EP 6
激怒の皇帝と、武人の出陣
「……余の築き上げた『秩序』が、たかが映像一つで揺らいでいるだと?」
ルナミス帝国・玉座の間。
マルクス皇帝の低く重い声が、広大な空間を震わせた。
「も、申し訳ございません! 直ちに通信網を物理切断し、暴動を鎮圧します!」
内務官オルウェルが、冷や汗を流しながら平伏している。
帝国の首都は今、ポポロ村の物資を求める民衆と、それを統制しようとする憲兵とでパニック状態に陥っていた。
「情報と経済で国を揺さぶるか。なるほど、奴らは異なる『文明』を持っているようだな」
マルクスは、玉座から立ち上がった。
百年前の『100円ショップスキル』がもたらした恩恵で、周辺国を飲み込んできたルナミス帝国。
彼は直感していた。
ポポロ村の異邦人たちは、単なる野盗ではなく、帝国を根底から覆す『未知の病原菌』であり『強力な鉄』を持っていると。
「……キュロスを呼べ」
「はっ!」
数分後、重厚な甲冑の音を響かせ、一人の偉丈夫が玉座の前に進み出た。
近衛騎士団長、キュロス。
幾多の戦場を潜り抜け、帝国の武を体現する最強の闘気使いだ。
「陛下、お呼びでしょうか」
「キュロスよ。辺境のポポロ村を、物理的に殲滅せよ」
マルクスの冷酷な命令に、キュロスは静かに頭を下げた。
「情報戦で敗れた今、残された手は『暴力』による完全なる抹消のみ。飛竜騎士大隊と魔導戦車部隊を率い、灰一つ残すな」
「御意に。帝国の刃として、速やかに異物を排除してご覧に入れます」
キュロスの瞳に、武人としての鋭い光が宿る。
彼は知っていた。戦争とは、綺麗事ではない。
国家の存亡を懸けた、極限の生存競争であることを。
◆ ◆ ◆
「輝夜、義正。レーダーに大型の熱源反応あり」
ポポロ村のテント内。
蘭がタブレットの画面をスワイプし、空中に赤い光点群を投影した。
「空から五十、地上から二十。真っ直ぐこっちに向かってきてる。たぶん、帝国の本隊だよ」
「……なりふり構わなくなったか。皇帝も随分と焦っているようだな」
義正が算盤を置き、赤マルを咥えた。
「防空ミサイルで撃ち落とすか?」
「いや、待て」
信長が、プレハブ小屋の壁に立てかけてあった巨大な金属製の箱を手に取った。
ガチャで引き当てた、特殊な武装コンテナだ。
「ここから先は、俺の仕事じゃ」
信長の顔から、いつもの軽口が消えていた。
彼の目は、レンジャーとして極限の死地を潜り抜けてきた『狂犬』のそれに変わっている。
「帝国の最強部隊じゃろう? ならば、力でへし折ってやらんと後々面倒なことになる」
「信長君……無理はしないでね」
「安心せい、輝夜」
信長はコンテナを背負い、夜の闇が迫る村の外周へと歩み出た。
「親父に叩き込まれた『地獄』に比べれば、異世界のお遊戯なんぞ、あくびが出るわ」
防衛フィールドの外側。
泥と土に塗れた荒野で、信長は一人、帝国の軍勢を待ち構える。
空を覆い尽くす飛竜の羽音と、大地を揺らす魔導戦車の駆動音が、確実にポポロ村へと接近していた。
現代戦術の極致と、ファンタジー世界最強の武人。
両者のプライドを懸けた、凄惨なタイマンの幕が切って落とされようとしていた。




