EP 4
真紅の機神と地獄の乱戦
三途の川のど真ん中に突き刺さった巨大なコンテナから姿を現した、全高十メートルの人型機神『ラビーク』。
純白のヒイロガネ(緋色金)装甲が、地獄のどんよりとした空の下で異様なほどの輝きを放っていた。
コックピット内で、龍魔呂が両手を腰の高さに構える。
『モビルトレースシステム・完全同調』
ガジェットの組み込んだ超高度AIが、龍魔呂の寸分違わぬ骨格の動きと、彼の放つ『赤黒い闘気』を機体へと直結させた。
「……掃討する」
龍魔呂の低い声に呼応し、ラビークの両腕にマウントされた127mmガトリング砲が、重々しい回転を開始した。
「な、なんだあの鉄の巨人は……ッ!?」
「ええい、ビビるな! 所詮は下等な人間のガラクタだ! ぶっ壊して魂を啜ってやれェ!!」
数十匹の巨大な鬼たちが、金棒を振りかざして一斉にラビークへと殺到する。
「消えろ」
龍魔呂が仮想の引き金を引く。
その瞬間、地獄の荒野に、鼓膜を物理的に破壊するほどの凄まじい発砲音が轟いた。
『ズラララララララララララララッ!!!!!!』
127mm——護衛艦の主砲クラスの弾丸が、毎分2000発という狂気の速度で連射される。
さらに、その一発一発には、龍魔呂の鬼王の指輪から供給された『赤黒い闘気』が濃厚に纏わりついていた。
「ギャアアアアッ!?」
「腕がァ! 俺の腕がァァァッ!!」
最前線を走っていた鬼たちの強靭な肉体が、文字通り一瞬にして『ミンチ』と化す。
防御魔法も、地獄の獄卒としての耐久力も、圧倒的な質量と闘気の前には何の意味も持たなかった。
着弾のたびに巨大なクレーターが穿たれ、三途の川の赤い水が爆発的な水柱を上げて蒸発していく。
「ヒィィィッ!! ば、バケモノだァァッ!」
パニックに陥った鬼たちが逃げ出そうとするが、弾幕の嵐は容赦なく彼らを削り取っていく。
吹き飛んだ鬼たちの肉片と返り血が、雨のようにラビークの純白の装甲へと降り注ぐ。
戦場に立つごとに返り血を浴び、白兎から『真紅の鬼神』へとその姿を染め上げていくという、ガジェットの悪趣味かつ天才的なデザイン。
赤黒い闘気を噴き上げながら地獄を蹂躙するその姿は、鬼たちにとってすら「真の悪夢」であった。
一方、地上でも人間たちの反逆が猛威を振るっていた。
「オラオラァ!! これがホンマの地獄の特訓じゃいッ!!」
狂犬・信長が、特殊警棒をフルスイングする。
鬼が振り下ろしたトゲ付きの金棒を、北辰一刀流の受け流しで弾き、そのままの勢いで鬼の顎をカチ上げた。
『メシャァッ!』という鈍い音と共に、数トンはある鬼の巨体が宙に舞う。
「みんな、もう大丈夫だよ! こっちにおいで!」
キャルルは、怯える子供たちを安全な場所へと誘導しながら、迫り来る鬼に対してはマッハの速度で『月影流・鐘打ち(回し蹴り)』を叩き込み、次々と沈めていく。
安全を確保した子供たちには、すぐさま太陽のような温かいヒールを掛け、地獄で負った傷と恐怖を癒やしていった。
「えへへ、凄いですぅ……! 人間さんたち、神様より強いんじゃないですか……?」
義正の背後に隠れながら、リリスが目を丸くして感嘆の声を漏らす。
「ハッ。地獄の沙汰も金(火力)次第ってな」
ランクルのボンネットに腰掛けた義正が、セブンスターの煙を吐き出しながら悪びれずに笑った。輝夜もまた、子供たちが救出されていく光景を見て、満足そうに頷いている。
ラビークの127mmガトリングが火を吹き、信長とキャルルが地上を制圧する。
圧倒的な暴力による「賽の河原の解放」は、わずか数分で完了しようとしていた。
だが。
彼らの蹂躙を、地獄のシステムそのものが黙って見過ごすはずがなかった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!』
突如として、三途の川の底から、マグニチュード9を超えるような激しい地響きが鳴り響いた。
血の川が真っ二つに割れ、巨大な瘴気の渦が巻き起こる。
「……何じゃ?」
信長が動きを止め、眉をひそめる。
沸き立つ血の川の底から姿を現したのは、山のように巨大な影だった。
極彩色の衣を纏い、冠を被った、地獄の裁判長。
圧倒的な「死と裁き」の権能を放つ、閻魔大王の顕現であった。
『——我が地獄の理を荒らす、不届きな生者どもよ』
空間そのものを震わせるような重低音が響き渡り、地獄の空気が一瞬にして凍りついた。
『その傲慢なる罪、万死に値する!!』




