EP 2
天の執行者・白虎降臨
『ピシッ……、ピキキキキッ!!』
ポポロ村の上空。突き抜けるような青空に、突如として不気味な黒い亀裂が走った。
空間そのものがガラスのように割れ、崩れ落ちていく。
「……何だ、あれは」
広場にいた村人たちが、赤竜の肉を食べる手を止め、一斉に空を見上げた。
亀裂の奥から現れたのは、これまでの無人ドローンとは次元の違う、圧倒的な『神威』を纏った存在だった。
全長数十メートルに及ぶ、純白の流線型装甲に覆われた巨大な獣。
聖獣『白虎』。
その双眸は黄金に輝き、一切の感情を持たない冷徹な機械の光を放っていた。
「……ッ、全員伏せろ!!」
龍魔呂が、手元の包丁を放り捨てて叫ぶ。
だが、白虎は咆哮を上げることも、ミサイルを撃ち込んでくることもしなかった。
代わりに、世界そのものを震わせるような、無機質で重厚な『声』が、ポポロ村の全域に響き渡った。
『――汝ら、パンを与え、引き換えに民から自由を奪い去った』
それは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に記された、大審問官のテーゼだった。
『愚かなる羊たちに「今日を生きる糧」を施し、その首に見えざる依存の鎖をかけた。……それは救済にあらず。自立の機会を永遠に奪い去る、最も残酷なる支配なり』
「な……何を言っているの……?」
キャルルが、震える声で呟いた。
『対象:特異点オブジェクト【POPOLO】。ならびに、その中枢を担う個体群』
白虎の黄金の瞳が、広場に立つキャルル、輝夜、義正たちを正確にロックオンする。
『第2法:衡平法違反。善意という名の支配、および民衆からの自立の簒奪(搾取)を認定』
宣告は、あまりにも一方的だった。
彼らが良かれと思って流したポポロ・ゴールドの雨が。キャルルが村人たちに施した治癒と食料が。
この世界を管理する絶対的なシステムにとっては、世界を狂わせる『許されざる罪』と判定されたのだ。
『これより、対象の強制フォーマット(存在抹消)を実行する』
その言葉と共に、白虎の全身から『純白の炎』が解き放たれた。
「義正! 防衛シールド、最大出力!!」
蘭の悲鳴のような通信が飛ぶ。
「分かってる! 魔力障壁も全部重ねろ!」
地下指令室からの遠隔操作で、ポポロ村を覆う何十重もの強固な光のシールドが展開された。
だが。
純白の炎がシールドに触れた瞬間、爆発も、衝突音も起こらなかった。
『スゥゥゥッ……』
ただ、シールドが『なかったこと』のように空間から消滅したのだ。
「なっ……!?」
義正が驚愕に目を見開く。
「熱じゃねぇ! あの炎、物理現象を完全に無視してやがる……! 触れたものを『データごと削除』するシステム(概念)の炎だ!」
蘭の絶叫が通信機から響く。
防壁を無に帰した純白の炎は、そのまま村の外壁や、地球のテクノロジーで作られた真新しいインフラ設備へと降り注いだ。
炎に包まれた建物が、音もなくパラパラと光の粒子に分解され、空間から消え去っていく。
「あ、ああ……っ!」
「家が……俺たちの村が……消えていく……!」
村人たちが恐怖に顔を引きつらせ、パニックに陥って逃げ惑う。
つい数秒前まで、赤竜の肉を囲んで笑い合っていた平和な日常が。
天から降り立った絶対的な『法』の執行者によって、一瞬にして絶望のどん底へと叩き落とされたのだ。
「待って……やめて……ッ!」
キャルルが、消滅していく村を前に、悲痛な叫び声を上げた。
だが、白虎の黄金の瞳は微塵も揺らぐことなく、次なる純白の炎を、今度は広場に集まる『村人たち』の頭上へと解き放った。




