第五章 通貨戦争・ポポロゴールド編
新通貨『ポポロ・ゴールド』と、静かなる宣戦布告
神の理の襲撃と、DEATH4の降臨から数日。
ポポロ村は、驚異的な復興速度で日常を取り戻していた。
地球の建築プラントによってさらに堅牢に作り直された孤児院の庭では、今日も子供たちの平和な笑い声が響いている。
だが、光が強くなれば、その足元に落ちる影もまた濃く、そして深くなる。
ポポロ村の地下深くに新設された、極秘の『戦略指令室』。
無数のメインモニターが放つ青白い光に照らされながら、力武義正は新しく箱から取り出した赤マルに火をつけた。
「……ルナミス帝国の法定通貨は、もはやただの紙屑だ」
義正が紫煙を吐き出しながら、卓上にルナミスの金貨を無造作に放り投げる。
チャリン、と虚しい音が響いた。
「俺たちがゴルド商会を通じて圧倒的な品質の物資をバラ撒いた結果、帝国の富はすでにこの村へと一極集中している。だが、いつまでも他国の通貨に乗っかっているようじゃ、真の『独立国家』とは呼べねぇ」
「で、どうするんじゃ、資本の修羅殿?」
ソファに寝そべりながら愛銃の手入れをしていた信長が、狂犬の牙を覗かせてニヤリと笑う。
「決まってる」
義正が、ポケットから飴玉を取り出し、口に放り込んだ。
『ガリィィィッ!!』
静寂な地下室に響く、残酷な破砕音。
それが、彼が商社マンとしての『全開の殺意』を解放した合図だった。
「俺たち自身の通貨を発行する。……蘭」
「準備完了してるよ、義正」
蘭がキーボードを叩くと、モニターの前に四種類の眩い硬貨のホログラムが投影された。
「ポポロ村の独自通貨、『ポポロ・ゴールド(PG)』。
金貨1枚=10,000 PG。
銀貨1枚=1,000 PG。
銅貨1枚=100 PG。
そして、小額決済用の銅粒=1 PG。」
蘭が、チュッパチャプスを舐めながら淡々と解説する。
「地球の偽造防止技術と、私の組んだブロックチェーンを完全に融合させたハイブリッド通貨だよ。物理的な偽造は1000%不可能だし、すべての金の流れ(トランザクション)はこの地下司令室で完全にトラッキングできる。つまり……」
「この通貨が流通すればするほど、俺たちが周辺諸国の『心臓(経済)』を完全に握り潰せるってことだ」
義正が、獰猛な鮫のような笑みを浮かべた。
モニターの前に立っていた輝夜が、静かにそのホログラムを見つめている。
「……ルナミスとアバロンの悪徳貴族たちが、ポポロ村の物資を買い占めようと動いているわね」
「あぁ。あいつら、自分たちの特権にあぐらをかいて、民を搾取して肥え太った豚どもだ。俺たちの出した薬や食料を買い占めて、さらに民衆に高く売りつけようと企んでやがる」
義正の目が、氷のように冷たく細められた。
「だから、あいつらからケツの毛一本残さずむしり取ってやる。空売りと為替操作で、奴らの全財産を『紙屑』に変える」
軍隊を使った血みどろの戦争ではない。
数字と情報の暴力で、一国の支配層を経済的に惨殺する『通貨戦争』の開幕だった。
「……えげつない連中じゃのう。俺の出番はなさそうじゃ」
信長が呆れたように肩をすくめる。
「そう言うな。おどれには、あいつらが全財産失って暴動を起こした時の『処理』を頼む」
「チッ、人使いの荒いこっちゃ」
輝夜は、ふっと息を吐き、モニターから目を逸らした。
「……私は、村の視察に行ってくるわ。キャルルちゃんと『鬼龍』でご飯を食べる約束をしているの」
「あぁ。表の光(平和)は、お前が守ってくれ。裏のドブ浚いは、俺たちプロフェッショナルが完璧に終わらせておく」
義正の言葉に、輝夜は小さく頷き、地下司令室を後にした。
重い防音扉が閉まり、再び密室に静寂が戻る。
「さて……殺るか」
義正が、モニターに映るルナミスとアバロンの相場チャートを睨みつける。
蘭の指が、キーボードの上で残像を残すほどの速度で踊り始めた。
地上では、輝夜とキャルルが龍魔呂の作る温かい肉じゃがをつつつく、平和で優しい時間が流れようとしている。
だがその足元、光の届かない深い地下の底では。
国家の経済を跡形もなく喰い殺す、極悪非道な三人の裏方たちによる『最凶の経済蹂躙』が、無音のまま、確実に始まろうとしていた。




