EP 7
守るための殺意
「残り3秒……2!」
ポポロ村全体に響き渡る、蘭のカウントダウン。
その声と同時に、信長が血塗れの足で大地を砕くように踏み込み、空中の白虎へ向けて凄まじい跳躍を見せた。
「死にさらせェ、デカブツ!!」
狂犬の咆哮が空気を震わせる。
しかし、白虎の黄金の瞳は、迫り来る信長を見ていなかった。システムの重大なエラー(無敵化の喪失)を検知した神のAIは、防御を捨て、最も排除すべき『バグの根源』――すなわち、地面で涙に暮れているキャルル――の消去を最優先事項として再定義したのだ。
『エラー……防壁損傷。……対象【POPOLOの象徴】の完全消去プロセスを優先』
白虎の口元に、これまでとは桁違いに圧縮された純白の炎(データ消去のレーザー)が収束していく。
無敵化ルールが剥がされた状態での、相打ち覚悟の一撃必殺。
「やばい! 龍魔呂さん!!」
輝夜の悲鳴が上がる。
だが、龍魔呂は誰よりも早く動いていた。
キャルルと輝夜の前に立ち塞がり、右手に嵌めた『鬼王の指輪』を真っ直ぐに掲げる。
直後。
世界を白一色に染める神のレーザーが放たれた。
その極限の光と熱の奔流の中で、龍魔呂の時間は恐ろしいほど緩やかに引き延ばされていた。
脳裏にフラッシュバックする、冷たい雨の匂い。
ゴミ捨て場で冷たくなっていった、弟・ユウの小さな体。
「僕が犠牲になればいいんだ!」と泣きながら炎に飛び込んでいった、神の巫女・結の顔。
どれだけ無敗の戦士として血を流そうとも、自分の腕からこぼれ落ちていく命を繋ぎ止めることはできなかった。
その絶望が、彼を『DEATH4(死を呼ぶ四番)』という、ただ標的を殺すだけの冷酷な機械に変えたのだ。
だが、今は違う。
自分の背後には、彼に温かい食事と帰るべき場所をくれた、太陽のように笑うウサギの少女がいる。
そして、泥を被ってでも皆の理想を追う、月のように気高い女がいる。
(……俺はもう、何も失わねぇ)
龍魔呂の瞳から、濁りきった死の色が完全に消え去った。
対象をただ破壊するためだけに纏っていた赤黒い闘気が、かつてないほどの密度で極限まで圧縮され、『守るための絶対的な盾』へと変質していく。
「……今度は、間違えねぇ」
龍魔呂の静かな、だが世界そのものを震わせるほどの重い宣言。
指輪から放たれた闘気が、迫り来る神の純白のレーザーを正面から受け止め――そして、真っ二つに切り裂いた。
『……何ッ!?』
白虎のシステムが、計算外の事象に驚愕のノイズを上げる。
切り裂かれたレーザーは龍魔呂を避けるように左右に割れ、村の地面を深く抉ったが、背後にいるキャルルたちには熱の欠片すら届かなかった。
「残り1秒ォォォッ!!」
蘭の絶叫が響く。
神の最後の一撃が、人間の意地によって完全に防がれた。
その絶対的な『隙』に。
空高く跳躍していた信長が、白虎の巨大な顎の下へと到達していた。
「よそ見しとる場合かァッ!!」
信長の全身の筋肉が、爆発音を立てて膨張する。
親父譲りの北辰一刀流の歩法を空中で応用した、全存在を懸けた渾身の蹴り上げ。
物理無効化の装甲(第1法)を失った白虎の顎に、信長の足がクリーンヒットした。
メシャァァァァァッ!!
神の獣の顔面を覆っていた流線型の純白装甲が、信じられないほどの鈍い音を立てて粉砕される。
『ギ、ガァァァァァッ……!?』
白虎の巨大な体が大きく仰け反り、その顔面――装甲の奥に隠されていたシステムの中枢コアが、完全に無防備な状態で天を仰いだ。
残り、0秒。
だが、その一瞬の静止は、処刑人にとって永遠にも等しい時間だった。
龍魔呂は、レーザーを弾き飛ばした姿勢のまま、一切のブレのない滑らかな動作で『Korth NXS / Ranger』の銃口を上空へと向けた。
狙うは、神の眉間。その一点のみ。
「……地獄へ落ちろ」
世界を書き換える、神殺しの銃弾が放たれようとしていた。




