏』を振り下ろすと、血の池から無数の怨霊が刃となってラビークへ襲いかかった。
「泥を塗るんじゃねぇ。……理ごと叩き斬るんだよ」
コックピットの中で、龍魔呂が鋭く息を吐く。
彼と完全に同調した【真紅の機神】ラビークの全スラスターが、危険な高音を立ててリミッターを解除した。
「結、出力全開だ」
『うんっ! ボクの雷、全部使って!!』
龍魔呂の赤黒い闘気と、ユイの紫電が完全に融合し、機体の背後で巨大な『鬼神のオーラ』を形成する。
琉球古武術の歩法『縮地』――その神速の移動術を、全高十メートルの機神で強引に実行する、常軌を逸した必殺の挙動。
「鬼神流――」
『ドバチィィィィィンッ!!!』
空気を置き去りにするような破裂音。
ラビークの巨体が、コンマ一秒で閻魔の懐へと『瞬間移動』した。怨霊の刃など、彼が纏う闘気と雷の防壁に触れた瞬間に蒸発していく。
『な、バカな!?』
閻魔が驚愕に見開いた視界の先。
龍魔呂は、右手に握りしめた超巨大剣【無量大数獄炎刀】を、大上段に構えていた。
「――『鬼神将獄炎斬り』ッ!!!」
刃から噴出するプラズマの獄炎が、地獄の暗雲を真っ二つに裂く。
すれ違いざまの一閃。
音もなく、抵抗すらなく。真紅の機神は、地獄の王の巨体を完全にすり抜けて背後に着地した。
『……ガ……? 裁きが、法が……崩れ……』
数秒の静寂。
直後、閻魔大王の胸の中心に、巨大な『赤黒い獄炎の十字架』が浮かび上がった。
『オオオォォォォォォォォォッッ!!!!』
断末魔と共に、二十メートルを超える地獄の王が、内側から爆発して光の塵へと消え去っていく。絶対的だった地獄のシステムが、人間の意志と神の愛によって完全に破壊された瞬間だった。
「……終わった」
龍魔呂が深く息を吐き出すと、ラビークの装甲から赤黒い闘気と雷がスッと抜け落ち、再び純白の姿へと戻って膝をついた。
胸部のハッチが開き、龍魔呂が地獄の大地へと降り立つ。
閻魔が消滅したことで、血の池は静まり返り、賽の河原を覆っていた重苦しい瘴気も晴れ渡っていた。
そして、鬼たちから解放された子供の亡者たちが、不思議そうに周囲を見回している。
その中に。
泥だらけのボロボロの服を着た、一人の小さな男の子がいた。
「お兄、ちゃん……?」
幻影ではない。青龍が見せたトラウマの映像でもない。
ずっと、ずっと探していた。彼が狂鬼(DEATH4)に堕ちてでも、世界を敵に回してでも取り戻したかった、たった一つの命。
「――ユウ」
龍魔呂は、190センチの巨体を揺らし、弾かれたように駆け出した。
いつもは冷静な彼が、足をもつれさせながら、なりふり構わず賽の河原を走る。
「お兄ちゃん! お兄ちゃあああんッ!!」
小さな弟が、泣き顔で飛び込んでくる。
龍魔呂は、その小さな体を、両腕で力強く、壊れないようにしっかりと抱きしめた。
「ユウ……! すまない……すまない、遅くなった……ッ!」
処刑人としての冷徹な仮面は、そこには無かった。
ただの『兄』として、龍魔呂は大粒の涙を流し、ユウの泥だらけの背中を何度も、何度も撫でた。
「よかった……本当によかった……」
少し離れた場所で、キャルルが両手で顔を覆いながら嬉し泣きをしている。
「……ったく。世話の焼ける大将だぜ」
義正が、照れ隠しのようにセブンスターの煙を空へ吐き出した。
「ガハハ! ええ涙じゃ! これでようやく、地獄の特訓も終わりじゃの!」
信長も、目尻を拭いながら豪快に笑っている。
「えへへ、龍魔呂、すっごく泣いてる」
いつの間にか龍魔呂の隣に実体化していたユイが、優しく微笑みながら、再会を果たした兄弟をそっと見守っていた。
狂気と殺戮の果てに、ようやく彼が掴み取った『本当の温もり』。
だが、彼らの因果への反逆は、まだ最後の仕上げを残していた。




