EP 6
電脳の突破口
輝夜の『法解釈のバグ(デュー・プロセス違反)』と、義正の『天文学的資本の強制送金』。
二人の頭脳が作り出した、絶対無敵の神が完全にフリーズした、ほんの数秒間の『演算ラグ』。
「ハッ……! 最高のパスじゃねぇか、大人ども!」
ポポロ村地下指令室。
蘭がチュッパチャプスをガリッと噛み砕き、10枚のモニターを囲むキーボードの上で、十本の指を狂ったようなスピードで踊らせ始めた。
『ヘヘッ。ボスの仲間、マジでイカれてるッスね! 神様相手にDDoS攻撃仕掛けるなんて、最高にロックッスわ!』
蘭のヘッドセットに、別次元に引きこもる天才マッドサイエンティスト・ガジェットの興奮した声が響く。
彼のいる次元要塞でも、コーラの空き缶が散乱する中、脂ぎった指が凄まじい勢いでコンソールを叩いていた。
「ガジェット! 義正たちが稼いでくれた時間は、長くてもあと5秒! この隙に、白虎のメインサーバー(第1法)にアクセスして、『物理無効化』のルール防壁を完全に引っ剥がすよ!」
『了解ッス! こちら次元穿孔プロトコル起動! 神様のファイヤーウォールに、俺が物理的な穴をぶち開けるッス!』
ガジェットの叫びと共に、蘭のモニターに無数の不可解な文字列(神の暗号)が滝のように流れ込む。
白虎のシステムは、世界の物理法則そのものを書き換える上位次元のプログラムだ。普通の人間なら、その構造を見ただけで脳が焼き切れる。
だが、蘭とガジェットは、この世界の常識に縛られない『特異点』のハッカーだった。
「……見つけた! 第1法・武力行使無効化ルールの、根本ソースコード!」
蘭の瞳が、狩りを見つけた肉食獣のように鋭く光る。
『いけぇぇぇッ、蘭チャン!! ボスの為に、神様のOS、強制アップデートしてやるッス!!』
「エンター!!」
蘭の小さな指が、力強くキーボードの『Enter』キーを叩き付けた。
『ガガガガガッ……!!』
ポポロ村の上空でフリーズしていた白虎の巨大な装甲に、突如として不自然な赤いノイズ(グリッチ)が走った。
『……警告……不正アクセスを検知……第1法の書き換え……拒否……拒ひ……きょ……』
白虎の無機質な声がバグり、レコードの針が飛んだように歪む。
「セキュリティ突破! 第1法・適法なき武力行使の無効化ルール、強制シャットダウン完了!!」
蘭が、歓喜の声を上げてガッツポーズをした。
神の絶対的な加護が、人間のハッカーによって完全に引っ剥がされた瞬間だった。
「龍魔呂さん!! 信長!!」
蘭の叫びが、広場の通信機から響き渡る。
「システムが再起動して神様が『無敵』に戻るまで、猶予はたったの【3秒間】!! この3秒だけ、あのデカブツはただの『撃てば血が出る物理の的』になるよ!!」
「――上等じゃあ!!」
誰よりも早く反応したのは、全身を黒焦げにしながらも狂った笑みを浮かべていた信長だった。
「3秒もありゃあ、神様の首玉ぶっこ抜くには十分すぎるわい!!」
彼は残った力を限界まで引き出し、爆発的な脚力で大地を蹴り上げた。
狙うは、遥か上空でノイズに苦しむ巨大な白虎の顎。
そして、龍魔呂。
彼は一切の言葉を発することなく、極限まで圧縮された静かな殺意と共に、Korth NXSの銃身を真っ直ぐに上段へと構えた。
(……理不尽なシステムが、大事な女から笑顔を奪うなら)
彼の脳裏にフラッシュバックするのは、絶望して泣き崩れるキャルルの姿。
そして、かつて冷たい雨の中で守れなかった弟と、炎に消えた神の巫女(結)の顔。
(てめぇの法ごと、撃ち抜く)
鬼王の指輪が、周囲の空間を歪めるほどの赤黒い闘気を放つ。
『ただ殺すための男』が、『守るために殺す男』へと完全に覚醒した瞬間。
極限の3秒間。
狂犬の牙と処刑人の銃弾が、法を失った神へと牙を剥く。




