EP 8
血と火薬の夜想曲
「ひっ……! ば、化け物……くるな、来るなァァァッ!!」
暗殺者部隊のリーダーが、後ずさりしながら半狂乱でアサルトライフルを乱射する。
だが、その銃弾が標的を捕らえることはない。
「アハハハハッ!! どこ撃っとるんじゃ! 案山子の方がまだマシな的じゃぞ!!」
銃弾の雨を潜り抜け、信長が弾かれたように敵陣の中心へと躍り出た。
彼が身を屈めて放った足払いで二人が宙に浮き、その直後、信長の特殊警棒が空中の二人の胸郭を完全に粉砕する。
ボキボキッという鈍い骨の折れる音と、血の飛沫。
信長は返り血を顔に浴びながら、狂喜に満ちた笑い声を上げ、次の獲物へと飛びかかっていく。文字通り、血に飢えた狂犬。彼が通った後には、原形を留めない肉塊だけが残される。
一方、その凄惨な嵐から少し離れた場所。
龍魔呂の戦いは、恐ろしいほどの「静寂」に包まれていた。
『ズドンッ』
無造作に放たれる一発の銃弾。それが、確実に敵の眉間や心臓を貫く。
悲鳴を上げる間もなく、暗殺者がバタバタと倒れていく。
信長が敵を撹乱し、死角に逃げ込んだ者、あるいは信長を背後から狙おうとする者を、龍魔呂がミリ単位の精密射撃で機械的に処理していく。
感情ゼロ。心拍数の乱れすら一切ない。ただゴミを掃除するような無機質な手つきで、Korthの引き金を引く。
「……リロード」
龍魔呂が短く呟き、シリンダーを振り出す。
その瞬間を狙って、物陰に隠れていた三人の暗殺者が同時に飛び出した。
「死ねぇッ!!」
だが。
彼らが銃口を向けるよりも早く、横から飛んできた信長が、二人の首を両腕で締め上げ、そのまま凄まじい力で地面に激突させた。
「邪魔じゃあッ!!」
残る一人が怯んだ隙に、装填を終えた龍魔呂の銃口が、その男の額に押し当てられた。
「……」
『ズドンッ』
血と火薬の匂いが、夜風に混じって荒野に立ち込める。
わずか数分。
50人いた帝国裏社会の精鋭たちは、たった二人の男によって、完全に全滅させられていた。
「はぁーっ……。終わったか。準備運動にもなりゃせんかったのう」
信長が、ブーツの底にへばりついた血糊を地面で擦り落としながら、肩を回す。
彼のタクティカルベストは敵の返り血で赤黒く染まり、その顔にはまだ狂気じみた高揚感が残っていた。
龍魔呂は無言のまま、熱を持ったKorthの銃身を布で拭い、ホルスターに収める。
彼の赤いジャケットには、血の数滴すら飛んでいなかった。
動と静。
過剰なまでの暴力と、完全なる無駄の排除。
対極に位置する二つの戦闘スタイル。だが、その結果として生み出された『死の山』を前に、彼らは互いの実力を完全に認め合っていた。
「……オドレ、射撃の腕は認めちゃるわ。俺の後ろは、おどれが居れば安心じゃの」
信長が、義正から渡されていた赤マルを取り出し、口に咥えながら笑う。
「……お前もな。ただ、もう少し綺麗に殺せ。後片付け(掃除)が面倒だ」
龍魔呂が、自分のポケットからマルボロの赤を取り出し、火をつける。
ジッポライターの小さな炎が、二人の顔を照らし出した。
荒野に広がる地獄のような死屍累々の中で、二人の男が並んで紫煙を吐き出している。
常軌を逸したバケモノ同士の、奇妙で静かな一服の時間だった。
◆ ◆ ◆
「……」
その様子を、村の地下司令室のモニター越しに見ていた義正と蘭は、完全に言葉を失っていた。
「……ねぇ、義正。あの二人、ちょっと常識外れすぎない?」
蘭が、チュッパチャプスを噛み砕きながら引きつった笑いを浮かべる。
「あぁ……。どっちも、紛れもない化け物だ」
義正が、額に滲んだ冷や汗を拭った。
義正は経済の修羅として、盤面を支配することに長けている。だが、物理的な暴力の絶対値において、あの二人には到底敵わないと本能で理解した。
もしあの時、龍魔呂が引き金を引いていれば。信長が撃ち返していれば。
自分は間違いなく死んでいたし、この地下室は文字通りの地獄と化していただろう。
(……輝夜。お前は、どんだけ恐ろしい手駒を惹きつけてやがるんだ)
狂犬の武力と、処刑人の暗殺技術。そして自分自身の資本支配。
この三つの巨大な暴力を、あの心優しい「霞が関の月」が束ねているのだ。
義正は、モニターの中でタバコを吸う二人を見つめながら、背筋に走る快感と恐怖の入り混じった悪寒に、低く笑い声を漏らした。
物理的な脅威は排除された。
これで、ルナミスとアバロンの命運は、完全にポポロ村の手中に落ちたのだ。
だが、本当の「恐怖(支配)」は、これから始まろうとしていた。




