EP 7
月影流・一億ボルトの閃光
『ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!』
信長の特殊警棒が、青龍のメインカメラアイを深く抉り、不快な電子音と火花を噴き上げさせた。
「硬てぇな、クソがッ!」
信長が舌打ちをする。神の装甲は尋常ではない。渾身の一撃を叩き込んだものの、完全に中枢コアを破壊するには至らなかった。
『エラー。メイン視覚センサー喪失。……サブセンサー群(監視の目)へ視覚情報をリンク。特異点の排除を継続する』
青龍が巨体を身震いさせ、信長を空中で振り払う。
そして、ポポロ村の上空に展開されていた無数の『監視の目』が、一斉に地上へ向けてレーザーの照準を合わせ始めた。
「やらせるかよ……!」
地上で、キャルルがゆっくりと立ち上がった。
先ほど、DEATH4となった龍魔呂を鎮めるために全魔力を使い果たし、限界を迎えていたはずの彼女の体が、淡い銀色の光に包まれている。
雲の切れ間から、煌々と輝く巨大な『満月』が顔を出したのだ。
月兎族にとって、満月の光は絶対的なエネルギーソースである。枯渇していた魔力が限界を突破して急速にチャージされ、全身の細胞が歓喜に沸き立つ。
だが、今のキャルルは、昨晩のように無軌道にハイテンションで暴れ回る『恐怖の聖女』ではない。
「自分たちの明日に責任を持つ」と決意した、真のポポロ村の指導者としての冷徹で熱い意志が、彼女の瞳に宿っていた。
「私の……ポポロ村の自由は、私の責任で守る!!」
キャルルは、両足に履いた特注の戦闘靴の踵を、力強く打ち合わせた。
『ガキンッ!』
靴の踵に仕込まれていた特殊鉱石『雷竜石』の封印が解除される。
瞬間、キャルルの小さな体から、凄まじい『紫電の雷光』と、莫大な闘気がバチバチと音を立てて溢れ出した。一億ボルトの電圧が空気をプラズマ化させ、周囲の重力すら歪めていく。
「信長君ッ! 退いて!!」
キャルルの声に、空中の信長がニヤリと笑い、落下しながら身をよじる。
キャルルは、陸上競技のクラウチングスタートのように、深く沈み込んだ。
狙うは、空を覆う監視網、そしてその奥にいる青龍。
「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)——いくよッ!!」
『ドゴォォォォォォォォンッ!!!』
キャルルが地面を蹴った瞬間、ポポロ村の中央広場に巨大なクレーターが穿たれた。
マッハ1。音速を超えた踏み込み。
凄まじいソニックブームが街を駆け抜け、彼女の体は一本の紫の雷となって垂直に上空へと跳ね上がった。
『な……対象の速度が、観測限界を——』
青龍のシステムが計算を終えるより早く。
キャルルは、空中に浮かぶ無数の『監視の目』を足場にして、三角飛びの要領で次々と蹴り砕きながら、信じられない軌道で急上昇していく。
『パァン! パァン! パパパパァァァンッ!!』
神の敷いた不可視のパノプティコン(監視網)が、紫電の軌跡によって物理的に、そして完全に破壊されていく。
「規律」という名の束縛を、彼女自身の足で断ち切っていくのだ。
そして。
すべての監視網を粉砕し、一番高い空域——青龍の遥か頭上へと到達したキャルルは、空中で美しく体を一回転させた。
「神様!! これが、私たちの『自由』だぁぁぁぁぁっ!!!」
遠心力、マッハ1の初速、一億ボルトの雷光、そして1,000メガジュールのエネルギー。
それらすべてを右足の特注靴の一点に圧縮した、月影流最大の絶技。
純白のウサギが放った紫色の隕石が、青龍の脳天へと真っ直ぐに突き刺さった。
『ガ、アァァァァァァァァァァッ!!?』
総重量277トン相当の破壊エネルギー。
信長の一撃でヒビが入っていた青龍の絶対装甲が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散った。
激しい落雷の音と共に、巨大なサファイアの龍体が、ポポロ村の村外れの荒野へと真っ逆さまに叩き落とされる。
大地が激しく揺れ、数千トンの土砂が巻き上がり、キノコ雲のような巨大な土煙が夜空に立ち昇った。
「やった……!」
着地したキャルルが、靴から上がる熱気を払いながら、力強くガッツポーズをした。
だが、地下指令室でモニターを見ていた義正は、まだセブンスターの火を消していなかった。
「……いいや、まだだ。神様は、物理で殴っただけじゃ死なねぇ。システムそのものを『倒産』させねぇと、何度でも復活しやがる」
義正の言う通り、土煙の奥で、青龍の砕けた装甲が青い光を放ち、再生(自己修復)を始めようとしていた。
「蘭」
義正が、懐からコーヒー味の飴玉を取り出し、奥歯でガリッと噛み砕いた。
彼が『本気』になった合図の音。
「俺たちが神様に『資本主義の真髄』を教えてやるぞ。……準備はいいか」
「もちろんッスよ! 神様の独占企業、ぶっ潰してやるッス!」
武力による粉砕の次は、知能と算盤による『システム崩壊』。
悪魔の商社マンと特A級ハッカーによる、最後の仕上げ(買収劇)が始まろうとしていた。




