第9話 一般魔法
「そこそこでいいんなら、訓練は非効率的だ。けど本気で上を目指すんなら地力は必要不可欠。本当に強くなりたいなら、死ぬ気で体を鍛えろ」
「分かった」
俺の言葉にメルゴが力強く頷く。
やる気はありそうだ。
このやる気が続く事を祈ろう。
メルゴがどこまで強くなれるかは、他ならぬこいつ次第だからな。
頑張れよ……
俺にとっては強さが全てだ。
まあ、今の俺にはそれ以外にも家族との関係とかも重要な訳だが、根本は強さである。
だから強くなりたいって本気で思ってる奴は、嫌いじゃない。
「ああそれと……訓練の際は、出来るだけポーションを使え」
「ポーションを?」
俺の言葉にメルゴが眉を顰める。
理由が全く分からないって感じだな。
まあ、これまでだらだら生きて来たならしょうがないか。
「訓練ってのは、ダメージが発生する物だ。肉体を酷使する訳だからな。それを続ければ、目に見えないダメージは確実に蓄積されていく。まあゆっくり休めば回復する訳だけど、そんな物を悠長に待ってたら効率が悪くなる。だからポーションを使ってダメージを回復させるんだよ」
訓練した翌日に体が痛くて、なんて事があるだろう。
あれは疲労や、訓練で発生した内部のダメージが回復しきっていない証拠だ。
当然そんな状況で訓練しても効率は大幅に下がる。
だから回復させるのだ。
「どれぐらいの頻度で使えば良いんだ」
「多ければ多い程良い……ってのは適当過ぎるか。まあ最悪でも、一日一本は飲め」
「一日一本か……」
メルゴが困った様な顔になる。
まあポーションは、下級な物でもそこそこな価格になるからな。
高すぎて使えない程じゃないが、それでも毎日の様に垂れ流すとなると、低ランクハンターにはそこそこ大きな負担となるだろう。
それでも、使うか使わないかで大きな違いが発生する以上、本気で上を目指すなら必須だ。
かくいう俺も、鉱山労働時代は頻繁に回復魔法を使ってたからな。
「高くても使え。むしろ、その金を稼ぐためだけにダンジョンで狩りをする気で行くんだ」
レベルも上がり、訓練効率も上がる。
なので良い事尽くめだ。
我ながら完璧なアドバイスと言えよう。
「まあ、回復魔法が使えるならポーションは必要ないが……メルゴは使えるか?」
この世界には魔法がある。
覚醒者がクラスとレベルによって取得できる物とは、別系統の魔法だ。
その中には回復魔法も、攻撃魔法もあった。
なので、回復魔法を覚えればポーションなしでもダメージを癒す事は可能である。
因みに、覚醒して習得する魔法と、学んで覚える魔法の間には大きな違いがある。
それは効果や威力などではない。
その違いとは――そう、詠唱だ。
一般的な魔法は詠唱が必要不可欠。
簡単な魔法ですら数秒程必要で、しかも集中力が少しでも欠ければ失敗する様な繊細な物となっている。
なのでとてもではないが、戦闘中に使えるような物ではない。
ヒーラーが攻撃魔法を覚えて戦わないのもそのためだ。
呑気に詠唱してる間に、魔物にぶっ飛ばされちまうからな。
ま、安全な場所で回復魔法を使う分には問題ないので、訓練の回復に使う分には問題ないが。
「ああいや、魔法は相性が悪くってよ……」
メルゴが、ばつが悪そうに頭をかいた。
相性が悪いってのは、要は勉強が苦手って事だ。
魔法はかなりの情報を頭に納めないと駄目だからな。
勉強が苦手な奴には難しい。
「まあ回復魔法が使えないなら、頑張ってポーション代を捻出するしかないな。本気で強くなりたいなら……だが」
それをケチるようなら、まあそこまでだったってだけだ。
流石に俺がそこまで気にしてやる必要はない。
「俺は本気で強くなりてぇ。頑張ってみ――」
「おいおい、メルゴ。俺の事を忘れてるんじゃないか」
「サックス?」
「頭脳派の俺が使う、回復魔法の事を忘れんなよ」
「俺も仲間外れにしてくれるよな」
「ダン?」
メルゴの仲間の二人が、両サイドから彼の肩に手を回す。
「お前だけ強くならせて堪るかよ」
「おう。俺達も強くなるぜ!だから回復魔法は、頭脳派の俺に任せとけ」
「お前ら……」
どうやらこの二人もメルゴと一緒に訓練を行う気の様だ。
一年も狩りをして、未だにレベル三十台の敵を狩ってると知って、何てゴミのような奴らなんだとか思ったが……なんだ、悪くないじゃないか。
たとえ弱かろうが、才能が無かろうが、強くなろうとする奴らは嫌いじゃない。
「盛り上がってるところ悪いが、前衛の覚えた回復魔法程度で、三人分は絶対賄えない。ちゃんとポーションも使え。いいな」
魔力も訓練である程度伸す事は可能だ。
とは言え、前衛にそれを求めるのは流石に効率が悪い。
「ああ。サックスの回復なんざ、殆どあてにならないからな」
「んだと!脳筋メルゴの癖に!」
「やんのか!」
「俺も混ぜろ!」
三人が戦い出した。
まあもちろん本気ではなく、じゃれつきの範疇だ。
仲間か……
今振り返ってみると、俺とあの六人の関係はもっとドライな物だった。
考えて見りゃ、俺自身が壁を作ってたんだよな。
とにかく強さと戦いこそが俺の中心だったし。
ふと思う。
ひょっとしたら、あいつらは俺が怖かったのかも。
と。
戦う事しか考えてない圧倒的強者。
あいつらからすれば、首輪のつけられない猛獣に見えていたに違いない。
そう考えると、あの状況は本当に絶好のチャンスだった訳だ。
「ふ……」
こんな事、以前の俺なら微塵も考えなかっただろうな。
やられた、じゃあやり返す。
そこで終わりだ。
こんなふうに客観的に考えられる様になれたのも、転生していろいろ経験したお陰と言えるだろう。
転生して、更なる強さに至れる可能性を得た事も。
こうして色々視野が広がった事も。
そういう意味では感謝せんとな。
ま、それでも裏切りのお返しはするけど。
どんな理由だろうと裏切りは裏切りだし、カタはちゃんとつけさせて貰う。
「ふむ……俺も暇じゃないからこれで失礼させて貰うぞ」
アドバイスはもう済んでいる。
じゃれ合いが終わるのを待つのもアレなので、俺はさっさと先に進ませて貰う。
「あ、ジーク!」
「ん?」
メルゴが、サックスとやらにヘッドロックを掛けたまま声をかけて来る。
「ありがとな!それと……お前の事、馬鹿にしてごめん」
「悪かった」
「すまん」
他の二人も、俺に謝ってきた。
「気にしてないさ」
俺は片手を上げ、その場を後にする。
まあ頑張れ。
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