EP 5
神機融合(雷帝神の献身)
『――我は地獄の法。不変の裁きを司る者なり』
三途の川が逆巻き、現れた閻魔大王。その全高は機神ラビークすら見下ろす二十メートルを超え、背後には巨大な『浄玻璃の鏡』が不気味な輝きを放っていた。
「チッ、地獄の親玉かよ。スケールが違いすぎんだろ」
ランクルの屋根で信長が顔をしかめる。
「龍魔呂、構えろ! そいつはただのデカブツじゃない、地獄の『システム』そのものだ!」
義正の警告が飛ぶ。
ラビークのコックピットで、龍魔呂は奥歯を噛み締めた。
「……関係ない。邪魔をするなら、その法ごと撃ち抜くだけだ」
ラビークの両腕の127mmガトリングが再び咆哮を上げる。赤黒い闘気を纏った弾丸の雨が閻魔へと降り注ぐ。だが。
『――【業の重み(カルマ・ウェイト)】』
閻魔が静かに宣告すると、ラビークの弾丸は閻魔の目前でピタリと停止し、そのまま泥のように地面へ落ちた。それどころか、ラビークの純白の装甲がメキメキと音を立てて歪み始める。
「……ぐっ……!? 重い……」
龍魔呂に、凄まじい重圧が襲いかかる。
モビルトレースシステムを通じて伝わる感覚――まるで地球の重力が百倍になったかのような負荷。ラビークの足元が賽の河原の砂利に深く沈み込む。
『汝の犯した殺生、汝の背負いし業……その全ての質量が、汝を押し潰す。この地獄において、罪人の剣は我には届かぬ』
「……罪だと? そんなもんは、とっくに背負ってんだよォ!!」
龍魔呂が吼える。だが、ラビークの関節が悲鳴を上げ、モニターには『動力臨界』のアラートが赤く点滅する。閻魔が巨大な『裁きの笏』を振り上げ、トドメの一撃を放とうとした、その瞬間。
『――ボクの龍魔呂に、勝手な理屈を押し付けないでくれるかな?』
地獄の暗雲を、一本の巨大な『紫の雷』が貫いた。
「な、なに!? 帝釈天の雷だと!?」
閻魔の瞳に、初めて狼狽の色が走る。
雷光の中から現れたのは、豪奢な神衣を纏った『雷帝神ユイ』だった。
彼女は宙に浮いたまま、愛おしそうにラビークを見つめ、そして閻魔を冷酷に射抜いた。
「閻魔……。君の『法』は古いよ。龍魔呂の愛は、そんな重みで測れるほど安くない」
「結……!? なんでここに」
龍魔呂の驚愕の声を、ユイの優しい微笑みが包み込む。
「助けに来たよ、龍魔呂。……君が地獄を壊してでも過去を取り戻したいなら、ボクの全部を君にあげる」
ユイの小さな体が、眩い光に包まれて拡大していく。
「神権譲渡、プロトコル開始! 龍魔呂、ボクと一つになろう!」
ユイが光の粒子となって、ラビークの胸部コックピットへと飛び込んだ。
『――神・機・融・合!!』
その瞬間、地獄の全域を真っ白な閃光が包み込んだ。
純白だったラビークのヒイロガネ装甲が、ユイの雷帝神としての権能と、龍魔呂の赤黒い闘気を吸い込み、劇的に変貌していく。
各部の排気ダクトから、高密度のプラズマと赤黒い蒸気が噴き出す。
装甲は『真紅』と『漆黒』のツートンカラーに染まり、頭部には鬼神の如き二本の角が突き出した。
背中からは、雷光で形成された黄金の翼が展開される。
【人型機神ラビーク・雷帝鬼神モード】
「……あ、熱い……。力が、溢れてくる……ッ!」
龍魔呂の全身を、ユイの神気と己の闘気が混ざり合った未知のエネルギーが駆け巡る。
『――バカな、神と人が融合したというのか……!?』
「閻魔……。お前の『法』は、俺たちの『意志』で上書きさせてもらう」
ラビークが右腕を掲げると、次元の狭間からガジェットが射出した超巨大な大剣――【無量大数獄炎刀】がその手に収まった。
刀身から噴き出すのは、地獄の底を焦がすプラズマの獄炎。
雷帝神の権能を得た龍魔呂が、一歩、踏み出した。その足跡は大地を溶かし、閻魔が敷いた重力結界を紙屑のように引き千切った。
「決着だ」
地獄の主と、神機融合を果たした鬼神。
因果を巡る最後の大喧嘩が、今、最高潮に達した。




