EP 2
エリートたちの異世界適応力と、謎の『善行ポイント』
ポポロ村の宿屋兼食堂は、酷い有様だった。
屋根には穴が開き、隙間風が吹き込んでいる。
「すまねぇな、異邦人さんたち」
村長を名乗る老人が、力なく頭を下げた。
「出せるのは、この干びた芋のスープだけだ」
「いえ、助かります。ありがとうございます」
私は木の器を受け取り、スープを口に含んだ。
……塩気もない。ただ泥臭いお湯のようだ。
栄養状態は最悪と言っていい。
「輝夜、これカロリー低すぎ。脳が働かない」
蘭がテーブルに突っ伏した。
「義正、どう見る?」
「最悪だな。物流も経済も完全に死んでる」
義正は村を観察しながら、算盤を弾いていた。
「だが、悲観してる暇はないぞ」
信長がスープを一気飲みして、立ち上がる。
「まずは宿代と飯代じゃ。働いて返すぞ」
私たちは顔を見合わせて、頷いた。
日本の裏で激務をこなしてきた私たちだ。
現状を嘆いて立ち止まるような人間は、ここにはいない。
◆ ◆ ◆
「村長さん、お皿洗い手伝いますね」
「えっ? いや、お客人にそんな……」
「いいんです。私、こういうの得意なので」
私は厨房に入り、井戸水で木のお皿を洗い始めた。
冷たい水が、心地いい。
農林水産省の視察で、農家のお手伝いをしたのを思い出す。
「よし、これで全部ですね」
最後のお皿を拭き終わった、その時だった。
『ピロンッ!』
頭の中に、軽快な電子音が響いた。
「えっ……?」
私の目の前の空中に、半透明の光る板が現れたのだ。
【善行を確認しました:お皿洗い】
【善行ポイント:1pt 獲得】
【現在の累計ポイント:1pt】
「な、なにこれ……?」
私が固まっていると、背後から蘭がひょっこり顔を出した。
「輝夜、なにそのホログラム画面?」
「蘭ちゃんにも見えるの!?」
「見えるよ。システムUIだね。ちょっと触らせて」
蘭が空中の板を、指でスワイプする。
「おっ、反応する。……ええと、なになに?」
「……『地球ショッピング』?」
画面の端に、そんな見慣れた単語が表示されていた。
「これ、検索窓がある。……『塩』って入れてみるね」
蘭が空中のキーボードを叩く。
すると、ズラリと商品リストが表示された。
【食塩(1kg):5pt】
【高級岩塩(100g):10pt】
【業務用コンソメ(500g):20pt】
「嘘だろ。これ、地球のネットスーパーじゃないか」
いつの間にか、義正と信長も後ろから覗き込んでいた。
「どうやら輝夜の『善行』がトリガーになってるみたい」
蘭が目を輝かせて、分析結果を口にする。
「良いことをすればポイントが貯まる。そのポイントで地球の物が買えるんだ」
「なるほど。つまり……」
義正が、ニヤリと笑って算盤を鳴らした。
「俺たちがこの村のために働けば、地球の物資で無双できるってことか」
その瞬間、四人の間に電撃が走った。
私たちのような実務のプロにとって、これほど分かりやすいルールはない。
「おどれら、ぼやぼやしとる暇はないぞ!」
信長が腕まくりをして、厨房から飛び出していった。
宿の裏手へ行き、置いてあった斧を手に取る。
「おらぁっ!!」
信長の北辰一刀流の鋭い一撃が、薪を粉砕する。
『ピロンッ!』
【善行を確認:薪割り】
【善行ポイント:2pt 獲得】
「義正! もっと仕事を探せ!」
「言われなくてもやってる!」
義正は村の通りに出て、道端のゴミを拾い集めていた。
『ピロンッ!』
【善行を確認:ゴミ拾い】
【善行ポイント:1pt 獲得】
「ふふっ、みんな現金なんだから」
私は笑いながら、布巾を手に取って宿屋のテーブルを拭き始めた。
チリン、チリンと、ポイントが貯まる音が心地よく響く。
「まずは塩を買って、美味しいスープを作ろうか」
無能と追放された異世界で。
私たちのシュールで泥臭いポイント稼ぎが、幕を開けた。




