第8話 楽しみだ
レベル三十台程度なら、魔物はたいして強くはない。
いや、むしろ弱いと言って良いぐらいだ。
だからこそ俺も、ヒールブーストがあるとはいえレベル一でやって来たのである。
今の俺なら問題ないと判断し。
なので同じレベル帯の前衛クラスなら、一対一の戦いで負けるような事はまずない。
それどころか、怪我をする事すら稀なレベルの相手だ。
だがそれでも、一撃で倒せるかと言われれば、一般的な覚醒者ではまず無理だろう。
オークは耐久力が高い方だしな。
そんなオークを三体、俺は全て一撃で屠って見せた。
これならメルゴも文句のつけようが無いだろう。
「すげぇ……すげぇよ!おいジーク!お前マジか!!」
メルゴの奴が興奮気に叫びながら駆け寄って来る。
そして俺の両肩を掴んだ。
その行動から敵意は一切感じないが、まあ一応、攻撃して来たら反撃する準備だけしておく。
「一体どうやってこんなに強くなったんだ!?」
「ん、まあ努力と才能だな」
「努力……努力か。そっかぁ、お前努力したんだな」
ワードとしては才能部分の方が重要だったのだが、そっちはスルーされてしまう。
まあいいけど。
「ジーク、お前はスゲェよ。普通ヒーラーなんかになったら、ハンターになるのは諦めるもんだ。それを諦めずに努力して、こんなに強くなっちまうんだからよ」
「まあ母さんの事があるからな。諦める訳にはいかなかっただけだ」
もちろんなくても、問答無用で鍛えまくってたけどな。
何故なら、俺の目標は圧倒的最強だから。
そのための努力を惜しむ気はない。
「そっか。ジーク、お前を見てたらなんか勇気が湧いて来た。俺も頑張ってみようと思う」
すがすがしい笑顔でメルゴがそう宣言する。
これは逆に言うと、今まで全然頑張ってこなかったと言うのに等しい。
ゴミみたいな白状である。
努力しない奴は基本的にムシケラぐらいにしか思わないので、俺の評価ではメルゴはほぼゴミだ。
まあこれから頑張るって言ってるので、完全にゴミって訳ではないが。
「お前、俺の弟の事は知ってるよな?」
「ああ」
メルゴの弟、ヒューゴ。
彼は覚醒者であり、そしてユニークスキル持ちでもあった。
そしてその事が評価され。今は六英雄の建てた英雄学園の一つへと通っている。
「弟は小さなときから凄かった。俺なんかじゃかなわない程にさ」
「ああ、まあ優秀だったな」
特段、メルゴが無能な訳ではなかった――一般論での評価な。
が、弟の方と比べるとどうしても見劣りする。
ユニークスキル云々抜きししても、ヒューゴは神童と呼ばれるぐらい天才だったからな。
「そんな弟と自分を比べて、俺はなんて駄目な男なんだっていつも思ってたんだ。どうせ俺なんかってさ。だからハンターになってからも、だらだら金の為だけに狩をしてた。けど……努力して成長したお前を見て考えが変わったよ。俺も努力する!」
メルゴが目をキラキラさせながらそう言う。
落伍者だと思っていた俺にも出来たんだから、自分だって、とか思ったんだろうな。
正直なところ、こいつが俺の様に急成長を遂げるのは難しいだろう。
というかほぼ無理だ。
俺は天才で、前世があるからこそな訳だからな。
けど、やる気を出してる奴に水を差す必要はない。
ひょっとしたら努力が実って、いずれ傑物に成長する可能性だって0じゃない訳だからな。
だからここは素直に応援してやるとしよう。
「そうか……じゃあ俺から一つアドバイスしてやる」
「頼む」
「体を鍛えて、その上で戦闘訓練をしろ。レベルに頼った強さだけじゃ、早い段階で行き詰まる。だから訓練して地力を上げるんだ。そうすればレベル相応の強い魔物とも戦えるようになって、自然とレベルも上げやすくなる」
これは二十年前、俺が死ぬ前から言われている事だ。
実際、上に上がってくる様な奴らは大なり小なりこれを実践してる。
だが悲しいかな。
確かな結果が出ているにも係わらず、殆どの奴らは地力を軽んじていた。
レベル上昇による、強化の方が遥かに分かりやすい物だからだ。
人間ってのは、分かりやすく容易いもに流れる生き物だから、まあしょうがないっちゃしょうがないんだが……
まあ後、上を目指そうって気概が無いってのもあるんだろうな。
程々でいいんなら、苦しい訓練なんかわざわざしなくても、格下を叩いてぼちぼちレベル上げするだけで十分だし。
「訓練か……弟の手紙にさ、英雄学園ですっげー厳しい訓練を受けてるってあったんだ。訓練した方が良いってのはもちろん俺も知ってたけど、レベルを上げた方が手っ取り早いじゃんって……俺、そう思ってた。でも違うんだな」
英雄学園ではちゃんと訓練を実行しているようだ。
まあ上を目指すべく、ユニークスキル持ちを集めてる様な教育機関だからな。
当たり前と言えば当たり前か。
――アイツらも、努力して上に上がってきた奴らだったしな。
かつて共に戦った六人の事を思い出す。
俺を裏切った理由はこの際どうでもいいが、なぜあいつらが態々それぞれの名を関した教育機関を作ったのか。
それが気になる。
下を育てる事に興味を持った?
俺の知る奴らは、そういった類の人間じゃなかった。
だが、所詮は裏切られるまでその事に気づかなかったま抜けの評価だからな。
ひょっとしたら俺が気づかなかっただけで、そういう願望があったって事も十分あり得るか。
だが、もし……そう、もし、下の人間を育てなければならないのっぴきならない理由があったとしたら?
それは強大な敵の出現を意味している。
世間的に知られていない、あの六人が必死になって下を育てる羽目になる敵。
もしそんな奴が存在するなら――最高じゃないか。
俺はかつてより強くなる。
そんな俺の力を試す相手としては上々だ。
たとえ強くなっても、全力で戦える相手がいないんじゃ肩透かしもいい所だからな。
ま、その辺りはいずれあいつらに報復がてら聞くとしよう。
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