EP 3
初めてのガチャと、夜の襲来者
「よし、これでちょうど100ポイント!」
村中の薪を割り、壊れた柵を直し、井戸の周りを掃除して。
日が暮れる頃には、私たちの累計ポイントは『100pt』に達していた。
「みんな、お疲れ様。塩、買おうか」
私が電子ボードを操作しようとすると、蘭がスッと横から手を伸ばしてきた。
「待って輝夜。さっきシステムを解析してたんだけど、面白いタブを見つけたの」
「面白いタブ?」
蘭が指差した先には、虹色に点滅するアイコンがあった。
【地球ランダムガチャ:1回 100pt】
「が、ガチャ……!?」
「そう。100ポイント消費で、地球のアイテムがランダムで排出されるみたい」
蘭の瞳が、AIエンジニア特有の好奇心でギラギラと輝いている。
「塩を堅実に買うのもいいけど、ここは検証も兼ねてガチャを回すべきだと思う」
「いや待て! 俺たちは今、腹ペコなんだぞ!」
義正が必死に算盤を振って抗議する。
「リスクとリターンが釣り合ってない! 確率表示もないガチャなんて、投資対象としては最悪だ!」
「義正の言う通りじゃ。塩結びでもいいから、わしゃ塩が舐めたい!」
信長も猛反対だ。
だが、蘭はすでにガチャのボタンに指をかけていた。
「輝夜は、どう思う?」
「え? うーん……」
私は少し考えてから、クスッと笑った。
「なんだか、お祭りみたいで楽しいかもね」
「輝夜まで!?」
義正の絶叫をよそに、蘭が「ぽちっ」とボタンを押した。
電子ボードが激しく発光し、ファンファーレが鳴り響く。
光の中から、コロンと何かが転がり出た。
「おっ!? なにが出た!?」
「すわ、伝説の聖剣か!?」
義正と信長が身を乗り出す。
光が収まり、そこに現れたのは――。
【排出結果:100円ショップのタワシ(亀の子型)】
「…………」
「…………」
全員が、無言になった。
手のひらサイズの、見慣れたチクチクしたタワシ。
「……蘭。おどれ、表に出ぇ」
「ご、ごめんなさい! 乱数調整に失敗したみたい!」
信長が怒りの形相で蘭の首根っこを掴む。
「あはは……まあ、お鍋を洗うのに使えるし」
「輝夜、お前は甘すぎるぞ!」
義正が頭を抱えてしゃがみ込んだ。
結局その夜は、味のしない芋スープをもう一度飲むことになった。
◆ ◆ ◆
深夜。
村人たちが寝静まり、私たちも藁のベッドで横になっていた時のことだ。
『ズシン……、ズシン……』
遠くから、重い地響きが聞こえてきた。
かすかに聞こえていた虫の音が、ピタリと止む。
「……信長君」
「ああ、起きとる」
信長がすでに跳ね起き、窓の外を睨んでいた。
その横顔には、レンジャー部隊で培った鋭い警戒心が張り付いている。
「義正、蘭。起きろ」
「なんだ……地震か?」
目をこする義正の声が、突如として響いた爆音にかき消された。
『ドゴォォォォォォン!!』
宿屋から少し離れた民家が、一撃で吹き飛んだのだ。
「ヒィィィッ! ロックバイソンだぁぁっ!!」
村人の悲鳴が夜闇を引き裂く。
窓から外を見た私たちは、言葉を失った。
月明かりに照らされていたのは、軽トラほどの大きさがある巨大な牛の魔獣。
しかも、その岩のように硬い角は血に濡れ、目は赤く血走っていた。
「狂暴化しとる……! ここら辺の生態系じゃ、あんなサイズはおらんはずじゃ!」
信長が叫ぶ。
「輝夜、逃げるぞ! あれは俺たちの手に負える相手じゃない!」
義正が私の腕を引く。
確かに、今の私たちには魔法も闘気もない。武器すらない。
だが。
「うわぁぁぁん! お母さーん!!」
吹き飛んだ民家の瓦礫の近くで、小さな女の子が泣き叫んでいた。
ロックバイソンが、その巨体を女の子へ向ける。
「……っ!!」
考えるより先に、私は窓から飛び出していた。
「輝夜!?」
背後で仲間たちの叫び声が聞こえる。
私は瓦礫につまずきながらも、全速力で女の子の元へ走った。
抱きかかえ、背中を向ける。
『ブォォォォォォッ!!』
背後に、死の気配が迫る。
圧倒的な暴力が、私たちをすり潰そうと振り下ろされた。




