EP 3
完全否定される太陽(ヒロインの崩壊)
村人たちの頭上に降り注ぐ、絶対的な消去の光。
だが、その純白の炎が逃げ惑う人々に触れる直前、広場の中央から太陽のような強烈な光が弾けた。
「させないっ……! みんなには、指一本触れさせない!!」
キャルルだった。
純白の兎耳を振り乱し、彼女の小さな体から無尽蔵の治癒魔力が溢れ出す。それが物理的な『光のドーム』となって、村人たちをすっぽりと覆い隠した。
ジジジジジッ……!!
神の炎と、キャルルの魔力が激しく衝突する。
だが、それは力と力のぶつかり合いではなかった。
『……無駄なり』
白虎の黄金の瞳が、眼下でドームを展開するキャルルを無機質に見下ろした。
『対象の魔力行使は、世界律に基づく適正な手続き(デュー・プロセス)を経ていない。第1法に則り、一切の抵抗権を無効化する』
「え……っ!?」
キャルルの渾身の魔力ドームが、音もなく『ノイズ』に変換され、空間からパラパラと剥がれ落ちていく。
防御をシステムごと削除されたキャルルの前に、巨大な神の獣がゆっくりと顔を近づけた。
『対象:キャルル。特異点オブジェクト【POPOLO】の象徴たる存在』
白虎の声は、怒りも憎しみも帯びていない。
ただ、冷酷なまでに完璧な『正論』だけを紡ぎ出す。
『汝は民にパンを与え、病を癒した。……だが、その無責任な善意が何をもたらしたか、理解しているか』
「無責任な、善意……?」
『然り。汝の甘やかしは、隣町の民から自活の意思を奪い去った。彼らは自らの畑を耕すことをやめ、ただ汝らが空から降らせる黄金(PG)を口を開けて待つだけの存在に成り果てた』
白虎の言葉が、鋭い楔となってキャルルの胸に突き刺さる。
「ち、違う! 私はただ、みんながお腹を空かせて泣いているのが可哀想で……助けたかっただけで……!」
『それが、最も残酷なる罪なり』
白虎の瞳が、冷たく発光する。
『汝は民を飢えから救った代わりに、彼らの首に「ポポロ村なしでは生きられない」という依存の鎖をかけた。彼らは今や、自由な人間ではない。汝らから餌を与えられるのを待つだけの、ただの家畜だ』
「――ッ!!」
キャルルの顔から、完全に血の気が引いた。
『汝が竜の肉を振る舞う限り、民は自らの足で歩くことを永遠に放棄する。汝の無尽蔵の優しさこそが、この世界の自立を阻み、人間を堕落させる最大の害悪なり』
ドクン、と。
キャルルの心臓が、痛いほど大きく鳴った。
脳裏に蘇るのは、村人たちの笑顔。そして、先ほど義正や輝夜が告げた「持続不可能な善意は自己満足だ」という言葉。
(私のせい……?)
私がみんなを助けたから。
私が、何も考えずに優しさを押し付けたから。
みんなから『自分で生きる力』を奪ってしまったの?
「あ……ああ……」
キャルルの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
足から力が抜け、その場に力なく膝から崩れ落ちる。
「ごめん……なさい……。私、間違って……」
絶対的な正義(法)によって、自らの優しさを『完全な悪』だと論破された。
誰もが慕い、希望の象徴であった太陽が、自らの罪の重さに耐えきれず、完全に光を失い、心をへし折られた瞬間だった。
『罪の自白を確認。……執行する』
抵抗する気力すら失い、地面に伏して泣きじゃくるキャルルに向けて。
白虎がその巨大な顎を開き、トドメとなる最大火力の『純白の炎』を解き放った。
「キャルルちゃんッ!!」
遠くから輝夜の悲痛な叫び声が響く。
だが、その炎が彼女の小さな体を包み込むより、ほんのコンマ数秒だけ速く。
二つの黒い影が、キャルルの前に立ち塞がった。




