EP 5
電脳魔導のジャックと、天使のコマーシャル
ルナミス帝国の首都。
巨大な魔導スクリーンが立ち並ぶ、不夜城の中心街。
人々は魔導通信石を片手に、動画配信サービス『T-TUBE』を楽しんでいた。
決済はすべて『L-Pay』。
完全なデジタル管理社会。
それが、マルクス皇帝と内務官オルウェルが築き上げた絶対の秩序だ。
だが、午後三時ちょうど。
帝国全土の『秩序』が、一瞬にして崩壊した。
『ザザッ……ピーーーッ!!』
「えっ? なんだ?」
「通信石の画面が、真っ黒に……!」
首都の巨大スクリーンも、民衆の持つ通信石も。
すべての画面が強制的に切り替わった。
ハッキングによる、帝国全土の電脳ジャックだ。
画面に映し出されたのは――。
『帝国の皆さん、こんにちは!』
可憐な笑顔を浮かべる、一人の女性だった。
日野輝夜だ。
背後には、太陽の光を浴びて青々と茂る農園が見える。
『最近、お腹の調子はどうですか? 疲れは溜まっていませんか?』
『私たちはポポロ村。皆さんの健康と笑顔を第一に考えています』
「な、なんだあの女?」
「ポポロ村って、辺境の……?」
困惑する民衆をよそに、画面の輝夜は『ポポロ・ジャーキー』と『陽薬草エキス』を取り出した。
『最高品質のお肉と、どんな傷も癒やすお薬』
『ゴルド商会を通じて、いつでも、誰にでも、お安くお届けします!』
『皆さんが、美味しいご飯を食べて笑い合えますように!』
輝夜が満面の笑みで手を振ると、画面の端にQR決済用の魔導紋様が表示された。
『ここから直接、注文と決済ができますよ!』
その瞬間。
首都の広場が、爆発的な歓声に包まれた。
「あれ、噂の特効薬じゃないか!」
「しかも帝国のポーションの十分の一の値段だぞ!」
「買え! 売り切れる前に急いで買え!!」
民衆が狂ったように通信石をタップし始めた。
◆ ◆ ◆
「ば、馬鹿なッ!!」
内務省の地下。
オルウェルの怒号が響き渡った。
「なぜだ! なぜ通信網が乗っ取られている!」
「ポポロ村の通信は物理的に遮断したはずだぞ!」
部下たちが青ざめた顔で魔導盤を叩く。
「だ、駄目です! 管理者権限が完全に奪われています!」
「民衆からの注文と送金が、秒間一万件のペースでポポロ村へ流出しています!」
「止まりません! 帝国の資金が、根こそぎ吸い上げられていきます!」
オルウェルは血走った目でスクリーンを睨みつけた。
画面の端に、可愛らしいウサギのアイコンと、短いメッセージが表示されていた。
『パスワードが「1234」とか、異世界のセキュリティ甘すぎ♡ ――特A級ハッカーより』
「お、のれぇぇぇっ!! 異邦人の分際でぇぇっ!!」
常に冷静沈着だったオルウェルの顔が、屈辱と怒りで醜く歪む。
彼の完璧な監視社会は、月給三億円の天才エンジニアの前に、完全に敗北したのだ。
◆ ◆ ◆
「あははっ! チョロすぎ。帝国サーバー、完全陥落だよ」
ポポロ村のテントで、蘭がケラケラと笑う。
『ピロロロロロロロロロンッ!!!』
【特大の善行を確認:数百万人の民衆への医療・食料の直接提供】
【情報公開による社会的貢献ボーナス獲得!】
【累計ポイント:150,000pt(爆発的増加中)】
義正の算盤が、火を吹きそうな勢いで弾かれている。
「素晴らしい。CM効果で利益が百倍になったぞ」
「維持費なんて一瞬でペイできた。まさに最強のインフラだ」
「うう……なんだか、すごく恥ずかしかったんだけど……」
CMに出演させられた私は、顔を真っ赤にして両手で頬を押さえていた。
そんな私を見て、信長が大笑いする。
「ええ顔しとったぞ、輝夜! これで帝国の民は全員、おどれの虜じゃ!」
武力ではなく、圧倒的な技術と経済による侵略。
私たちは、指先一つで、ルナミス帝国に大打撃を与えたのだった。




