EP 5
霞が関の月と、悪魔の算盤
「……第3法:絶対無謬なる適正手続き(デュー・プロセス)。貴方は完璧な裁判を経て、私たちに死刑を宣告したつもりでしょうけど」
神の業火を狂犬と処刑人が命懸けで押し留める中。
輝夜の凛とした澄んだ声が、戦場に響き渡った。
「その『前提』が間違っていると言っているのよ」
白虎の黄金の瞳が、真っ直ぐに輝夜を捉える。
『……反証を許可する。特異点オブジェクト・輝夜』
「一つ。現在、ポポロ村はルナミス帝国からの『完全独立』を宣言し、国家承認のプロセスに入っているわ。つまり、ここはすでに帝国の管轄外(治外法権)よ。隣町の民へのPGの供給は、独立国家としての『正当な経済活動(自由貿易)』に該当するわ」
輝夜が一歩、神へと距離を詰める。
その眼差しは、霞が関で幾多の法案を通し、国を動かしてきた『冷徹な為政者』のそれだった。
「二つ。貴方は私たちを『民から自立を奪った(搾取)』と断罪したけれど、私たちが奪ったのは『不当に富を独占していた悪徳貴族たちの資産』よ。第2法・環境と衡平法に則るなら、むしろ搾取を是正したのは私たちの方。……よって!」
輝夜はビシッと白虎を指差した。
「国際法廷での審理も経ずに、一方的に独立国家の経済活動を『悪意の支配』と認定し、即時焼却を決定した貴方の判決には、重大な『手続き上の瑕疵』が存在するわ! 私は、手続きの違法性を理由に、執行の即時停止を要求する!」
白虎のシステムが、輝夜の叩きつけた『法の抜け穴(解釈)』を急速に演算し始める。
『……異議を受理。ポポロ村の国家要件、およびルナミス帝国との経済協定に関する事実確認を開始……管轄権の競合を検知……』
神の炎の出力が、自身の正当性を証明するための演算にリソースを割かれたことで、僅かに弱まる。
「……さすがは霞が関の魔女だ。最高の『時間稼ぎ(ハック)』だぜ」
地下指令室。
無数のモニターの光を浴びながら、義正が狂気じみた笑みを浮かべていた。
「おい神様。第2法(衡平法)の執行には、焼却の前にまず『修復的司法(被害回復)』を命じる義務があるんだったな? 俺たちが民衆を依存させて奪っちまった『自由の対価』……その賠償金なら、俺が今、全額一括で払ってやるよ!!」
義正の指が、エンターキーをへし折らんばかりの勢いで叩きつけられた。
ルナミス帝国から根こそぎ奪い取り、ポポロ村の地下サーバーにプールされていた、国家予算十数年分にも及ぶ莫大な『ポポロ・ゴールド(資本)』。
義正はそれを、世界律のシステム(白虎の演算領域)に向けて、損害賠償のデータとして『全額強制送金』したのだ。
『……警告。対象より、天文学的数値の「賠償データ(PG)」の送金を確認。被害回復プロセスへ移行……』
白虎の無機質なシステム音声に、明らかなノイズが混じり始める。
一国の歴史上存在し得ないほどの莫大な情報量(富)が、一瞬にしてシステムの『修復的司法』の処理回路に流れ込んだのだ。
神のシステムが完璧であればあるほど、叩きつけられた莫大な賠償金を「1PGの狂いもなく正確に計算」しなければ、次の執行(攻撃)に移ることができない。
『……賠償額の再計算を実行。データ量が許容値を……超過。第2法の執行を一時停止。再演算……再演、算……』
ピタリ、と。
ポポロ村を覆っていた純白の炎が消え、絶対無敵であった神の獣の動きが、完全に停止した。
「……やった! 神様の処理落ち(ラグ)だよ!!」
地下で蘭が歓声を上げる。
法律の神の理屈を、人間の官僚が『法解釈のバグ』で論破し。
絶対的な執行システムを、資本主義の修羅が『札束の暴力』で物理的にフリーズさせたのだ。
「見事じゃ……!」
肉の壁となって炎を受け止めていた信長が、黒焦げになった腕を下ろしながら、獰猛な狂犬の笑みを浮かべる。
龍魔呂もまた、炎から解放された愛銃Korthを構え直した。
だが、人間の知恵が神のシステムを止められるのは、ほんの数秒間だけだ。
この極限の隙を突いて「神の無敵化ルール」を完全に引っ剥がすため、別次元の引きこもりオタクと天才ハッカーによる『最後の電脳戦』が、幕を開けようとしていた。




