EP 9
練馬の狂犬 vs 処刑人(防衛戦)
『ギュイィィィィンッ……!!』
漆黒のアーマーに搭載されたガトリングガンが、けたたましい駆動音を立てて回転を始める。
銃口の先にあるのは、ポポロ村の生命線である動力炉。
「させねぇよ、大将ッ!!」
義正が蘭のタブレットのスクリーンを激しく叩き割る勢いでスワイプする。
瞬間、動力炉の前に、地球の最新鋭防衛システムによる『多重光学シールド』が何十枚も展開された。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
毎分六千発の弾幕が、シールドに直撃する。
並の軍隊なら一瞬で蒸発するその猛烈な火力を、義正はシステムへの莫大なエネルギー(ポイント)の過剰供給によってギリギリで相殺していた。
「チッ、弾薬の概念すら無視して撃ち続けやがる……! どんなチート兵器だ! おい信長、シールドが保つのはあと数十秒だぞ!」
「十分じゃあッ!!」
爆炎と土煙を切り裂き、信長が地を這うような低い姿勢でDEATH4の懐へと飛び込んだ。
(親父ィ、アンタのしごきに初めて感謝するわい!)
信長は、かつて父・真一に叩き込まれた『北辰一刀流』の極限の歩法と、レンジャー部隊のCQCを融合させた変則的な動きで、ガトリングの弾幕を紙一重で躱していく。
狙うは、アーマーの死角。
いくら火力がデタラメでも、中に入っているのは人間だ。関節部やセンサー系に衝撃を与えれば、動きを止めることはできる。
「オドレ、目を覚ませやッ!!」
信長が特殊警棒をフルスイングし、アーマーの膝裏の関節部に強烈な打撃を叩き込む。
『ガギィィィィンッ!!』
硬質な金属音が響くが、DEATH4はビクともしない。
それどころか、装甲から噴き出す『赤黒い闘気』が信長の打撃の威力を完全に無効化し、逆に強烈な反発力となって信長の腕を弾き飛ばした。
「ぐっ……! やっぱ物理じゃ無理か!」
信長が舌打ちをして後ろに跳んだ直後、DEATH4が右手に握ったKorthの銃口が、信長の脳天を正確に捉えた。
絶対的な死の照準。
だが、引き金が引かれるコンマ数秒前。
「閃光弾ッ!!」
信長が腰から引き抜いた手榴弾を投げつける。
強烈な閃光と爆音がDEATH4の視界と聴覚を奪う。
同時に、義正が上空から村の作業用ドローンを何十機も特攻させ、アーマーの視界を物理的に塞いだ。
「あのバカウサギと違って、俺たちは裏方が本業だからな……! 力押しじゃ勝てねぇなら、盤面をコントロールするまでだ!」
義正が汗まみれの顔で、赤マルを咥え直す。
光と煙の中で、DEATH4の動きがピタリと止まった。
「……よし、今なら!」
信長が再び肉薄し、アーマーの動力ケーブルを引き抜こうと手を伸ばす。
しかし。
煙の中から、赤黒いオーラを纏った巨大な『腕』が、信長の首を掴んで軽々と持ち上げた。
「が、はッ……!」
「信長!?」
閃光も、目眩ましも、DEATH4には全く効いていなかった。
『鬼王の指輪』の闘気は、視覚や聴覚の異常すらも無効化していたのだ。
宙に吊るし上げられた信長の目の前で、漆黒のバイザーの奥にある『死んだ瞳』が、一切の感情を持たずに彼を見つめている。
(……くそっ。さっき店で飲んだ時の、あの隙のねぇ歩法の方がよっぽど怖かったわい)
信長は首を絞められながらも、薄く笑った。
今の龍魔呂は、ただの暴走する力に過ぎない。武術の理合いも、急所を突く冷酷さもない。
だが、その『ただの力』が、あまりにも規格外すぎた。
「……う、あ……ッ」
ミシミシと、信長の首の骨が軋む。
義正がシステムを操作してシールドで龍魔呂を押し潰そうとするが、赤黒い闘気がすべてを弾き返してしまう。
殺さずに止める。
その縛りがある以上、信長と義正の二人がかりでも、この化け物を鎮圧することは不可能だった。
もはや、万策尽きた。
信長の意識が遠のきかけた、その時。
「……龍魔呂さん。もう、いいの」
硝煙と砂埃が舞う戦場に。
凛とした、しかしどこまでも優しく、透き通った声が響いた。
『ギ……?』
DEATH4の動きが、わずかに止まる。
信長の首を掴んだまま、ゆっくりと声のした方へ振り向いた。
そこには。
銃弾が飛び交い、炎が燃え盛る荒野を、一切の防具も持たずに歩いてくる一人の女性がいた。
日野輝夜。
彼女は、自分に向けられたKorthの銃口から逃げることも、怯えることもなく、ただ静かに、一直線に、漆黒のアーマーへと歩みを進めていた。




