EP 10
月見酒と、終わらない国造り
ルナミス帝国の近衛騎士団は、完全に「陥落」した。
「……美味い、美味すぎる。こんなものを毎日食べているのか」
「あの黒い服の男(信長)の強さも、この食事が源泉に違いない……!」
泥だらけの騎士たちが、武器を放り出して豚汁とおにぎりを頬張っている。
空を飛ぶ飛竜たちすら、地球の高級ペットフード(大型犬用無添加ささみ)の虜になり、蘭にすり寄ってゴロゴロと喉を鳴らす始末だ。
「よし、お前たち。怪我の治療が済んだら、国へ帰れ」
義正が、傷薬(ポポロ村製)を渡しならが告げた。
「皇帝に伝えておけ。ポポロ村はいつでも『取引』に応じると」
キュロスは立ち上がり、深く、深く頭を下げた。
「この御恩、決して忘れない。我々は、真の『強さ』と『誇り』を知った」
「必ずや、皇帝陛下に真実を奏上しよう」
彼らはもはや、侵略者ではなかった。
輝夜の『無償の愛』に触れ、完全に教化されたポポロ村の伝道師である。
◆ ◆ ◆
数日後。
ルナミス帝国は、内側から完全に崩壊した。
「ポポロ村に行けば、病気も治って美味い飯が食えるぞ!」
「キュロス団長も『あそこは神の国だ』と仰っていた!」
「QR決済の履歴なんて監視される窮屈な国はもうたくさんだ!」
帝国境からポポロ村へ向かって、数万人規模の「移住希望者」の大行列ができていた。
玉座の間で、マルクス皇帝と内務官オルウェルは、空っぽになりつつある首都を見下ろして呆然と立ち尽くしていた。
武力で制圧しようとした結果、最強の軍隊が寝返り、民衆も去っていく。
大衆消費社会のシステムが、圧倒的な『善行(倫理)』の前に完全に敗北した瞬間だった。
◆ ◆ ◆
「ふふっ。なんだか、霞が関の官舎を思い出すわね」
ポポロ村――いや、新たに建国された『ポポロ独立特別行政区』の中央広場。
美しい満月の下、私は自作の備前焼のぐい呑みに、地球から取り寄せた極上の純米大吟醸を注いだ。
「本当じゃのう。まさか異世界に来てまで、こんな大仕事をさせられるとはな」
信長が、巨大な特選和牛のステーキを焼きながら笑う。
「でも、悪くないでしょ? 蘭ちゃん」
「うん。世界のパズルを書き換えるの、最高にエキサイティング」
蘭は片手にケーキ、片手にタブレットを持ちながら、空中に展開された『999,999pt』でカンストしている電子ボードを眺めている。
「……で? 次はどうするんだ、輝夜」
義正が、赤マルを吹かしながら私を見た。
「帝国の連中が大量に押し寄せてきてる。このままじゃインフラがパンクするぞ」
「もちろん、全員受け入れるわ」
私は、月を見上げて微笑んだ。
「地球の最先端技術と、私たちの知識。そして、みんなの善意があれば、この星を丸ごと一つの『笑顔の共同体』にできるはずよ」
「規模がデカすぎる。……だが、算盤の弾き甲斐はあるな」
義正が飴玉をガリッと噛み砕く。
信長が、新しい銃の手入れをしながら獰猛に笑う。
蘭が、魔法世界の根源システムのハッキング準備を始める。
私たちは、最強のチームだ。
日本という巨大な国家の裏で、論理と物理と経済を回してきたプロフェッショナル。
「みんな、明日もよろしくね」
「「「応!」」」
夜空に昇る月が、迷うことなく私たちを照らしている。
異世界の常識をことごとく塗り替え、誰もが笑って酒を飲める理想郷を作るまで。
国家の裏方四人組による、規格外の国造りは終わらない。




